第17話 「逆転勝利」

 勝った。勝てた。

 四つ星の天才魔術師に。俺が一矢報いたんだ。

 勝利の実感がじわじわ湧いてくる。あれだけ絶望的な状況だったが故に、感動も一入だ。


「……退いて」

 仰向けで倒れるキョウカは、冷たい眼差しめ俺を見て俺の腹を蹴った。勝てて安心していた俺はキョウカに為されるがまま、四つん這いの状態から立ち上がる。


「びっくり360度。あのキョウカちゃんに勝っちゃった。滅多に見れないよこんなの。本日が僕の日でラッキー」

 アキマは両手を開いて顔の両側に置き、くるりと回った。

「しかも今アレイヤが使ったのは……風魔術か? 『ウィンド・ストロール』のように見えたが」

 ザハドは顎に手を添えて思案顔をした。魔術を使った? 魔術師じゃない俺が? だとしたらもう、俺は魔術師の入り口に立ったのかもしれない。俺はただ、新しい人術を編み出そうとしたに過ぎないのに。生まれ出たのは人術じゃなくて魔術だった。

 俺は自身の両手を見た。何か異変があるようには見えない。


「にゃははー。何かを掴んだようですねー。二人共、一皮剥けたんじゃないですかー?」

 ワットム先生は拍手した。俺にもキョウカにも、惜しみない労いを向ける。

「魔術師にとって魔力は心。心は魔力。魔術のぶつかり合いはお互いの心を知る事に繋がり、敗北の悔しさや勝利の喜びは心と一緒に魔力を育てます。一石二鳥ですねー」

 ワットムは満足げだった。全部彼の教育方針通りに進んでいたのか。俺とキョウカが戦いを通じて互いの魔力を知り、互いの心に触れる。そうやって仲良くなるのを狙ってたんだ。それが生徒の成長に繋がると信じて。


 いやでも、仲良くなれたのか? むしろキョウカの性格的に、自分を倒した相手なんて完膚なきまでに嫌ってそうだけど。

「えっと……キョウカ」

 恐る恐る、俺はキョウカに話しかけた。キョウカはすっかり立ち上がり、じっと俺を睨む。今にも殺しに来そうな程の目力だった。

 やっぱり嫌われてないか!? 彼女のプライドを傷付けてしまったのでは!? いやでも、それを気遣う素振りを見せると逆に怒られるかもしれない! 駄目だ! 何しても罵倒される未来が見える!


 キョウカは徐ろに口を開いた。どんな暴言を吐かれるのか。身構えていると、彼女は意外な一言を残した。

「……キョウカ・トール」

「へ?」

「キョウカ・トールよ。私のフルネーム。まだ私だけ名乗ってなかったから」

 それだけ言って、キョウカは訓練場を後にした。

 苗字も教えてくれた? それってどういう意味? 今後は苗字で呼べと?


 俺はザハドの方を見た。彼は満面の笑みで腕を組んでいた。

「ははははっ! すごいぞアレイヤ! キョウカが初対面の相手に心を開くなんて!」

 そうなのか!? あれ、心開いてるのか!?

 キョウカの本心が態度から読み取れない俺には、ただザハドの賞賛を信じる他なかった。

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