第22話 直送便で~す

「えっ!? 聖剣!?」

「あ、やべ」


 そんな声に咄嗟に背中へ隠す。当然、聖剣は、ほぼほぼ丸見えである。


「その聖剣はどないしたんです?」

「えっと~、召喚した」

「へえ、聖剣を、召喚」


 声を発したのはハコモだった。講堂の前に立っていたハコモが駆けよって来る。短く区切った言い方が少し怖い。でも、見つかったのがハコモでよかった。


「ニュウイルドの人たちの前に聖剣を持って出ない方がいいよね……」

「まあ、そうやろな。この危機に聖剣が使い手と現れたら救世主に担ぎ上げられるんちゃう?」

「それは……避けたいね。魔法師の詰め所に行くよ、アンネのこと頼めるかな」

「任せとけ」

「それじゃあ、アンネ。ここで」

「ウルバノさん、さっきのこと」

「大丈夫。誰にも言わない」


 そこでアンネとハコモと別れて、フェイのいる魔法師たちのもとへ向かう。聖剣がさあ……。

 私も先生に魔法を習っているし、まあ少しは役に立てるだろうか、なんて軽い気持ちで向かった。


「殿下! 聖剣の召喚は、成功したみたいだね……。さっき渡した魔法晶を返してくれるかな、戦線が崩壊したみたいで、っ……」

「う、うん」

「ごめん、今は構っていられない」


 濃い血の臭い。詰め所には騎士だけでない、武装したニュウイルドの領民も多くいた。包帯に巻かれた満身創痍の彼らの間を魔法師と医師たちが慌ただしく走り回っている。

 フェイは私から魔法晶を受け取ると、再び負傷した騎士たちのもとへ向かっていく。緊迫した空気に、さっきまでの軽い気持ちは吹っ飛んでいた。


「あ、あの、私に何かできることないかな」

「殿下……。気持ちはありがたいですが殿下は大人しくしていてください、我らの管轄で殿下が傷ついたとあっては王都に戻れません」

「でも、聖剣もあるし……」

「聖剣を持っていても殿下は子供です。講堂にお戻りください、我らが団長に叱られる」


 負傷した騎士たちに全力で諭される。いや、確かに子供だけど、私は子供だけど……!


「その返り血、殿下も魔物を倒されたのですね。もちろん、殿下には秀でた剣の才があることを知っております。でも前線に向かうのは我らの仕事ですから、殿下はここで……いえ、この街をお守りください」

「そうそう、殿下が都市を守られているからこそ、他のものたちも憂いなく戦えているようなものです」

「それはうそでしょ、さすがに……でも、そうだね。役割分担というものかな、……前線は君たちに任せるよ。頼むね」

「ええ! お任せください! 必ずや! 我ら騎士団が殿下に勝利を!」


 魔法師による解毒と解呪が行われて軽症で運ばれてきていた騎士が前線に戻っていく。その様子を見送り、どうしたものかと思案する。

 とりあえず聖剣はフェイに預けておいて、私は講堂に戻ろうか……。


「ギギギ、セイケン……」

「えっ」


 地面から足が離れる。内臓の浮く感覚に肩をきつく掴まれる痛み。見上げれば空を飛び回るだけだった羽根の生えた小鬼のような魔物が足で私を持ち上げていた。

 小鬼は私を見下ろすと小さく鋭い歯をむき出しにしてにやりと嗤う。気味の悪さに背筋がぞっとする。


「殿下!!」


 地面で私の状態に気が付いた騎士の幾人かが叫んでいる。どうにか小鬼から逃れようと暴れるも、周囲に他の小鬼らが集まってきてしまう。


「ギギ、セイケン、だ!」

「セイケンをコワせ!」

「コワせ! コワせ!」


 小鬼らが口々に耳障りな甲高い声で叫んだ。狙いは私の持つ聖剣である、らしい。いや、聖剣が魔物にとってどういうものであるのか、いくらか想像はついているけど。

 この間の、廊下ループ事件もある。どんな思惑があれ、とにかくこの状況を逃れなければならない。聖剣を握る腕に力をこめる紋が再び白く光り始め、そのとき。

 小鬼の足が肩から離れた。体に重力がかかる。落下の感覚。


「ひゅあっ……」


 変な声と鼻水がでた。

 だんっ!!

 じんっと全身がしびれるような両足への衝撃。聖剣の紋は変わらず光を放ち続けており、落下の衝撃をどうにかそらしてくれたらしい。地面にはクレーターがついている。

 聖剣がなければひき肉になっていた……。こわすぎる。


「グァ、?」

「セイケン」

「セイケンだ」


 視界のすべてを埋め尽くす武装した魔物の群れ。そこは戦場のど真ん中だった。


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