第5話コンビニの中の正義

 全治が黒之に危うく追い込まれてから三か月が経った、あれ以降全治が黒之に襲われる事は起きていない。

「黒之はクロノスの復讐を成し遂げるために、僕とゼウスを殺そうとしている。どうしてクロノスは、復讐したがるんだろう?」

 全治はこの頃、黒之やクロノスについて疑問を持つようになった。

「黒之君は学校で一番の人気者、それどころか先生ですら今では黒之に手出しできなくなってしまった・・・。ゼウスは『あれは神の力によるものだ。』と言っていた、じゃあ黒之はどうして神の力をこのように使うのだろう?」

 校内で黒之を見るたびに全治は首を傾げた、そしてその日家に帰ると祖父からお使いを頼まれた。

「おかずの材料が無くてな、悪いがコンビニで何か総菜を買ってきてくれ。」

「わかりました。」

 全治は千円札が入った小さな財布を持ってコンビニに向かった。コンビニに着くと出入り口付近で、何故か二人の男子高校生が三十代の男に絡まれていた。

「君たち、追加の税金を払わなきゃダメだろ!!」

「でも、特に法律とか関係ないし・・。」

「これは立派な脱税だ!!君たちは刑務所へ行きたいのか!!」

 うじうじする男子高校生に、男はまくし立てる。全治は男に質問した。

「どうしてあなたはこの二人に怒鳴っているの?」

「ん?君は誰だね?」

「僕は千草全治。」

「千草君、今から言うことは君には分かるまい。引っ込んでてくれ。」

 男は全治が小学生であることを理由に、鼻で笑った。

「でも僕はあの二人がどうやって脱税したのか気になるんだ。」

「・・・そこそこ理解しているようだな、じゃあ君はイートインを使うか持ち帰るかで税金が違うのは分かるか?」

「うん、確か持ち帰ると八パーセントでイートインを使うと十パーセントだよね。」

「詳しいなあ・・、じゃあどうやってあの二人が脱税したかもうわかるだろう。」

「うーん・・・?もしかして、八パーセントしか払ってないのにイートインを使おうとしたということ?」

「そうだ、つまりあの二人は二パーセント脱税したんだ!いけないだろう!!」

 男は鼻高く笑った、ここで全治は核心を突く質問をした。

「じゃあ、あの二人は懲役何年なの?」

「えっ・・・?」

「だって脱税したんだよ?重い罰を受けるはずだよね?」

 男は言葉が詰まった、ここで男子高校生の一人が言った。

「あの、今話していたことは法律で決まってないんだ。」

「本当?」

「もしそうなら、俺達店員にイートインを使うか持ち帰るか確認されているはずだ。」

 全治は店員に確認してるかどうか尋ねた、店員はしていないと答えた。

「そうか・・・法律で決まってないんだ。」

「で・・でも!彼らは法律的違反をしたんだぞ、罪が無いわけがない!!」

「じゃあ、どうして罰が無いの?」

「うっ・・。」

 野次馬が見ている中、小学生に論破されかけている男は焦りだした。

「どうしてあなたは法律で決まってない事で、この二人に怒鳴っているの?」

「正義だよ!生きていく上で、ズルはいけないという事を教えているんだ!!」

「正義って善悪関係なく人を困らせられるの?それって変じゃない?」

 全治の問いに、野次馬達は共感した。

「もういい!!」

 男は立場を失いコンビニから出ていった、全治は男子高校生や店員・野次馬から拍手を受けた。そしてお使いを済ませて、自宅に向かった。


 翌日、全治はこの事を北野達に話した。

「お前って本当に肝が座っているなあ・・。」

「大人相手に言い負かすなんて・・。」

 北野達は全治に、驚きと呆れた

「そういえば全治君が言い負かした奴、巷じゃ正義マンて言われていて一部の地域じゃ、営業の邪魔で問題になっているらしいよ。」

「そうなんだ・・・。」

