第35話決勝戦、先鋒戦

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で【学内選抜戦】に挑戦。


 なんとか決勝戦まで駒を進めることができた

 破れていった同級生たちから想いを託されて、オレたちは決勝戦に挑む。


 ◇


 キタエル学園の一年生たちに背中を押されて、オレたちハリト団は闘技場の辿りつく。

 待機場所で各自の最終チェック。


 三人とも調子は最高潮。

 これなら最高のコンディションで戦いに挑める。


『それでは両チームの先鋒は、開始線に移動をしてください』


 司会者のアナウンスが響き渡る。

 いよいよ、決勝戦が開始となるのだ。


「それでは一つ目の勝ち星を、手に入れてきます!」


 ハリト団の先鋒……マリエルが闘技場に登っていく。

 足取りかは軽やか。


 その後ろ姿は、もはや頼もしささえ感じる。


(マリエルの調子が良そうだな……だが……)


 何となくオレは、妙な胸騒ぎがしていた。

 仲間のマリエルが原因ではない。


(この嫌な感じ……アイツ等……剣士教団学園の人からか?)


 これから対戦する相手。

 剣士教団学園の三人が発する雰囲気が、どうしても気にかかるのだ。


(でも事前の最終チェックでも、彼らはクリアだった。オレの思い違いかもな……)


 試合前には学園の教師陣が、選手に違反がないかチェックしてくれる。


(まぁ、何かあってもカテリーナ先生が審判するし、大丈夫だろう……)


 今日の審判は担任のカテリーナ先生。

 オレに固執で接する時はエロスが全開だが、普段は真面目な性格。


 相手が何か不正を仕込んでいても、即座に看破。

 試合を止めてくれるであろう。


『なお、決勝戦の審判は、格式ある“剣士教団”の司祭長様が行います!』


 そんな時、会場のアナウンスが響き渡る。


「なっ⁉」


 まさかの内容に、オレは自分の耳を疑う。


 何故なら審判が、カテリーナ先生から変更されるのだ。


(そんな馬鹿な⁉ 不公平すぎるだろうが⁉)


 決勝の相手の剣士教団学園は、剣士教団が経営している。

 それなのに審判が司祭長に変更。

 明らかに不正な臭いがする。


(カテリーナ先生は、この件を許したのか⁉)


 会場の中を見渡す。

 だが肝心の先生の姿が、どこにも見えない。


 こんな大事な時に、どこに消えてしまったんだ?

 もしかしたら何かの事件に、巻き込まれている最中なのか?


(とにかくこの決勝、何もかも怪しすぎる。止めないと!)


 オレは観客席の審判団に、抗議をしようとする。


 ――――だが時は既に遅かった。


『それでは先鋒戦、はじめ!』


 間に合わなかった。

 審判の合図と共に、先鋒戦が開始されたのだ。


 こうなったらタイミングが悪い。

 あとはマリエルに全てを託すしかない。


「参ります! 『風の斬撃よ、彼方の敵を斬り裂け!』……剣術技【第二階位】二の型……【飛風斬(ひふうざん)】!」


 合図と同時、マリエルが猛攻を仕掛けていく。

 得意の風の剣術技を、繰り出していく。


「ちっ⁉ ……剣術技【第二階位】一の型……【旋水斬り】!」


 相手の先鋒も、剣術を発動して対抗。

 双方とも開幕から全力で飛ばしていた。


「いきます!」


 たがいに【第二階位】の使い手、

 初撃は互角。


 だがマリエルは負けじと、更に攻撃をしかけていく。


 細かい斬撃で牽制しつつ、相手の崩しにかかる。


(よし! マリエル、いいぞ! かなり調子がいいぞ!)


 相手の先鋒の戦闘能力は高い。


 だが今のところマリエルが優勢。

 巧みに攻め込んでいるのだ。


(これも特訓の成果か……あと、今日で格段に成長しているのか⁉)


 マリエルは戦い方が、前よりも格段に上手くなっている。

 特に実戦での戦いが“強く”なっていた。

 実力以上の動きをしていたのだ。


「よし、いいぞ! このまま押し込めるぞ、マリエル!」


 マリエルの連続攻撃が、相手を着実に追い詰めていた。

 オレも思わず応援にも熱が入る。


 先ほどの違和感も、オレの杞憂(きゆう)だったのかもしれない。

 このままでいけば得意の剣術技を決めて、マリエルが勝ち星を得られる。


「っ⁉」


 その時であった。

 オレは背筋に悪寒が走る。


 何だ、この不快感は?


