全能少年「看破と転生と質問・前編」

読天文之

第1話クロノスの復讐

 小学三年生になった千草全治、入学したころよりも背は伸びて『神童』と呼ばれそうな面影が出てきた。

「全治、まさか同じクラスになるとはなあ・・。」

「高須君・・、よろしくね。」

「気安く呼ぶな、俺はお前を殺す気でいることに変わりないからな。」

 そう言うと黒之は自分の席に向かった。

「黒之、また千草にムキになってる!」

「そういうの良くないよ。」

 黒之は周りの声に対し何も言わなかった。

『黒之君の周りには、いつも人がいるなあ・・・。』

 黒之が人気者になったのは去年の事、成績もよく眼鏡の似合うイケメンの黒之は生徒や先生の注目の的になった。更に全治とは違い人付き合いに積極的だったので、黒之の周りには生徒が集まり、いつからか「黒之親衛隊」となるものができていた。それに対し全治の周りには、唯一の親友・北野剛四郎と黒之をよく思わない生徒数人が集まり、全治と黒之をそれぞれ中心としたふたつのグループが出来ていた。

『キンコンカンコーン・・・。』

 三年生初めてのチャイムが鳴った、担任は一年生の頃と同じ松田先生だ。

「みなさん、一年生以来ですね。改めまして、松田加奈子です。三年生の一年間も、よろしくお願いいたします。」

 起立・礼と進み、授業が始まった。


 その日の深夜、全治は夢の中でゼウスと話した。

「そなた、最近高須黒之と会う事が多くなったのお・・。」

「うん、クラスが同じになったからね。」

「しかしクロノスの末裔だ、あいつはそなた以上に神の力を持っている。今のそなたでは敵わない。」

「わかっている、でもどうして黒之は僕を殺そうとするんだろう?」

「ふむ・・・、もしクロノスが私に復讐しようとしているのなら、私の力を持つそなたを敵とみなしてもおかしくはない。」

 そしてその日の夢が終わった。


 四月二十八日、三時間目の授業は総合で五月八日にある遠足についての話が行われ、班のメンバーを決めることになった。しかしここで問題が起きた。

「何で黒之と全治が一緒なんだ!」

「おかしいです!!」

 十人の生徒が松田に訴えた、どうやら全治と黒之が同じ班だというのが気に要らないようだ。

「あいつら黒之親衛隊の奴らだぜ。」

「何で全治を敵とみなしているんだ?」

 他の生徒のうんざりする声が聞こえる中、黒之は先生に言った。

「先生、僕は千草君と同じ班でいいです。」

「黒之様、いいのですか!?」

「うん、先生に迷惑はかけられません。千草君もいいよね?」

「僕もいいよ。」

「ほら、高須君が言っているんだから席に戻りなさい。」

 松田は黒之親衛隊を席に戻し、トラブルは解決した。


その日の夜、全治はまたゼウスと話していた。

「全治、近い日に高須黒之と出かけるようだな。」

「うん、遠足で桃花台中央公園へ行くんだ。」

「それはまずい、今すぐにでも行くのをやめるべきだ。」

「それは黒之が僕を殺そうとしているから?」

「そうだ、行くべきではない!!」

 ゼウスは強く訴えた。

「でも・・・、遠足は楽しみだし、休む理由が無いよ?」

「それなら私がその理由を作ろう。」

「どうやって?」

「少しつらいが、風邪を引いてもらおう。」


 その翌日、全治は真っ赤な顔で目覚めた。頭がくらくらし、何だか動きたくない感じがする。全治が体温計で測ると、三十七度七分と出た。

「あっ・・・、風邪だ。」

「おやまあ!こんな日に・・・、今日は休みなさい。」

「うん、その前に北野に電話させて・・。」

 全治は半ばおぼつかない足取りで電話の所へ行き、北野家に電話をかけた。

「もしもし・・。」

「全治か、何だよこんな朝早くに。」

「僕、風邪を引いたんだ。だから遠足に行けなくなった。」

「大丈夫か!?それはついてねえなあ・・・。」

「ごめん、行けなくなってしまって・・。」

「気にするな、また遠足の話を聞かせてやる。じゃあな!」

 そして電話は切れた、全治はそのまま二階へ行ってベッドの上で寝た。


 ところが二時間後、全治の部屋へとドタドタという音がしたかと思うと、松田先生が全治の部屋に入ってきた。

「全治、遠足へ行きなさい。」

「えっ・・・、でも僕北野君に休むって伝えましたし、ゴホッゴホッ・・・、婆ちゃんからも学校に伝えましたよ・・。」

「そんなことはいいから、行きなさい!ほら、早く!!」

 松田は全治をベッドから強引に下ろすと、持ってきた遠足の用意があるリュックサックを背負わせた。」

「・・・でも僕、パジャマのままだよ。」

「時間が無いの!さっさと行くわよ。」

 松田に引っ張られるまま全治はリュックサックを背負って玄関を出た、すると家の前に大型バスが停まっていた。全治が重い足を上げて乗り込むと、黒之が手を叩いて出迎えた。

「千草君、さあ行こう!」

 そして全治を乗せたバスは走り出した。


 バスの中で全治はぼーっとしていた、熱のせいで話す気力が無いようだ。

「全治・・大丈夫か?」

「辛そうだな・・。」

 北野を含む数人が全治の事を心配した、すると突然バスが大きく左右に揺れだした。

「うわああ!!」

「何だこの揺れ!!」

 松田と生徒たちは慌てふためいた。そしてバスは電柱にぶつかり方向を変え、線路に乗り上げ停まった。


「全治!大丈夫か!?」

「・・・・、ゼウス?」

「良かった、気が付いて。」

 全治は立ち上がって、生きている事と風邪が治っていることを確認した。

「あれ?僕、元気になっている。」

「私が元に戻したのじゃ、みんなも無事じゃぞ。」

「全治!無事か!!」

 北野に声をかけられ、全治は頷いた。

「良かった・・・、それにしても線路に乗り上げるとはなあ。」

「あれ?高須がいないぞ?」

 生徒たちはバスの中を見回したが、黒之と親衛隊の姿が無い。するとまたバスが揺れだした。

「あ!あれは何だ!!」

 そこにはバスを殴っている大きなゴリラの姿があった、このままではバスは壊されてしまう。

「全治!僕の力を使って!」

「ホワイト!どうするの?」

「外に出すのです!」

 全治はバスの窓を開けてホワイトを出した、するとホワイトが大きくなって武装したホッキョクグマの姿になった。

「グオーーーーーーー!」

「ウガーーーーー!!」

 ホワイトとゴリラが戦闘している間に、全治達はバスのドアを開けようとしたが・・、押しても引いても全員でも開かない。

「どうなっているんだ?バスの中に閉じ込められた!?」

 すると踏切の音がした、これは事故までのカウントダウンである。

「ヤバイ!?電車が来る!?」

「死にたくないよー!!」

 喚く生徒たちは冷静を失っていた、その時全治の手に魔導書が握られ、全治は開かれたページの呪文を唱えた。


「ふふふ・・・これで千草君もお終いだ。」

 横から電車に追突されたバスを空から見て、高須は笑っていた。

「やっぱり君だったんだ・・。」

「・・・!?全治、生きていたのか!?」

 高須が振り向くと、肩に小さなホワイトを乗せた全治の姿があった。

「魔導書のおかげで、僕もみんなも先生も無事だよ・・。」

「くそっ!作戦失敗か・・・。」

「どうして僕を殺そうとするの?」

「・・次こそは殺す!」

 黒之は憤怒の形相で、地面へと下りていった。





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