第40話:対峙

【学内選抜戦】の決勝戦、直後。

 魔族化したエルザが闘技場を強襲、会場を恐怖に陥れる。


 そんな窮地に、神剣北剣エルファングを携えた女剣士、カテリーナ先生が駆け付ける。


 ◇


 カテリーナ先生の神剣の一撃は、魔神化したエルザを吹き飛ばす。

 凄まじい威力の斬撃だった。


「先生⁉ その剣は……?」


「これはキタエル学園の唯一の神剣北剣エルファングです。保管庫を“こじ開ける”のに手間取り、駆け付けるのが遅くなりました」


「えっ⁉ 先生は神剣の使い手だったんですか⁉」


「いえ、私は正式な神剣の使い手でも、加護持ちでもありません。なので、あまり過度の期待はしないでください、ハリト君」


「いえ、それでもありがたいです!」


 さっきまで魔神化したエルザに、あれほどダメージを与えた剣士はない。

 神剣は有効打になるのだ。


「マリエル、ミーケ、今だ! あっちの物陰に避難して!」


「はい! ハリト様もお気をつけて!」


「分かったニャン!」


 この隙に、二人に避難の指示を出す。

 他の生徒か観客も、既に場外に退避済み。


 闘技場に立つのは、オレとカテリーナ先生の二人だけになる。


「ちなみに先生、今までどこに消えていたんですか?」


「実は急に剣士教団の偉い人に、呼び出しをされてしまいました。それで校舎の執務室に、ずっといました。ここの騒ぎを聞きつけて、お蔭で地下の神剣を持ってこられましたが」


「なるほど、そういうことだったんですね」


 先生が審判から排除されたのは、かなり大変だった。

 でもお蔭でギリギリのタイミングで、神剣を持ってきてもらえた。


 ん?

 でも、神剣の地下の宝物庫は、かなり厳重な警備。

 いち教師でしないカテリーナ先生は、どうやってこんなに早く開けてきたんだろう?


 うーん、ちょっと怖いから、聞かないでおこう。


 とにかく今は魔神化しかエルザを、どうにかしないと。


『くっ……また邪魔者が来たのね! 許さないんだから! 皆殺しよ!』


 神剣に吹き飛ばされたエルザが、戻ってきた。


 ダメージはそれほど受けてはいない。

 やはり加護持ちの剣士が使わないと、神剣の本来の力は出せないのだ。


「ふう……ほぼ無傷ですか? 本気の一撃だったのですが、やはりアレは上級魔族のようですね。これは困りましたね」


 相手の様子に、先生は毒づく。

 さっきの斬撃は、カテリーナ先生の渾身の一撃。


 そでも魔神化したエルザには、傷つけられなかったのだ。


「やはり“魔王の加護”持ちですか、アレは?」


 魔族は“魔王の加護”という特殊な加護で、守られている。

 どんな屈強の剣士でも、魔族に対しては攻撃が極端に通りにくいのだ。


「先生、一つお願いがあります」


「ん? 何ですか?」


「あの魔族は……実は知り合いなんです。だから最後はオレ自身の力で、なんとか決着をつけさせてください!」


「あの魔族が、ハリト君の? ふう……そういうことですか。世の中には色んなことあがるのですね。分かりました、ハリト君に一任します」


「ありがとうございます!」


「それでは、これを使ってください」


 先生は無造作に持っていた剣を……神剣北剣エルファングを手渡してくる。


「えっ⁉ でも、オレが使うよりも、先生が……」


「いえ、今の攻撃で分かりました。私では神剣を使いこなすことは出来ません。ですがハリト君……貴方なら引き出せるはずです」


「えっ……オレが?」


「はい、そうです。貴方は自分では自覚していませんが、恐ろしいほどの潜在能力を秘めています」


「えっ……潜在能力を?」


「入学して今までハリト君のことを、色々と見て触診してきました。そんな私だからこそ言えます、貴方ほどの素材を見たことがありません、と。ですから自信を持つのです……剣士としての自覚を」


「剣士としての自覚を……はい、やってみます!」


 先生から受け取った神剣を、握りしめる。

 上手く扱えるかどうかは、分からない。


 でも、使わなければ、この窮地は切り抜けられないのだ。


「いい目です。それなら必ず大丈夫です。それでは私は、あの二人を避難させてきます。だから全力を出しても大丈夫です。今までハリト君が無意識に抑えていた力を……」


 そう言い残し、カテリーナ先生は後方に下がっていく。

 まだ全力で動けないマリエルとミーケ。

 二人を両脇に抱きかかえる。


「それでは遠くに退避しますよ、二人とも」


「でも先生! そうしたら、ハリト様が……」


「大丈夫です。貴女たちを遠くに避難させたら、私もすぐに戻ってきます」


「それならば……ハリト様、それまで、お気をつけて!」


「ハリトたん! 先生が戻ってくるまで、絶対に無理しなでニャン!」


 先生に抱きかかえながら、二人は闘技場の外に運ばれていく。

 最後までオレのことを、心配してくれていた。


『ふっふっふ……ようやく二人きりになれたね、ハリト?』


 上空のエルザが、不敵な笑みを浮かべる。


 その口調から先生たちを、わざと見逃していたのであろう。

 ゆっくりと地上に降りてくる。


「ああ、待たせたね、エルザ」


 オレも彼女の前に進んでいく。

 この周囲にいるのは、オレたちだけ。


 闘技場の上で一対一の形。


「どんな手段を使っても、キミを止めてみせる、エルザ!」


 こうして魔族と化したエルザに、オレは戦いを挑むのであった。

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