第3話躾と矛盾

 運動会が終わってから三か月、年をまたいだ学校では三学期が始まった。

「全治、おはよう!!」

「北野君、おはよう。」

「なあ、冬休みどうだった?」

「親戚の家に行って、ご馳走をたくさん食べたよ。あと叔父さんからもらったお年玉で、「戦・技・王」のカード買った。」

「おおーっ!全治も興味あったんだ。」

「うん。北野君、僕の相手をしてくれるかい?」

「もちろんだ!!負けないぜ!」

 そんな他愛もない話をしながら北野と全治は、教室に入った。少し経つとチャイムが鳴って、東が入ってきた。

「えっー、今日の日直は椎名日名子さん・・・・、来てないね。」

 しかし、クラス中が騒ぐことが無かった。

「はー・・・では澄田さんに日直を任せます。下校の時に誰か椎名さんのところに、宿題を持ってきてくれませんか?」

「僕が行きます。」

 全治が手を上げた、実は椎名家へは祖母と一緒に来たことがある。実は去年亡くなった祖母の友人の名が、椎名文子というのだ。

「では千草くん、よろしく。」

「分かりました。」

 全治が席に着くと、北野が質問してきた。

「なあ、日名子さんのこと知っているのか?」

「うん、幼稚園の頃に家に行ったことがあるんだ。日名子さんとは顔見知りだよ。」

 しかしこの後、全治は椎名家の現状を知る。


 そして家に帰る途中、全治が宿題を届けに椎名家に行くと玄関越しからドンッという音がした。

「何だ?今の音は?」

 全治がドアに近づくと、今度は怒鳴り声がした。

「どうしてそんな簡単なことが出来ないんだ!!」

 全治はインターホンを鳴らした、しかしドンッという音と怒鳴り声にかき消されてしまう。三回鳴らしてみたが、誰も玄関に出てこない。

「おかしいなあ・・、誰かいると思うけど?」

 全治は疑問を浮かべながら、ふとドアノブに手を掛けた。すると鍵がかかっておらず、ドアが開いた。

「おや、不用心だね。」

 眷属のホワイトが言うと、また怒鳴り声がした。

「社会ではこれが常識なんだ!!できなきゃ生きていけないぞ!!」

 物凄い大声が、全治の耳の中に入った。

「凄い声だね、全治様。」

「うん、そうだね。」

 そして全治が「失礼します。」と大声で言うと、ドアをバンッと鳴らして男が現れた。

「誰だ!家に上がろうとしているのは!!」

「僕です、日名子さんの宿題を持ってきました。」

「ああ、そういうことか・・・。」

 男はため息をつくと、「渡せ」と手でジェスチャーしたので、全治は男に宿題を渡した。

「ところでさっき大きな音がこの中からしていたけど、あれは何?」

「関係ないこと言うな、とっとと帰れ。」

 仕方なく全治は椎名家を後にした。


 それから全治はどうも椎名家で聞いた大きな音や怒鳴り声が気になった、全治は日名子さんの宿題を渡す役目を任されたので、確かめる機会はあった。その日も全治が椎名家に行くと、また家の中から大きな音と怒鳴り声がした。

「出来ていないぞ!!いつになったら完璧に覚えるんだ!!」

 全治はインターホンを鳴らしドアを開け「失礼します。」と言ったが、男は怒鳴り声を出すだけで玄関に出ない。

「入りますよ。」

 これも聞こえていない、全治が靴を脱いで上がると怒鳴り声がする部屋のドアを開けた。するとその時、男が日名子を殴る場面を目撃した。

「きゃあ!!」

「大丈夫ですか!!」

「あっ・・お前は!!」

 日名子に駆け寄る全治を見て、男はここで認識した。

「家に上がるなと言っただろう!!」

「だって玄関に出なかったからです。」

「くっ・・・、また宿題か。」

 全治は男に宿題を渡した。

「ところで今、日名子さんを殴っていたけど、どうしてそんなことするの?」

「躾のためだ、それ以外に理由はない。とっとと帰れ。」

 男は全治を帰らせようとしたが、全治の質問攻めが始まった。

「人を殴るのはいけない事なのに、どうしてそんなことするの?」

「だから躾のためと言っているだろ!!」

「殴られた人はシャキッとするの?」

 全治の質問に、日名子は溜まっていたものをぶちまけた。

「そうよ!!いつも叩いてばかりで、嫌になってしまうわ!!」

「なっ、何だと!!」

 男は日名子を殴ろうとしたが、男の拳を全治は右手で受け止めた。

「離せ!!クソガキ!!」

「ねえ、どうして自分の子供を殴るの?」

「はあ!?日名子は俺の子供じゃねえ!!」

 全治は男の手を放し、首を傾げた。

「じゃあ、あなたは何者なの?」

「そんなの知ったところで、何になるんだよ!?」

「そうか・・・、ホワイト、頼む。」

 全治が冷たく言うと、眷属のホワイトが大きくなった。

「うわああ!!ホッキョクグマだーっ!!」

 男はパニックになり逃げようとしたが、ホワイトはすぐに男を取り押さえた。

「助けてくれ、助けてくれー!!」

「じゃあ、質問に答えてくれる?」

 男は頷き、全治はホワイトに男を離すように指示した。


 全治が男に質問している間にパトカーが家の前に来た、日名子が通報したようだ。男は日名子に暴力に暴力を振るったとして捕まった、そして全治が気になっていた男が何者かについて、後日家に来た警察が教えてくれた。

「あの男は、日名子さんの母の再婚・・・二回目の結婚相手だよ。日名子さんの本当のお父さんは、交通事故で亡くなったんだ。」

 男は日名子の母が高収入ということで専業主夫をしていたが、浪費癖が酷くそのことを日名子と妻に嫌という程指摘されたので、躾と称して日名子をサンドバッグにストレス発散していたという。

「日名子さんはどうなるの?」

「・・・児童保護施設に入る事になった。」

「どうして?お母さんはどうしているの?」

「大きな声じゃ言えないけど、日名子の母は他の男と一緒に遠くに行ったんだ。本当に酷い母親だよ・・・。」

 警察はそれだけ言うと去って行った。その後児童保護から日名子は登校するようになったが、全治は日名子の気持ちが心配になった。



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