第6話

 あの日以来、私は毎日病院に通った。夏休みの宿題を夜にやることにして、毎日出来る限り長い時間を南十星くんと過ごした。

 この日も南十星くんの病室に行くと、少し年配のご夫婦がいた。

「こんにちは。」

「あら、こんにちは。」

 病室に入る手前で私が声をかけると、奥様とみられる人は丁寧に頭を下げてくれた。南十星くんのご両親かな?

「あなた、もしかして、星来さん?」

 急にそう聞かれて、思わず頷いてから名前を言った。

「は、はい。天野星来と言います。」

「そう…。私たちは南十星の両親です。あなたのことは南十星からよく聞いてるわ。お付き合いされてるそうね。」

「は、はい。南十星くんにはいつもお世話になりっぱなしで…。」

 どうしよう…。まさか別れろって言われるんじゃ…。

「ふふ、そんなに緊張しないで?私たちは二人のことを否定するつもりはないから。」

「そ、そうですか…。それならよかった…。」

 本当に良かった…。ここで別れろって言われたらどうしようかと思った。

「これからお見舞い?」

「はい。あ、でも親子水入らずのほうがいいと思うので、後でまた出直します。」

「あら、せっかくだから一緒に入りましょ?その方が南十星も喜ぶと思うわ。」

 南十星くんのお母さんはそう言って中に入ると、今まで話さなかったお父さんも手招きしてくれたので、ご厚意に甘えることにした。

「父さん、母さん。久しぶりだな。…あ、星来も一緒なのか?」

「久しぶり、南十星。星来さんとはさっきそこで会ったから、一緒に来たの。」

「ご、ごめんね、親子水入らずにお邪魔しちゃって…。」

「いや、どうせ一回帰ろうとしたのを母さんに引っ張られたんだろ?それに、俺も嬉しいしな。」

 そう言って笑顔で言ってくれたけど、今日はちょっと顔色が悪いみたい…。大丈夫かな?

「南十星、何か足りないものはない?食べたいものとか、欲しいものとか…。」

「いや、大丈夫。」

 そう言ってる間に昨日持ってきたお花の水を換える。

「あら、悪いわね、お水換えてもらっちゃって。」

「いえ。」

 こういう時何て言えばいいか分からない…。

 少し重い花瓶を慎重に台の上に置くと急に南十星くんが私の手をつかんだ。

「なんか順番おかしくなったけど、こいつが、今お付き合いさせてもらってる天野星来。俺の一番大事な人。」

 最後の一言に震える。そんな風に思ってくれてたんだ…。

「そう、やっと紹介してくれる気になったのね。」

「ああ。…父さん、母さん。俺、星来と生きるために、手術頑張るよ。」

 私と生きるため…。そう言ってくれたのが嬉しかった。目尻に滲んだ涙をこっそり拭うと、私はご両親に向き合った。

「そう、頑張んなさい。」

 お母さんはそう言って笑顔になった。お父さんも頷いてる。

「星来さんのご両親は知ってるの?」

 お母さんから急にそう聞かれた。

「え?あ、いえ。恋人がいることは伝えてますが、会ってちゃんと話したことはありません。」

「そう、じゃあ手術が終わったら真っ先に報告しなきゃね。」

「…はい!」

 認めてくれるんだ。嬉しい。

「じゃあ、私たちはこれで失礼するわね。」

「え?」

「ここからは若い人同士で…なんてね。仕事があるから。」

 そう言ってお二人は出て行ってしまった。

「ふう、緊張した…。」

「おう、お疲れ。」

 私がため息と吐くと南十星くんは笑ってそう言った。

「なあ、良かったか?なんか卒業後も一緒にいるみたいになっちまったけど…。」

 心配そうにそう聞く南十星くんに、ちょっとムッとした。

「南十星くんは卒業後も私と一緒にいたくないの?」

「いやいやいや!そんなわけないだろ!」

「じゃあ、いいじゃん。私も離れたくないしさ。」

 そう言って笑うと南十星くんも「そうだな」と笑ってくれた。

 その後も、他愛ない話をして、その日は終わっていった。

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