第36話次鋒戦

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。


 お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で【学内選抜戦】に挑戦。

 なんとか決勝戦まで駒を進めることができた


 だが先鋒のマリエルが、謎の異変に襲われて、敗退。

 仲間の仇を討つため、ミーケが次鋒戦に挑む。


 ◇


『それでは次鋒戦、始め!』


 審判長の合図で、次鋒戦が始まる。


「いくぜ!……剣術技【第二階位】一の型……【蛇斬り】!」


 開始と同時だった。

 相手の次鋒が、ミーケに猛攻を仕掛けてくる。

 巨大な大矛(おおほこ)を振り回し、一気に攻撃を仕掛けてきたのだ。


「くっ……よく見て、受け流すニャー!」


 だがミーケは冷静に対処。

 身体能力の高さをフルに使い、相手の攻撃を受け流していく。


「甘いぜ! 剣術技【第二階位】二の型……【蛇斬り大蛇斬り】!」


 更に相手は剣術技を連発。

 体格が劣るミーケを、強引に攻め込んでいく。


「冷静に……相手を見るニャン!」


 ミーケは必死で回避に専念する。

 力では圧倒的に相手が格上。


 だがミーケは挫(くじ)けていない。

 相手の連続攻撃を、何度も回避。


 最小限の動きで、冷静に対処していく。


「ちっ! チョコマカと猫野郎が! 潰れ散れ!……剣術技【第二階位】三の型……【大蛇潰し】!」


 焦った相手は絶叫と共に、更なる剣術技を発動。

 防御こと相手を潰す大技を、発動してきた。


「これで潰れろぉお、獣人野郎がぁああ!」


 大技を発動して、相手は勝利を確信していた。

 非力なミーケは、この技は受け流すことは出来ないと。


「今だニャー! 『大地の精霊よ、我が足となり敵を討て!』……剣術技【第一階位】一の型……【地針斬(ちしんざん)】ニャン!」」


 だがミーケは冷静だった。

 即座にカウンターで剣術技を発動。


「なっ⁉ うぎゃっ!」


 予期せぬ罠をくらって、相手は体勢を崩す。

 ダメージは与えているが、相手の防御も固い。


 だが今が好機。


「いくニャん! 『大地の精霊よ、我が身体に強き力を……」


 ミーケは大技を発動の詠唱。


「よし! やった、ミーケ!」


 オレは思わず叫ぶ。

 この流れは彼女の得意パターン。


 このまま高火力の剣術技を発動。

 体勢を崩した相手は、耐え切ることが出来ないだろう。


「……ニャ⁉」


 だがミーケは発動が出来なかった。

 顔色が急変し、血の気が引いていた。


「うっ……」


 そのまま苦悶の声を上げて、片膝をつく。

 今まで元気に優勢に押していたのに、顔色が急変。

 さっきのマリエルと同じ状況だ。


「おい、審判! 何かが変だ! 試合を止めろ!」


 オレは大声で叫ぶ。


 この試合は明らかに不自然だ。

 早くしないとミーケの身が危ない。


「…………」


 しかし審判は無視してきた。

 聞こえているはずなのに、あえて無視しているのだ。


「隙あり! 砕け散れ!……剣術技【第二階位】四の型……【大蛇降ろし】!」


 片膝をついたミーケに向かって、相手は攻撃をしかけてきた。

 動けない相手に向かって、無慈悲な剣術技を発動してきたのだ。


「ミャッァー!」


 まともに攻撃を喰らい、ミーケは悲痛な声を上げる。

 場外まで吹き飛んでしまう。


『勝者! 剣士教団学園チーム!』


 場外となったところで、審判が宣言する。


「くっ! ミーケ!」


 急いで彼女の元に駆け寄る。


「うっ……」


「動くな、ミーケ!」


 急いで回復の魔道具を使う。

 応急処置を施す。


「あっ……ハリトたん……」


 よかった、ミーケの意識が回復した。

 まだ立ち上がることは出来ないが、何とか上半身を起こそうとする。


「まだ、無理をするな、ミーケ」


「見守ってくれて、ありがとう、ハリトタン。でも、負けちゃって、ごめんニャー……」


 ミーケは悔し涙を流していた。

 歯を食いしばっているが、大粒の涙は止まらない。


 そんな非情なタイミングでアナウンスが流れる。


『さて、これで剣士教団学園のチームの勝利が、ほぼ確定しました。一応は規則なので、これより大将戦を行います。両チームの大将は登壇してください!』


 このまま大将戦に突入するという。


(……コイツら、もしかしたら審判団までグル……いや、あの司祭長が張本人か⁉)


