第29話 「新たな人術で幸運を掴め」
スタート地点から再び進み、俺達は半分の辺りまで戻ってきた。
ここから5マス後には、「スタートへ戻る」のマスがある。サナは先程を思い出して唾を飲んだ。
「また最初に戻ったら……うちは……」
暗い顔をするサナ。既に失敗を脳裏に浮かべているようだった。
「大丈夫だ。ここから俺の頑張り所だな」
今もサナの『アンラッキールート』は俺に不運を及ぼしているのだろう。このまま賽を投げればまた5を出すはず。そして嘆くサナの顔なんて見たくない。
だから俺が俺の力で掴み取るんだ。希望の未来へ導く数字を。
人術なら出来る。運で左右される現象も、人の力で決定可能だ。偶然から必然へ。人類はそうやって進化してきた。
大昔は「神に祈るしかない」と諦められた難病も、医学の進歩が治した。
いつ来るか分からない大嵐も、天気予報の技術で予め知って対処出来る。
人が自分の力でどうにか出来ないものを、俺達は「運」と呼んだ。逆に言えば、自分の力で対応出来るのならそれは「運次第」じゃない。
人間が出来る事なら俺にも出来る。人術は紛れもなく『人間の力』なのだから。
人の歴史を今ここで再現しよう。想像するんだ。『賽を投げる』という人間の技術を、過大解釈する。それは未来を定める力。手の動作で立方体を動かし、6つの数字から1つを選ぶ力。
……あぁ、何だ。やっぱり運次第なんかじゃない。俺次第だ。やろうと思えばやれる事だ。
故に、『不運』なんかに左右されない!
俺は賽子を投げた。
出目は6。スタートへ戻るマスは通り抜けた。
「アレイヤ君……今」
サナが目を丸くして茫然としている間に、空間は書き換えられた。スタートへ戻るマスの一つ後、商店街のような空間に。
初めて辿り着いた場所に、サナは言葉を失っていた。ひっきりなしに周りを見渡して、俺にしがみ付いた。
「す、すごいですアレイヤ君! アレイヤ君の幸運が、うちの不運を上回りました!」
「運じゃない。俺が6の目を選んだんだ」
「えっ……。そんな事、どうやって」
「人術だよ。俺が今作った」
これがグリミラズに教わった技じゃない。俺がこの場を切り抜けるために編み出した、オリジナルの人術だ。
賽子の出目を操作するテクニック。不運を無視する力。
「名付けるなら《
人術の名前は制作者が名付けるのがセオリーだ。オリジナル人術を作ったのは初めてだから命名には慣れていない。もっといい名前は……。
「そうだな。だったら『ラッキールート』と呼ぼう」
思い付いた。これは『アンラッキールート』を否定するために生み出した人術。なら名前は『ラッキールート』が相応しい。
運は自分の手で掴める。その象徴だ。
「『ラッキールート』……」
サナは俺を見上げた。そして俺の手を握る。
「あぁ。俺は不幸にはならない。俺の未来は俺が勝ち取る。だから泣くな、サナ。お前は悪くないんだ。むしろよく頑張ってくれたぞ。ここに来るまでだって、俺一人じゃなくてサナが一緒に戦ってくれたんだ。自分の魔術に苦しんでるにも関わらず。だからもう、自分を責めなくていい。お前は俺のパートナーになってくれた」
サナは不運魔術に犯されながらも全力で競技に挑み続けた。不運を言い訳にして諦めなかった。その根気は俺以上だ。
今まで、サナに不運を移されてサナのせいにした奴らはきっと大勢いたんだろう。そいつらは何も分かってない。失敗を人のせいにして、気楽になろうとしただけだ。その責任を全部サナが負わないといけなかったなんて理不尽だ。
本人すら自覚してないけれど、サナは弱くないし足手纏いでもない。俺の頼れる仲間だ。
「ありがとう。この先もよろしく頼むぞ。お前の欠点は俺が補うから」
サナは顔を赤らめてコクコクと何度も頷いた。
「うち、本当は褒められたかったんです。こんなうちじゃ、夢に過ぎないって思ってたのに……」
サナは涙を浮かべた。だけど彼女は明るく笑う。
「夢、叶っちゃいました……!」
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