第24話 選び方

「これが聖剣か……持ってみてもいいか?」

「いいけど、鞘からは抜いちゃだめだよ。危ないから」


 三人だけの食事会を終えて、落ち着くとアクセルがベッドの横に立てかけられたままの聖剣に手を伸ばす。

 男の子らしく目を輝かせて鞘に収まる聖剣を手に持った。


「ああ……おぉ、……結構、重いんだな」

「剣に慣れてないとそうかもね。まあ、慣れだよ」

「ウルバノさん、本当に王子さまだったんですね……」

「大丈夫、私は気にしてないし、あのことは誰にも言わない約束する」

「……はいっ」


 遠い目で呟くアンネへ安心させるように笑いかけた。アンネが気にしているのは婚約について言ってしまったことだ。王子との婚約が嫌だと、本人に言ってしまっているわけだから気にしないというのも無理だろう。

 婚約については私も初耳だったし、アンネの本音には共感での出来る部分もあったから私は本当に気にしていない。たぶん、来る前に国王からアンネとの婚約について話をされていても、丁重に断っていたと思う。

 結婚どころか、私は恋だって出来る気がしないんだから。


「あのことって?」

「アンネと私だけの秘密だよ」

「……アンネ! 僕にも教えろ!」


「ふふっ、お兄ちゃんには教えてあげない」

「なんだそれ!」


 そんな他愛のない話をしていた。

 しばらくして聖剣を置くと直前まで顔を真っ赤にして怒っていたのが幻か何かのようにアクセルは真剣な面持ちに変わる。

 私も背筋を伸ばす。


「改めて、アクセル・ペティレクとして礼を言わせてくれ。ウルバノ、僕らを助けてくれてありがとう」

「いや、私は、カンナハを」

「竜のカンナハについてはアンネから聞いている。それも含めてだ。……僕たちのご先祖さまを、救ってくれてありがとう」


 顔が歪む。アクセルから視線を逸らす。


「助けてない、救ってない。礼を言われることじゃない。私じゃなければ、たぶんもっといい方法を見つけられた。私は流されて殺しただけ、何も出来てない」

「それが救いになることだってきっとある」

「私にだけ都合のいいことを言うなよ、アクセル」


 手のひらに爪が食い込むほど、強く手を握りしめる。震える拳で口を抑えた。


「……次はもっと、もっとうまくやる」


 私が街でグダグダとしている間に少なくない数の命が戦場で散った。今度のことで気が付いた。私は必要なら殺せる人間だ。それからたぶん、強い。

 ならば私が戦わないでいることは許されない。

 力を持つのだから、みんなを守るために使うしか許されない。

 私自身が許さない。


 そうして夜の闇は濃く深くなっていく。

 カンナハを殺したことを後悔する私と、戦場で魔物を殺して欠片の後悔もない私がいる。

 どちらも魔物であるけど、私は後者を死んで当然だとすら考える。

 全ては私情だ。感情に任せた判断だ。

 そんな自分を嫌悪しながら、私はその判断をやめる気はない。

 王城にいるあの子のことも思う。

 あの子のことは助けたいから助けた。カンナハのことは助かってほしいと思いながら殺した。戦場の魔物は死ぬべきと、怒りに任せて殺した。


今になってカンナハを殺した重みが両肩にのしかかった。


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