第6話学級崩壊ラグナロク
夏休みが始まってからもう三か月、肌寒くなってきた頃。学級全体ではもう学芸会に向けて、練習する毎日を送っていた。
「ほら、もう一度。さっきの所で、大声を出す!」
生徒たちに指示をしているのは藤ヶ谷京子、全治のクラスの委員長で全治派の一人。仕切りたがりな性格で、ガキ大将の北野ですら彼女には頭が上がらない。
「京子、いつにもまして張り切っているなあ。」
「確か僕達、【ハリーポッターと賢者の石】をやるんだよね?」
今年の四年の学年発表会はクラス全体で演目を決め、それを発表して行くというものだ。
「ああ、正直俺はああいうの興味ないんだよな・・・。」
「僕は興味あるよ、京子さんから本借りているし。」
「マジか!!やっぱり全治は凄いなあ・・。」
「そういう北野君だって、僕には無いものがたくさんあるよ。」
「全治・・・・・、やっぱりお前が大好きだ!!」
北野は全治に抱き着いた。
「じゃあ次の場面行くよ、全治君用意できてる?」
「あっ、はい」
京子に呼ばれて、全治は舞台に上がった。
その日の下校時間、全治は京子に借りてた本を返した。
「次は【ハリーポッターと不死鳥の騎士団】をお願いします。」
「わかった、それにしてもここまで興味持つなんて以外だわ。」
京子は全治の好奇心に驚いた。
「僕は何故京子さんがハリーポッターが好きなのか気になって、読んでみたけど本当に面白いね。」
「ハリーポッターって意外と好きになる人少ないと思っていたから、好きになって嬉しいわ。」
二人が校門前まで歩いていると、黒之に会った。
「おや全治君、君もモテるんだね?」
「モテるって、何?」
「全治君、知らなくていいの。」
京子は全治の腕を引っ張った、それを見た黒之は煽るように笑った。
「ワハハ、全治が女子と手つないでる!!恋愛に興味なさそうな全治くんが、らしくないことしてる!!」
全治は何故黒之が大笑いしてるのか気になったが、京子がしっかりと腕を掴むので質問できなかった。校門前に着くと、京子は全治の腕から手を離した。
「ごめんね、急にこんなことして・・。」
「いいけど、京子さんは僕のこと好きなの?」
「それはない。」
京子はそれだけ言って、校門から出た。
そして学芸会当日、全治は席について劇の台詞を見返していた。
「全治、気合入っているか?」
「うん、大丈夫。」
北野の問いに全治は頷いた。しかし予定時間になっても先生が来ない、教室にいる生徒たちは退屈と異変を感じていた。しかし全治は、凄く嫌な予感が頭の中でしていた。
「まさか・・・黒之が何か仕掛けたのか?」
その時、先生が教室に入ってきた。
「みんな、凄く残念な知らせがある。」
「先生、何があったのですか?」
全治が尋ねると、先生は答えた。
「実は体育館が何者かに占拠されました、今先生達が解決しようとしているので、みなさんは絶対に教室から出ないで下さい。」
生徒たちは騒然とした、全治はハッと何かを確信した顔になった。
「間違いなくこれは黒之だ、そんなことを考えていたなんて・・。」
全治はいてもたってもいられなくなった、そして先生がいなくなった時に全治は体育館に向かおうとした。
「おい全治、どこ行くんだよ。」
「体育館に行ってくる。」
「だめでしょ、先生が出るなって言っているんだから。」
北野と京子が全治を引き留めた。
「でも僕は行かなきゃいけないんだ、これは絶対に黒之達の仕業だ。」
「確かにあいつらなら・・、でも体育館を占拠だなんて・・・。」
「信じられないわ・・。」
「でも僕は例え相手が何だとしても、せっかくの学芸会を中止にはさせない。」
小学一年生の時、黒之の技で毒殺されかけたことで学芸会に出れなかった全治。もうあんなことは嫌だという気持ちがあった。
「全治・・・わかった、俺も連れてってくれ!」
「北野君!!何言っているの!!」
「だって皆で練習してたんだぞ、お前だって監督みたいに張り切っていたじゃないか!!」
そう言われると、京子にも思うところがあった。
「わかった、だったら私にも行かせて!!」
京子がいうと皆が「連れてってくれ!」と騒ぎだした。
「皆・・・・、ありがとう。でも全員は危険だから、北野君と京子さんに任せてくれ!」
全治が言うと、皆は頷いた。
「すぐに終わらせてくるぜ!」
「皆、先生への言い訳よろしくね。」
そして全治と北野と京子は教室を出て、体育館に向かった。
体育館前についた三人は、中から凶悪な気配がするのを感じた。
「なあ、なんか嫌なかんじだな。」
「ホント、化け物が中にいるようだわ。」
すると体育館の入り口がゆっくりと開いた、中から笑い声が聞こえる。
「きっと中に来てという事だよ。」
「上等だ、突入!!」
北野は先駆けの如く、体育館の中に入った。後に全治と京子が続く。
「うおおお!!」
すると何人かの男子が、全治と京子に襲い掛かった。
「きゃああ!!」
「危ない!」
全治は格闘家のような動きで、生徒たちを倒していった。
「そこまでよ、大人しくして!」
全治が声する方を向くと、北野がカナエに捕らえられていた。
「何だよこいつ・・強すぎる・・・。」
「カナエさん!!どうしたというの?」
京子が驚いていると、舞台から拍手しながら黒之が現れた。
「驚いたよ、てっきり全治君一人で来ると思っていたから。カナエ、そいつを離せ。」
カナエは命令通り北野を解放した。
「黒之君、どうしてこんなことしたの?」
「決まっているだろ、学校らしくないからさ。」
「どういうこと?」
「学校は学んで遊ぶところだ、劇団ではない。俺や仲間達は、学芸会なんてくだらないと思っていたんだ。」
「でも皆は、学芸会のために練習したんだよ?皆の練習を無駄にするなんて・・・、酷すぎるよ。」
「じゃあ全治君は、学芸会の意味について考えた事があるの?」
「学芸会の意味・・・・。」
「ただで芸をして対価が貰える訳じゃない、そんなの売れない芸人以上に残酷だよ。運動会だってそうだ、ただ僕たちは決められた競技をして得点を争っている。周りの【オリンピックごっこ】というくだらないゲームのために、僕達は無意味に弄ばれているだけなんだよ!!」
黒之が偏見を力強く唱えると、全治は質問した。
「じゃあ何で皆は、学芸会や運動会が近づくと盛り上がるの?」
「ん?」
「【オリンピックごっこ】だという運動会だって、売れない芸人以上に残酷な学芸会だって、今まで楽しんできたじゃないか?」
「それは過去の僕や皆が気がつかなかっただけさ、とにかくこれから私・高須黒之は同志達と共に、学校の改革を行う事を宣言する!!」
黒之が堂々と言うと、黒之派の連中が歓喜を上げた。三人はその様子に唖然とするだけだった。
「・・・戻ろう。」
「全治、体育館はどうするんだよ!!」
「今戦っても、学芸会が行われるかは分からない。ここは一旦下がろう。」
「全治、賢明な判断だ。安心して、体育館の占拠は今日だけなんだから。」
そして三人は、体育館を後にした。
全能少年「看破と転生と質問・前編」 読天文之 @AMAGATA
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