5話 勇者ブレイブ
「可哀そうにねぇ」
俺が蹲っていると、ラキアが憐みの声をかけてくる。
顔を上げると、彼女の嬉しそうな嫌らしい顔が見えた。
俺はそんな彼女を怒りの形相で睨み付ける。
「あら、怖い」
彼女はお道化たように怖がって見せる。
どうやら俺が苦しむ様が楽しくて仕方がない様だ。
「さて、それじゃあ最後はブレイブね」
勇者ブレイブ。
黒髪黒目。中肉中背の18歳の若者だ。
背はそれ程高くは無いが、顔は美形で女性人気は高い。
だが女性との浮いた話等は一切聞かず。
清廉潔白な若者で、いつでもパーティーをぐいぐい引っ張るリーダシップ。
どんな時でも諦めない不屈の勇気と信念を持った、正に真の勇者と呼ばれるに相応しい人物だ。
正直彼が俺を裏切ったのは、聖女であるリーン以上に理解できない。
何故なら彼は俺を救うために命を賭けてくれた事すらあるのだ。
そんな彼が俺を裏切ると到底思えなかった。
「彼の理由はね。貴方が彼よりも強かったからよ」
「はぁ!?」
強かった?
俺が?
彼より?
「馬鹿な!俺が彼よりも強いだと!そんな訳があるか!間違いなく彼の方が俺よりも強かった筈だ!」
単純な火力ならば、確かに俺の方が上ではあった。
だが総合力で見れば彼の強さは確実に俺よりも上だ。
彼ほどの実力者なら、彼我の実力差など明確に判断できるはず。
「そうなの?でも、彼は貴方の方が強かったって本気で思ってるみたいだったわよ」
まさか本当に俺の方が強いとでも思っていたのか?
何故そんな誤解を?
「彼、言ってたわよ。勇者である自分より強い奴が居るのが我慢できないって。だから貴方を牢獄に叩き込もうって」
「そんな……馬鹿な……」
「実はあんたを牢獄に叩き込む作戦を発案したの、他でもないブレイブなのよね。私や他の皆を集めて。あんたに気づかれない様彼が主導して、こそこそ進めてたって訳よ。でもあんた、他の面子の異変に全然気づかなかったそうじゃない?それで賢者とか、ほんと笑っちゃうわ」
誤解で。
しかもそんなくだらない理由で。
あれほどの男が……俺を裏切ったと言うのか?
しかも自ら主導して……
そんな……馬鹿な……
レイラ……
イナバ……
リーン……
ブレイブ……
全員……全員が俺を裏切っていた。
ともに苦楽を共に、命がけの旅を続けた仲間達全員が……
馬鹿な……ばかな……
ばかなばかなばかな……
ばかなばかなばかなばかな……
「あら、素敵な顔ね。ご愁傷様。ふふふふ、あっはははははははははははははは」
ラキアの嘲笑が響く。
その不快な甲高い笑い声が、俺の中の何かを引き千切る。
「この糞あまぁ!!」
がんと勢いよく肩が鉄格子にぶつかる。
だが俺は構わずラキアに向けて手を伸ばした。
ミシミシと骨がきしむ音が響くが、お構いなしに肩を隙間に押し込め手を伸ばし続ける。
「あらあら、頑張るじゃないの?でも貧弱な魔導師であるあんたに、その格子が破れるかしらぁ」
ラキアは指先をくねらせ、俺を挑発してくる。
せめて……
せめてこの女だけでもと、必死に手を伸ばす。
だが世の中と言うのは残酷なものだ。
どれだけ手を伸ばそうと。
どれだけ憎しみを籠めようとも。
俺の手が彼女の元へ届く事は無かった。
「この後ブレイブとのデートがあるの。悪いけどこれで失礼させて貰うわ。じゃあ又1000年後に会いましょうね~ 」
「お互い生きてたらの話だけど」と楽しそうに言葉を締め括り。
ラキアは此方に背を向け、軽く手を振って愉快気に笑いながら去っていく。
「くそ!くそ!くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!殺してやる!!!!絶対ころしてやるからな!!」
誰も居ない広い監獄。
只俺を1000年閉じ込める為だけのその広い空間に、俺の雄叫びが虚しく響いた。
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