第2話恋の逆恨みと赤き竜
全治が黒之と殺されかけて四ヶ月後、二学期の初めも迎えた学校では運動会に向けての準備が進められていた。
「全治!運動会、絶対勝つぞ!!」
「・・・・。」
「ノリが悪いなあ・・・、全治!絶対勝つぞ!!」
「そうだね。」
全治の気落ちな返答に、北野はずっこけた。
「やる気が無いのか全治!!」
「じゃあどうして北野君は、そんなにやる気なの?」
「今年の運動会は負けられねえんだ、赤組にはあの高須がいるからなあ。あいつ、あの事故があってからも人気が高いじゃないか。」
「そうだね・・、そういえば松田先生はどうしているかな?」
「気にするなよ、あんな先生なんて。」
あのバス事故以降の事を簡素にまとめると、「黒之・全治を含む全生徒は奇跡的に全員無事、運転手重傷、松田は助かるも全治を無理矢理連れ出したことで確定のクビとなった。
「突然運転手に詰め寄って、千草の家へ行けって・・・本当に訳が分からないよ。」
するとそこへ今年度も教育委員会からつなぎとしてきた東が、全治に声をかけた。
「千草君、お願いがあるんだ。」
「何でしょうか?」
「クラスごとの赤組と白組でそれぞれフラッグを作るだろ、実は赤組のデザインがまだ決まっていないんだ。そこで千草君にデザインを考えてほしいんだ。」
全治の絵の上手さはクラス一番ということで、白羽の矢が立ったのだ。
「いいですよ。」
「ありがとう、よろしく頼むよ。」
そう言って東は去って行った。
そして全治は赤組のフラッグのデザインを二日で完成させた、東に見せたところ即採用された。ところがこれが面白くない黒之は、仲間を引き連れ全治に言った。
「全治、お前がフラッグを作れ。」
「いいけど、君たちは作らないの?」
「お前がデザインしたのなんて、作りたくないんだよ。」
そういうことで全治が図工室で赤組のフラッグを作ることになった、大きな紙に輪郭を描き上げて行く作業から始める。全能故の器用さなので一人で終わらせた、でも一人ではさすがに大変だということで、白組のフラッグの色塗りをした川原朱音が手伝うことになった。
「千草君、よくここまでできたね。」
「うん。色塗り、手伝ってくれてありがとう。」
「どおってことないわよ、それにしても高須君達全然やらないのよ、赤組のフラッグなのに。」
「質問してみたけどやりたくないっていうだけだったよ。」
「他のクラスからもデザイン出されていたのに、どうして三年生は千草君にやらせることにしたんだろう?」
実は白組のフラッグも全治がデザインしていた、そこに川原が絵を塗った力作である。
「全治君、私より上手い。」
「そうかな?工作クラブでいつも絵を書いてる君の方が、絵に関して優れている。」
「そんなこと・・・。」
川原が顔を赤くした。当の全治は関心が無いのだが川原は全治に恋心を抱いていた、あの時無くしたクレヨンを見つけてくれた時から・・・。
「ふう・・、今日はこの辺にしよう。」
「そうね。でもこれで明日には完成できるね。」
全治と川原は片付けを始めた、そして片付けを終え図工室を出る時、川原が全治に言った。
「全治君・・・明日も作業しよう。全治君と作業するの、楽しいから。」
川原はそう言って去った、全治は微かに心臓の鼓動が高まるのを感じていた。
そして時は流れて運動会当日を迎えた、午前第三部「三年生・五十メートルリレー」が始まろうとしていた。
「全治、アンカー頼んだぞ!!」
「黒之らにお前らの力を見せてやれ!!」
白組の声援がかかる。
「黒之、負けるなーっ!」
「白組に格の差を分からせろ!」
赤組も負けじと声援をかける。そして両組が整列し、第一走者が互いにスタート地点に並んだ。
「位置について・・・よーい・・・パンッ!」
ピストルの合図で、クラスの決戦が始まった。走者が変わるごとに赤組・白組の優劣が、目まぐるしく変わっていく。そしてついにアンカーのところに来た、全治と走るのは黒之だ。
「お前だけには負けない!!」
「僕も・・・全力でいくよ。」