「――――いっ⁉」


 直後、マリエルが苦悶の声を上げる。

 そして突如、攻撃の足が急に止まる。


 更に顔色が急変。

 血の気が引いていた。


「えっ……マリエル、一回退くんだ!」


 異変を感じ、オレは思わず叫ぶ。

 彼女の状態は普通ではないの。


「くっ……」


 だがマリエルは動けなかった。

 片膝をついて、その場に動けなくなってしまう。


「隙あり! 剣術技【第二階位】三の型……【骨砕き】!」


 そんなマリエルに向かって、相手の先鋒は剣術技を発動。


 動けない相手に向かって、無慈悲な斬撃を喰らわせる。


「キャァーー!」


 まともに攻撃を喰らい、マリエルは悲鳴を上げる。

 場外まで吹き飛び、そのまま倒れてこむ。


『勝者! 剣士教団学園チーム!』


 エルザが場外負けとなったところで、審判が宣言。

 勝者の右手を掲げる。


 その二人の口元には、怪しい笑みが浮かんでいた。


「くそっ、アイツら! いや……今はマリエルが先だ!」


 審判に推し寄りたいが、ぐっとこらえる。

 倒れているマリエルの元に、ミーケと一緒に急いで向かう。


「大丈夫か、マリエル⁉」


「マリエルたん! しっかりするニャー!」


 医務係よりも早く、二人でマリエルの元に駆け寄る。

 頼む……生きていてくれ。


「うっ……」


 よかった、マリエルは生きていた。

 だが意識が朦朧もうろうとしている。


 近くに設置してある回復用の魔道を、すぐにマリエルに使う。

 お蔭で何とかマリエルは意識を取り戻す。


「ごめんなさい……ハリト様……ミーケ……」


 マリエルは倒れながら、謝ってきた。

 まだ動けないにも関わらず。頭を下げようとしてくる。


「私……先鋒の役目を果たせませんでした……本当にごめんなさい……」


 不本意な結果に、マリエルは悔やんでいた。

 悔し涙を見せないように、必死で歯を食いしばっていた。


『それはで次鋒戦を始めます。両チームの代表は登壇してください!』


 非情なタイミングで、アナウンスが流れる。

 このまま次鋒戦に突入するという。


「おい! 待ってくれ! 何かがおかしい! 試合を中止してくれ!」


 観客席の審判団に向かって、オレは大声で抗議する。


 先ほどのマリエルが止まった瞬間、明らかに何が起きた。

 このまま次鋒戦を続けるのは危険。


 会場を調べてくれと、直訴する。


『……ただ今、調査してみましたが、特に異変はありません。よって、次鋒戦は続行します!』


「なっ⁉」


 だが審判団は、話を聞いてくれなかった。

 探知の魔道具で調査したが、特に異変無しだと説明してくる。


 会場の安全を確認できた。

 ゆえに次鋒戦に移ると。


『もしも異論があるのなら、ハリト団は棄権しても構いませんよ? 六十秒以内に決断してください』


 更に審判……司祭長は、オレに向かって宣言してきた。

 大会ルールに従って返答がなければ、このまま棄権とみなすと。


「なんだと……?」


「ハリトたん、棄権はダメ……ミー、いってくるニャー!」


「でもミーケ、危険すぎる!」


「大丈夫ニャー……だって、三人で、ここまで頑張ってきたから……だから大丈夫ニャー!」


 ミーケは笑顔で開始線に向かう。


 大事な仲間であるマリエルの仇を討つ。

 ミーケは強い覚悟で、次鋒戦に挑もうとしているのだ。


『それでは、これより次鋒戦を始めます』


 こうなったら止めるのは不可能。

 今のオレはミーケを信じて、見守ることしか出来ない。


『それでは次鋒戦、始め!』


 こうして次鋒戦の開始の声が、非情に響き渡るのであった。

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