第四章 〜俺達はもっと強くなりたい〜

第41話 「一年一組強化週間」

 本日は休日なり。

 故に、絶好の修行日和なり。


 自分でもおかしいと思うような矛盾したスローガンを掲げ、俺は1組の教室に朝早くから来ていた。俺だけじゃない。俺の我儘に付き合って貰って、1組生徒が集っている。


「いいんじゃないですかー? 生徒達がお互いを高め合う。素晴らしい事ですー」

 ワットムは乗り気だった。他のみんなも朝早く叩き起こされたのには文句を言えど、修行にはやる気だった。


「アレイヤならそう来ると思ったさ。グリミラズを倒すため、だろ?」

 早朝なのにきちっと身嗜みを整えて、ザハドは俺に言った。

「大賛成だ。でも一つ条件がある」

 ザハドは俺と視線を合わせた。

「グリミラズとの戦いに、俺達も協力させてくれ。君が自分で幕を引きたい気持ちも分かる。でも俺達だって他人事じゃあないんだ。分かってくれ」

 サナを殺した犯人を許してのうのうと生きる者は、この教室にいなかった。グリミラズは最早1組にとっての敵だ。俺だけの標的じゃない。


「…………それは」

 分かってる。復讐の独占は、俺のエゴだ。自分自身でカタを付ける事に執着するのは自己満足に過ぎない。

 理屈では理解していても、素直に受け入れがたい気持ちもあった。人の手を借りたら復讐にならない……そんな感覚が拭えないんだ。


「すぐに答えなくていい。約束を反故にしてくれても結構だ。でも忘れるなよ。強くなりたいのは君だけじゃあない。仇討ちとまでは考えなくても、グリミラズを一発殴らなきゃ気が済まない奴もいる。そのためなら利用するさ。クラスメイトだって何だって」

 ザハドは本気だ。彼らの静かな怒りが、教室に充満していく。

「当たり前でしょ。アレイヤ、貴方まさか自分が『助けられるかも』なんて心配してるんじゃないでしょうね。自惚れないで。誰が貴方のためなんかに集まるの? むしろ貴方が私の修行に付き合ってよね」

 キョウカは俺の胸を指先で突き、詰め寄った。「キョウカまで来てくれるなんて」と喜んでいた俺だけど、その感謝は彼女には余計なものらしい。

「キョウカって素直じゃないわよねぇ。でもワタシも同意見よ。サナはワタシの友達だもの。他人事にするのもされるのも嫌。一緒に戦いましょうよ、アレイヤ」

 エムネェスも今ばかりは素面で言った。1組のみんなが、戦うべきだと決心している。


 復讐は誰のものか。そんな自己中心的な考えに縛られ、俺は本質を見失っていたかもしれない。悲しいのは、俺だけじゃないんだ。


「ありがとう、みんな。だったら改めてお願いさせてくれ。俺も力を貸す。だから俺に力を貸してくれ!」

 気付けば俺には仲間がいた。仲間とは、対等な立場で共闘する者だ。一方的に助けるんじゃなく、助け合う関係。我儘なのはお互い様だ。それをきっと信頼と呼ぶ。

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