第31話 「魔術体育祭決勝戦」

 第二競技魔術双六は、なんと8割の生徒がゴール出来ず制限時間を迎えるという驚きの結果となった。確かに『マス』の試練は難しいものも多かったけど、そんなに多くのチームが脱落するなんて。


「大半の生徒はお互いに足を引っ張りあって、無駄に時間を浪費したらしいぞ」

 訳知り顔で語るのはザハドだった。ちなみにザハドのチームはきちんとゴールした。到着順は4番目だったらしい。

「やっぱり重要なんだな。協力って」

「だね。人を信頼出来なければ、強い魔術師だって弱体化する。戦場だと特に」

 ザハドもワットムの教えを忠実に守ってゴール出来た訳だ。授業を真面目に受けるって大事なんだなー……って思ってる時点で、教師の思惑通りなのかも。恐るべき、魔術学校の教師。


 殆どの生徒が得点を半分にされ、上位と下位の差はさらに大きくなった。第一競技と第二競技で高得点を勝ち取った一部の生徒だけが、ランキングに載っている。


 今のところ総合1位は俺。2位がエムネェスで、3位から下は知らない人が多かった。

「あれ? キョウカは?」

「キョウカはゴールに間に合わずランク外に落ちたぞ」

 あぁ……そうか。何となくそんな気はしていた。あのキョウカが、見知らぬ生徒とタッグを組まされて仲良く出来るとは思えない。いくら四つ星の魔術師と言えど、一人の力で突破出来る程この競技は甘くなかった。


「これで第二競技は終了! 休憩を挟んで第三競技だ! 遅刻すんなよ!」

 シャルロットは魔術双六の終了を告げた。今日1日ずっと喋ってるけど、喉が痛くなったりしないんだろうか。


 それからは怒涛の勢いで試合が進んだ。様々な試練、様々な駆け引きが繰り広げられ、競技プログラムは予定通りの時刻で進む。

 強者が次々と立ち塞がる激しい戦いではあったけど、特筆すべき点は無かった。『強者が次々と立ち塞がる激しい戦い』だったからこそ、それは普通なんだ。だって、先に進めば進む程敵が強くなるのは当たり前。全校生徒の頂点を決める戦いなら、後半に行く程弱者は蹴落とされ強者のみが残る。


 だけど決勝戦だけは、その原則から逸脱していた。


「さぁさぁさぁ! てめえら一日中よく張り切ってくれた! でも楽しい時間は有限! 今年の魔術体育祭も、残りは一競技! 最後の戦いが始まろうとしている! 決勝戦だあああああああああああああ!!」

 シャルロットの声は最高にヒートアップした。このノリについて来れる生徒は既に半分程度になっていた。

「決勝戦は特別ルール! 生徒全員に参加権がある訳じゃねえ! 選ばれた生徒だけがこの最終ステージに上がれる! この馬鹿みてえに集まった有象無象共の視線が、数人の生徒に集まるって寸法だ! 興奮しろ!」

 シャルロットのテンションがおかしくなって、言葉が汚くなる。『馬鹿みてえに集まった有象無象共』の中には王族もいるんだが大丈夫か? 後で怒られたりしない?


「現時点で! 5万点以上持ってる生徒だけが参加可能だ! 今から名前呼ぶから、そいつらはこのステージに上がれ! たった一人の生き残りをかけた魔術バトルだ! 降参するか立てなくなるまで試合は続く! 死にそうになったら助けてやるが、そん時は当然敗北な! 負けそうなフリとかすんなよ!」

 シャルロットの後ろには訓練場のような広い舞台があった。この殺風景な舞台の上で問答無用の戦いが始まる。シンプルで、盛り上がりそうな競技だ。

 第一競技との違いは、学生証じゃなくて学生本人が標的である事。それと参加者の人数か。選ばれた数人の生徒だけが参加するから、多勢に無勢とはなりにくい。


「じゃあ呼ぶぜ! 1年1組アレイヤ・シュテローン! 同じく1年1組ザハド・キーマン!」

 俺とザハドが選ばれた。ザハドはずっと上位だったから、選ばれるような気はしていた。

「そして、3年1組の……ん? ちょっと待て」

 他の参加者を呼ぼうとしたシャルロット。しかし彼女は口を止めて手元の板を見た。


「速報だ! 参加予定だった3年1組のエレーナ・ホークと2年1組のユキナ・オーシャンイーターが怪我による棄権を表明した! よって決勝戦は、アレイヤとザハドの二名のみで行う!」

 会場が騒めいた。上位4名のうちの2人が、怪我で棄権。学生達の想像を絶する展開だった。

「あのエレーナ様が?」

「ユキナ姫も……魔術学校を代表する天才なのに」

 周囲の動揺を聞くに、棄権した二人は相当の腕前らしい。簡単に怪我するような人じゃないそうだ。例えば、自分と対等な実力を持つ魔術師と戦いでもしない限り。


「行こうか。アレイヤ」

 ザハドは俺の隣を過ぎ去って決勝の舞台へ向かった。

「お、おう」

 俺も慌ててついて行く。返答に戸惑ったのは、ザハドの横顔はいつもと違ったからだ。爽やかで楽しげなザハドの笑顔は失せ、今の彼は勝利のみを見据えるような真面目な表情だった。彼の凛々しい顔立ちが、一層際立って見えた。

 1組の上級生が脱落した事に、一切の困惑は見せていない。これが当然だと言わんばかりに、彼は対戦相手の俺だけを見ていた。


 強者が脱落するという、異例の決勝戦。魔術体育祭最後の戦いが、幕を開けようとしていた。

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