第89話 「殺さなきゃいけないって、いつからそう思ってたんだっけ」

「これ、あげるんな」

 ハナミさんはポケットから首飾りを取り出した。『四色ししょく』に配られた、グリミラズの居場所を知るための手がかりだ。

「あっしは負けた。諦めない権利なんて、あっしには無いんな」

 さっきまでの頑固な態度は失せて、ハナミさんは大人しくなった。差し出されたそれを、俺は受け取る。


「……!?」

 その瞬間、様々な情景が交互に視界を遮る。

 シアンリやコルクマンの頭に触れるグリミラズ。魔術を行使して戦う『四色ししょく』の二人。何かを語り、ネックレスを二人に渡すグリミラズ。奴の声が、俺の耳にも届く。


『殺しなさい』


 やめろ。その声を俺に聞かせるな。


『怒りなさい。さもなくば君は、肯定されない』


 俺の心に土足で入り込むな。分かったような事を言うな。俺の憎悪はお前の物じゃない。


『君は……復讐者にならなければいけないのだから』


「ああああああああああ!!」


 殺さなきゃ。殺さなきゃ! 殺さなきゃぁ!

 俺は憎悪に身を任せると決めた! 俺は復讐者! みんなみんな、殺してやる! グリミラズに関わる連中は皆殺しだ!

 はははははははははははははは!

「はははははははははははははは!」

 はははははははははははははは!

「はははははははははははははは!」


「どうしたのだッ! アレイヤッ!」


 ワントレインが俺の両肩を掴む。その時俺は憑き物が落ちるような気分に陥った。

 あれ? 俺は何を考えていた? ネックレスを持って、それで……それで?

 記憶が曖昧だ。思考が鈍くなって……頭が痛い。

「ワントレイン……?」

「急に精神が乱れたぞッ! 体調でも崩したかッ!」

 彼の魔流眼は俺の魔力の乱れ、精神の乱れを見逃さない。やっぱりあの心を掴まれるような気持ち悪い感覚は、紛れもない現実だ。

「いや、ごめん……大丈夫」

 俺の心に何が起きた? ネックレスを触った途端、精神の主導権を奪われたような感覚があった。ワントレインがいなかったら、俺はどうなっていたんだろう。


 床に落ちたネックレスを、ワントレインが拾う。俺に渡そうとしてくれたけど、俺は首を横に振った。

「悪い。お前が持っていてくれないか? それ」

「むッ? 構わないぞッ!」

 ワントレインは快く首飾りを預かってくれた。ハナミさんは首を傾げる。

「いいのな?」

「はい。グリミラズの居場所は……大体分かりました」

 首飾りを握った時に脳に送り込まれた情報で、奴の居場所は特定出来た。光景や音……いやそれだけじゃない。何故かは分からないけど、俺が向かえばそこにグリミラズがいるような気がした。本当に、何故かは分からないけど。

 呼んでいる。呼ばれている。


「ありがとう、ワントレイン。俺、行くよ」

「行くとは……何処にだッ?」

「この戦いを終わらせに」

 ハナミさんが戦いに巻き込まれたのはグリミラズのせいだ。あいつを放置したら、また悲劇が続く。

 四人目を待つまでもない。グリミラズの元へ辿り着いて、今度こそ俺の復讐に終止符を打つ。


              *  *  *

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