 全治が感心していると、佐久間優一が全治に絡んできた。

「全く、おかしい大人に自ら問いかけるなんて・・、見た目の割に馬鹿だな。」

「おい佐久間、今の言葉取り消せ!!」

「やなこった、そもそも頭がいいなら何で質問するんだよ。」

 佐久間の問いに全治は答えた。

「頭がいいからこそ、もっと知りたいと思うようになりそれが、質問に繋がると僕は思っている。そういう君はどうだい?」

「そうか、それならせいぜい馬鹿みたいに質問するがいいさ。後、君たちも全治みたいになるなよ。」

 佐久間は得意げに言うと、自分の席に戻って行った。

「何だよ、本当にムカつく奴だな。」

「相手にするなよ、全治。」

 そしてチャイムが鳴り、それぞれ自分の席に戻って行った。


 それから二日後、その日は土曜日なので全治は散歩がてらふらっとコンビニに立ち寄った。するとレジで件の男と店員が揉めていた。

「何で飲めないんだよ!!ちゃんと税金払っているというのに!!」

「だから、ここでの飲酒は禁止なんです。」

「はあ!?今日私は歩いてきた、イートインを使ってのんびり過ごす!!これの何がいけないんだ!?」

 男はレジでモンスターになっていた、レジには缶ビール二本と肴の裂きイカが置かれていることから、全治は男が何をしようとしているのかが分かった。全治は男に話しかけた。

「あの、何してるんですか?」

「誰だよこんな時・・・あっーーーーー!!」

 男は自身を論破した、憎たらしい小学生と再会した。

「お前はあの時の・・・、話しかけんなよ。」

「いえ、このコンビニのイートインでは飲酒禁止だってことを伝えたいだけです。」

「知るかそんなの!!大体法律で決まってないからいいだろ!!」

「ん?ちょっと変ですね?」

「何が変なんだよ!!」

「法律で決まっていなくてもちゃんと規則を守るのが、あなたの【正義】ではなかったのですか?」

 その瞬間男は逆上し、全治の顔を殴った。

「うるさいんだよ!!正義を決めるのは私だ、私のためなら正義の意味ぐらい少し書き換えてもいいだろ!!」

 しかし全治は男の拳が効いていないかのように立ち上がった、そして寡黙な鋭い目で男を見た。

「何ですか、その反抗的な目は!!」

「あなたの正義は、ハッキリしていなくて自分のためだけにあるものですか?」

「黙れええ!!」

 男が再度全治を殴ろうとした時、店員の女性が男を取り押さえた。そして誰かが通報したのか警察が来て、男を連行していった。全治は警察に事情聴取を受け、その後家に帰った。


 男に殴られた跡は翌日になっても赤く残り、それを見た北野を入れた生徒たちに「何があったの?」と言われ、全治はコンビニでの出来事を話した。

「ていうか全治の質問癖すごいね・・・。」

「そいつ以前見た奴だろ、最低だな。」

「全治って、よく災難に遭うよな・・。」

 周りからは、同情と呆れが混同していた。


   

 その日の昼放課に全治は佐久間から呼び出され、人気の無い校舎裏に来ていた。

「佐久間君、話しって何?」

「全治・・・俺の父ちゃんがすまなかった!!」

 佐久間は最敬礼して謝罪した、全治は半ば驚いている。

「もしかして、君のお父さんだったの?」

「ああ、父ちゃん仕事が上手くいっていなくて・・、あのコンビニで正義マンやってたみたい・・。」

「そうか、でも君は悪くないからいいよ。」

「ありがとう。後北野君には言わないでほしいけど、俺近いうちに栃木に引っ越す。」

「どうして?」

「母ちゃんが愛想が尽きちゃって、実家で暮らす事になった。」

 それから五日後。全治の殴られた跡が消え、佐久間がいなくなった・・・。

 

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