 直感的にビビッときた。

 先ほどのマリエルとミーケの異変。

 あれは、この司祭長が仕組んだ罠。


“何かの力”で、二人を弱体化。

 自分の属する剣士教団学園の勝たせたのだ。


(マリエル……ミーケ……無念だっただろうに……)


 ――――その時だった。


 今まで感じたことがない、感情が湧き出てきた。

 全身の血が沸騰するほどの強い感情。


 身体の奥底がフツフツと沸騰しているようだった。


(そうか……これが“怒り”か)


 今までオレは、怒りに身を任せたことない。


 だが、この感情な何なのか分かった。


 大事な仲間を卑怯な手で、傷つけられた。

 そのことに対して、オレは怒りの感情を抱いているのだ。


(アイツ等……許せない……な)


 卑怯な罠で、オレの大事な仲間を傷つけた元凶たる司祭長。

 共謀している審判団の連中。

 そして剣士教団学園の三人組。


(こうなったら……全員、“半殺し”にしてやる!)


 怒りのあまり、オレに負の感情が湧き出てきた。

 魂の奥底からドス黒いモヤが、湧き出てくる。


 その漆黒のモヤは、オレの全身を包みこもうとしていた。


 ――――だが、そんな時だった。


「ハリト様……そんな怖い顔をしては、ダメです……」


 オレの手を握る少女がいた。

 まだダメージが残るマリエルだ。


「ハリト様には、そんなに思いつめた顔は、似合いません。いつものハリト様に、お戻りください」


 マリエルは心配してくれているのだ。

 怒りのあまり、自分を見失っているオレのことを。


「マリエル……」


 オレの手を握る彼女の力は、か弱い。

 ダメージを受けていて、握力が残っていないのだ。


「ハリト様、私は大丈夫。だから元気をだして下さい」


 だが握る手から、強い想いを感じる。

 マリエルの優しさと、真っ直ぐな力だ。


「そうだニャン……ハリトたんには、そんな暗い顔は、似合わないニャン……」


 ミーケも上半身を起こしながら、オレの手を握ってきた。

 まだ自分が動けないのも関わらず、オレのことを心配してくれたのだ。


「そうですね、ミーケ。一緒にハリト様の応援を、ここからしましょう」


「わかったニャン……ハリトたんの勇姿を、ここから応援しているニャン」


 まだ選抜戦を、二人は諦めていなかった。

 決勝戦の最後の試合に向けて、気力を振り絞っていたのだ。


「マリエル……ミーケ……」


 そんな二人を見て、オレは言葉を失う。


 負の感情に飲み込まれそうになった自分。

 不甲斐なさを情けなく思う。


(オレは、この二人に比べて……子どもだっんだな……)


 彼女たちは選抜戦に全力で挑んでいた。


 マリエルは王都学園から追放された、悲しい過去を払しょくするために。

 キタエル学園の代表になり、ライバルに再び挑む想いがあった。


 ミーケは強くなって、自分の里の敵討ちを願っていた。

 そのために常に前を向いて励んでいた。


「ああ……そうだったな」


 二人の想いを感じて、血が上った頭が冷えた。

 今、オレが怒りに身を任せて、どうなる。


 暴挙に出て、失格になってしまったら、この二人の夢は途絶えてしまう。


 こんな時だからこそ、オレは冷静に行動をする必要があるのだ。


『ハリト団の大将は、はやく準備をしてください!』


 アナウンスで促される。


「ふう……後はオレに任せて、二人はここで、ゆっくり見ていてくれ」


「えっ……ハリト様……はい、信じて待っています!」


「ハリトたん……ファイトにゃー」


「ああ、任せて。あと二人の剣、少し借りていくよ」


 ミーケの細身剣と、マリエルの片手剣を手に取る。


 オレはゆっくり立ち上がり、両手に剣を構える。


「さて、いってくるか」


 こうして二人の想いを受け取り、決勝戦の大将戦。


 最後の戦いの場に、オレは向かうのであった。

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