第34話:託された想い
オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々。
【学内選抜戦】にオレはマリエルとミーケの三人で挑戦。
なんとか決勝戦まで駒を進めることができた
◇
決勝戦の時間が迫ってくる。
オレたちは選手控え室で待機中。
負けてしまったチームは、観客席に移動していく。
残すは決勝戦だけ。
控え室にはオレたち三人しかいない。
『それでは、もうすぐ決勝戦が始まります。出場選手は、移動をお願いします』
司会者のアナウンスが聞こえてきた。
休憩時間が終わり、決勝戦が始まるのだ。
「いよいよだニャー……」
「そうですわね……」
待機室のミーケとマリエルは、緊張した面持ちだった。
何しろ決勝の相手は今までとは別格。
試合前から緊張しているのだ。
「二人ともそんなに心配しなくても大丈夫だよ。作戦通り、今まで通り戦ったら、必ずオレたちが勝つから!」
「今まで通り……そうだニャん、ハリトたん!」
「ですわね、ハリト様!」
二人の顔から緊張の色が消える。
ここまで来るまで、オレたち三人は頑張ってきた。
放課後の三人での自主練。
魔の森での、危険なモンスター狩りの特訓。
他の生徒たちが遊んでいる時間も、常に鍛錬を積んできた。
今思え返せば辛かった日々。
だが今となっては、全てが必然。
努力は自分たちの身体に染みつき、今の自信となっていたのだ。
「よし、それじゃ、ハリトたん! 景気づけに、例のやつお願いニャン!」
「アレか……うん、わかったよ」
とても恥ずかしい掛け声。
だが仲間の発案だから断れない。
三人で円陣を組む。
「それじゃいくよ……『ハリト団、ファイト!』」
「「「おー!」」」
気合は十分。
オレたちは待機室を出発する。
向かうは長い廊下を抜けた先。
中央の闘技場だ。
「ん?」
部屋を出て、気が付く。
廊下に、人が沢山並んでいたのだ。
「キミたちは……か」
廊下にズラリと並んでいたのは、他のクラスの人たち。
全員が無言で、オレたちを見つめてくる。
「オレたちに何か用かな?」
「「「くっ……」」」
訊ねても、誰も答えてこない。
立ち尽くす生徒たち表情は、何とも言えない複雑なもの。
皆は何かを言おうとしている。
「お、お前たちさ……」
「い、いや、何でもない……」
だが思い止まって、誰も最後まで言ってこない。
様子がおかしい。
中には歯を食いしばり、拳を握りしめている者もいた。
オレたちに“何か”を伝えようしている。
だが、何かが押し止めていた。
様々な感情が入り乱れている、変な空気だ。
(ああ……そうか。この人たち、“そういうこと”か……)
そんな空気から、オレは何かを察する。
ヒントは先ほどの、剣士教団学園の準決勝の後のこと。
観客席にいた他のクラスの人たちは、悔しさに嘆いていた。
何しろキタエル学園で、最大のイベントの一つの選抜戦。
それが大人に事情で、特別参加“剣士教団学園”の三人組によって、蹂躙(じゅうりん)されていた。
このままでは選抜戦の優勝カップは、あの横暴な三人組に、奪われてしまう可能性が高い。
だから他のクラスの人たちは、言葉をかけにきたのだ。
キタエル学園の生徒として決勝戦に挑む、オレたち三人組に。
(だが“今までのこと”があるから、言い出せないのか、この人たちは……)
まだ誰も言葉を発せずにいた。
何故ならキタエル学園では、他のクラス間はライバル同士。
いや……はっきりいって、仲は悪い。
他のクラスの人はオレのことを、“姫のヒモ”と陰口を叩いていたらしい。
ミーケのことは“猫人”と差別的な陰口を。
そして今日になり、マリエルのことを“失墜(しっつい)の剣姫”と、陰口を叩いていた。
だから他のクラスの人たちは罪悪感で、言い出せないのだ。
でも、このままでは時間が押してしまう。
オレは勇気を出して問いかける。
「ねぇ? 何か言いたいことが、あるんだよね?」
無言のままの生徒たちに向かって、オレは問いかける。
彼らの本心を引き出すために。
「でも、オレたちは……」
「ああ、今まで……」
「こんな時だけ、虫が良すぎる訳で……」
彼らの表情は、今までとは違う。
おそらく心のどこかで、反省しているのであろう。
今までの蔑んできた、自分たちの言動を。
そして、オレたちに対して、謝罪の言葉を発してきた。
「お前たちは、本物だったよ……」
「ああ、間違っていたのは、オレたちだった……」
「オレたちは羨ましかったんだ……」
この人たちも何か感じたのであろう。
今日の選抜戦を戦い抜いて。
オレたちと直接剣を交えて、本気で剣術技を打ち合い。
ハリト団の実力と、陰の努力を肌で感じているのだ。
「ねぇ、ハリトたん……」
「ハリト様……」
そんな彼の変化を、ミーケとマリエルも感じていた。
どうすればいいのか、オレに全てを託してくる。
「そうだな……」
はっきり言って、オレは複雑な人間関係が嫌いだった。
ずっと一人で剣の稽古をしているのが、幼い時から一番好きだった
友情や仲間意識。
そんなモノはキタエル学園に入学するまで、不要だとも思っていた。
「ふう……オレたちは優勝してくるよ。キタエル学園を代表して必ず。だから、そんな湿気(しけ)た顔をしちゃダメだよ、みんな」
「「「えっ⁉」」」
そんなオレからの、まさかの言葉。
廊下に並ぶ生徒たちは全員、言葉を失う。
自分たちの耳を、疑っているのだ。
「もしかしたら分かりにくかったかな? それならみんな的に簡潔に……『あのムカつく他校生は、お前らの代わりに、オレたちがブッとばしてくる!』 だから……」
昔のオレは複雑な人間関係が嫌いで、友情や仲間意識も不要だと思っていた。
でもキタエル学園に入学してから、オレは変わった。
「だから、みんなも、いつもの調子で、応援たのむよ! そうしたら今までの分は、全部チャラにしてあげるから!」
オレは知っていた。
今日の選抜戦を見て、他のクラスの全員の努力を感じていたのだ。
そんなオレの言葉を聞いて、皆の表情が変わる。
「ああ……応援、任せてくれ、ハリト!」
「オレたちの悔しさの分まで、頼んだぞ、三人とも!」
「絶対に優勝してくれ、お前たち!」
廊下にキタエル学園の一年生……全員の叫びが響き渡る。
これは彼らの心の想い。
今まで貯めこんでいた色んな感情。
呪縛を解かれたように、一斉に溢れでしてきたのだ。
「ハリト様……」
「ハリトタン……」
「そうだね、いこう! みんなの想いを背負って、この道を!」
「はい、ですね!」
「だニャン!」
声援が鳴りやまない廊下を、オレたちは駆けていく。
ここは同級生が作ってくれた、想いの花道。
一歩ごとに誰かが、背中を押してくれる頼もしい感じ。
否が応でも、モチベーションは高まる。
(よし……皆のため……キタエル学園のために、頑張ろう!)
目指すは、ただ一つ“優勝”。
こうして託された想いを受け取り、学園代表としてオレたちは決勝戦に挑むのであった。
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