全治と黒之は二人三脚でもしているかのように並んで走った、赤組と白組の声援が一段と大きくなる。そしてゴールまで十メートルの所で黒之はスパートをかけた、それにより黒之は真っ先にゴールに着き、全治が後に着いた。
「よし、全治に勝った!!」
「・・・負けてしまったか・・・。」
全治は肩を落とすことはなかった、ただ少し経つとみんなの驚く声が聞こえた。
「何があったんだ?」
全治がみんなの方へ行くと、黒之と川原が向かい合って何か物々しい雰囲気になっていた。
「どうしたの、北野君?」
「全治!!黒之が・・川原に告白した!!」
「何を告白したの?」
「好きだという事だよ!!」
全治が納得していると川原が全治を呼んだので、全治は川原の所へ行った。
「川原さん、何?」
「全治君・・・好きです!!私と付き合って下さい!!」
「嘘だろ・・・、どうしてクラス一優れている僕より・・・全治を?」
「私はクラス一より、絵の上手な人が好きなの。付き合ってくれる?」
「一緒にいてほしいなら、いいよ。」
「嬉しい!!ありがとう!!」
川原は全治に抱き着いた、しかし全治は恨めしい顔をしている黒之が気になっていた。
その後全治はゼウスから恋という者を知り、翌日の朝に学校に向かった。教室に着くと全治派の男子から「流石全治!!」や「スッキリさせてくれてありがとう!」等と言われた。ところが当の川原が登校していなかった。
「川原さんは行方不明になっています、誰か所在について知っている人はいませんか?」
東の問いにクラス中が騒然となった、全治は川原の事がふと心配になった。
『川原さん・・・、大丈夫かな?』
そしてその日の下校の時、全治は黒之に声を掛けられた。
「全治君・・・、川原さんが消えて残念だねえ。」
「消えてないよ、行方が分からないだけだから。」
「分かってないなあ!!川原は俺が看破して、消したんだよ!!」
「どういうこと?」
「分かってないなあ、俺が川原を殺したんだよ!!」
そういうと黒之は酷い笑い声を上げて、去っていった。
そして二日後の夕方、全治が帰り道を歩いていると「全治君・・・。」と川原の声がした。
「川原さん、どこにいるの!?」
「私はここよ。」
全治が正面を向くと川原の姿があった、しかし存在感が薄く幽霊のようになっている。
「川原さん、学校に来なくなったから心配したよ。」
「ありがとう・・・、でも二度と学校に行けなくなってしまったの。」
「どうして?」
「四日前、『神罰を受けるがいい!!』って黒之君に言われて・・気が付いたらこうなっていたの・・。それで家に帰ったら、鏡に映らなくなっていて・・・、パニックになって家を出たの。」
「可哀想に・・看破されてしまったようじゃ。」
ゼウスの声がした。
「どういうこと?」
「看破されると命そのものを取られてしまうのじゃ、だから死人同然じゃ。」
「私・・これからやりたかったことがあるのに・・・。」
川原は泣き出した、全治が可哀想に思っていると手に魔導書が握られていた。光っているページをめくると、
「転生奉仕・死者を転生させ自らに使えさせる、ただし前世の記憶は無効となる。」
と書いてあった
「その術でその者に新たな命を吹き込むのだ。」
ゼウスはそう言って去った、全治は川原に尋ねた。
「君は生き返りたい?」
「うん・・。」
「じゃあ、生き返ったら僕の眷属になっても・・いいかな?」
川原は少し考えたが、こう言った。
「じゃあ、黒之に仕返しさせて。私、とても悔しいの。」
「いいよ。」
「ありがとう!!」
「僕の仲間が増えるね。」
突然現れたホワイトに川原は驚いた。
「じゃあいくよ、・・・命よ、新しい姿となりて我に使えよ。」
全治が呪文を唱えると、川原の姿が赤くなりドラゴンのようになった。
「ウガオオ!!・・・・・これが私?」
「うん、よろしくね。ところで名前は?」
「・・ルビーファイヤードラゴン。」
「いい名前だ、これから同じ眷属として頑張ろう!」
ホワイトが言うと、全治はルビーファイヤードラゴンと手を握った。
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