第83話 「その復讐は誰のために」
コルクマンのネックレスは指先一つで簡単に外れるようになっていた。まるで俺に取られる事を前提にした設計のようだった。
彼の首から外したそれを、俺は握りしめる。その途端、様々な情景が俺の頭に入り込んできた。
「っ!?」
廃墟。暗い。広々。一人立つ、グリミラズ。
断片的な光景が、点滅を繰り返し映る。何だこれ。伝達魔術の一種か? 俺がネックレスを触るのがトリガーとなって……。
『おいで』
不気味な声が、囁く。
『おいで、アレイヤ君。僕を殺したいのでしょう?』
声は、心の奥まで食指を伸ばし、俺の根底を覆す。
あぁ、そうだ。そうだった。俺は復讐者。憎悪しなければ。殺意を持ち続けなくては。
「……殺す」
何かに背中を押されるように、俺は呟きを漏らした。
「殺す、殺す、殺す、殺す……殺さなきゃ」
俺の手からネックレスがすり抜ける。どうでもいい。ただ、俺は殺戮者にならないと。
「アレイヤ? どうしたのよ」
俺には義務がある。責任がある。使命がある。
この憎悪が、偽りでないと証明するんだ。一度決めたからには、俺の信念は揺らいじゃいけない。
「ねぇ、ちょっと。アレイヤ」
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ!
数多の声が俺を呼ぶ。期待の念が俺を導く。
俺は復讐する。まずは、グリミラズに協力したこの男から……。
「アレイヤ! 聞こえてるなら返事して!」
「……あ」
エムネェスの叫び声で、俺は正常な視界を取り戻した。俺は眠るコルクマンの首に手をかけていた。その事実に、俺はようやく気付けた。
俺は何をやっていた? さっきまでの意識が曖昧だ。俺は何を見て、何を考えていたんだっけ。
「わ、悪い。エムネェス」
俺はコルクマンの首から慌てて手を離し、エムネェスの隣に立つ。
「アレイヤ。あなた様子変だったわよ? 戦いすぎて疲れたのかしら?」
「……かもしれない。ごめん。ちょっと休ませてくれ」
四色の二人は倒した。ネックレスも手に入れた。これ以上ない勝利だ。もう無茶はしないでいい。
「そういえば、シアンリは?」
「あの子も『アルコホリック・パーティー』で眠らせておいたわ。しばらくは起きないわよ。警察呼んだから、後は任せましょ」
そうか。よかった。シアンリがこれ以上暴れる事は無い。
「シアンリのネックレスも回収しないと……。いや、でも」
「ん?」
「ネックレスはエムネェスが取ってきてくれないか?」
俺はエムネェスに頼んだ。あの首飾りは、俺が掴んだらいけない代物な気がする。
「んー、よく分かんないけど、分かったわ」
どっちだよ。まぁ承諾してくれたみたいだし、気にしなくていいか。
「グリミラズ……お前は、何を企んでる」
グリミラズへの道筋を示すという、刺客の首飾り。あれは一体どんな物なんだ。グリミラズは、何のために俺に首飾りを集めさせるんだ?
不思議な感覚が拭えなかった。俺の心が、俺のものでなくなるような。
酩酊よりも酷く、気分が乱される。思えば、ずっと前から。
俺は最悪な見落としをしてないか?
「……帰ろうか。エムネェス」
帰ろう。そして眠ろう。もう疲れた。このぐちゃぐちゃな思考で居続けるのは耐えられない。
「えぇ、あなたは十分頑張ったわ」
エムネェスに支えられて、俺は何とか立ち上がれた。
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