第33話快進撃

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々。


【学内選抜戦】にオレはマリエルとミーケの三人で挑戦し、一回戦を三連勝で無事に突破する。


 そんな中、マリエルに対して悪意の噂が聞こえてきた。


 ◇


「マリエル、ミーケ、必ず優勝しよう!」


「はい、ハリト様」


「そうだニャん!」


 仲間の名誉を回復させるため、改めてオレたちは優勝を誓い合う。


『“ハリト団”の生徒は、二回戦の準備をしてください』


 そんな時、アナウンスで名前が呼ばれる。

 オレたちの出番が近づいてきたのだ。


「よし、まずは目の前の試合……二回戦を頑張ろう!」


「わかったニャン!」


「次も先鋒は私に、おませ下さい! 三人抜きいたしますわ!」


「でも、マリエルたん、そんなに気合いれても、先鋒は勝ち抜き戦じゃないニャー……」


「あっ⁉ オッホホホ……ですわ。私としたことがウッカリですわ!」


 二人とも噂のこと、もはや気にしていない。

 調子は良さそうだ。

 これなら二回戦以降も何とかなりそうだ。


「さぁ、いこう!」


 こうしてオレたちは一致団結して、二回戦に挑む。


 ◇


 それから選抜戦、ハリト団は順調に勝ち進んでいく。


 まずは二回戦。

 ハリト団は好調。


 先鋒のエマリエル。

 見事な剣術技の連続攻撃で、相手をノックダウンさせる。


 次鋒はミーケ。

 猫獣人の身体能力を使い、機動力で勝負を挑む。

 最後は得意の地系の剣術技で勝負を決めた。


 そして大将のオレ。

 突進系の剣術技で一撃決めた。


 こうして二回戦もハリト団は三連勝。

 無事に突破できたのだ。


「やったニャー、ハリトタン!」


「やりましたね、ハリト様!」


「よし、このまま一気にいこう!」


 三人ともスタミナ消費は最小限で済んだ。

 モチベーションも高く調子は良い。


 この後も上手くいけそうな気がする。


 ◇


 その後もハリト団の快進撃は続いていく。


 三回戦は準々決勝となる。


 こちらも三連勝と危なげなく突破。


 ◇


 次の四回戦は準決勝。

 相手はかなりの強者ぞろい。


 特に次鋒は、相手チームのポイントゲッターの強者だった。

 だが次鋒のミーケは相手の猛攻を耐え切り、技ありの引き分け。


 最終的に二勝一分けで、ハリト団は勝利を収める。


「やったニャー! やったニャー!」


「ミーケ、ナイスファイトでしたわ!」


「二人ともお疲れさん。いよいよ次は決勝戦だね」


 準決勝を勝ったので、ハリト団の決勝進出は確定。

 対戦相手は、これから決まる。


「よし、決勝の相手を確認しにいこう」


 もう一つの準決勝を、三人で見に行くことにした。

 オレたちは観客席に座り、次の相手が決まる試合を偵察する。


 準決勝クラスになると、残るチームは強者ぞろい。

 試合もかなり接戦になるであろう。


「えっ……何ですの、あの三人は……」


 だが試合は、あっとう間に終わる。

 例の特別参加の三人組が圧勝したのだ。


 試合を見ていたマリエルでさえ、言葉を失っていた。


「す、凄く強かったニャー、あの三人は……」


 同じくミーケも唖然としている。

 相手もかなりの強さだったが、特別参加の三人が一方的な試合を決めたのだ。


 唖然としているのは二人だけはなかった。


「な、なんだよ……今の試合は……」


「準決勝が……こんな一瞬で……」


「アイツ等が、あんな……子ども扱いにされて……」


 キタエル学園の生徒……仲間を応援していた隣クラスの連中も、言葉を失っている。


 何しろ特別参加の他校生に、自分たちの仲間が手も足もでなかった。

 キタエル学園としての誇りが、一瞬で打ち砕かれてしまったのだ。


「特別参加か……あの連中のことを、何か知っている、マリエル?」


「あの制服は王都のものとは違います。見たことがない制服ですわ……」


 情報通なマリエルですら知らないのか。

 それなら知らないのも無理はない。


(よし、それなら、観客席の、あの話好きな連中から、情報収集を……)


 意識を聴覚に集中。

 オレ得意の地獄耳で盗聴を開始。

 耳の先は、観客席の有力者たちだ。


 なんかの資料をもっているアイツ等なら、特別参加組の情報も知っているはずだ。


 おっ、よし、聞こえてきたぞ。


 ……『おお! さすがは剣士教団学園の三人は、別格じゃったのう!』


 ……『ですな! さすがは剣士教団の直属機関ですな!』


 ……『これで優勝は、彼らに間違いないな!』


 有力者たちの会話に中に出てきたのは、聞き覚えのある単語。

“剣士教団”といえば、観客席にいる怪しげな集団のことだ。


 それ以外の情報は、今のところ聞こえてこない。

 とりあえずマリエルにもう一度、聞いてみるとする。


「ねぇ、マリエル。“剣士教団学園”って知っている?」


「えっ、剣士教団学園ですか? たしか剣士教団が直接運営している学園……教団の本部がある聖都に、学園があったはずが……」


「聖都にある学園か。そこはどんな学園か分かる?」


「私も詳しくは分かりませんが、大陸にいる信者の中から、特に優れた才能がある子どもを集めて、独自のカリキュラムで剣士を育成している学園……そう聞いたことがあります。それがどうしたのですか、ハリト様?」


「今……いや、さっき廊下で聞こえたんだけど、あの三人組は、どうやら、その剣士教団学園からの特別参加らしい」


 マリエルたちにも一応は情報を、教えておく必要がある。

 何しろ決勝で当たる相手のことだ。


 まぁ、廊下で聞こえた……というのは嘘も方便だが。


『えー、来場の皆さん。今の試合はいかがでした?』


 そんな時、アナウンスが流れる。

 先ほどまでの司会ではない。

 挨拶をしているのは、神官着の小太りの中年男だ。


『私は“剣士教団学園”の理事であり、剣士教団の司祭長のダンチでございます!』


 男は自己紹介をしてきた。

“剣士教団学園”の理事……つまり、特別参加の三人を引率してきた責任者だという。


『今回は栄光あるキタエル学園の選抜戦に、当校からも三名が参加させて頂きました。結果は、ご覧の通りでした。この後の決勝戦は、どうなるか既に決していると思いますが、どうぞお楽しみにご覧下さい!』


 そう一方的に言い残して、ダンチという司祭長は話を終える。

 かなり上からモノを言う相手だ。

 聞いているだけは不快感がある。


 そして今の挨拶に不快感があったのは、オレだけではない。

 周りの席に座る生徒たち……キタエル学園の生徒たちも同様だった。


「くそっ……なんだ、アイツは!」


「ああ、そうだな! なんで、あんな奴らが、うちの選抜戦に乱入してきたんだよ!」


「おい、剣士教団の陰口はマズイぞ……どこに信者がいるか分からないぞ……」


「でも、このままだと、他校生に優勝を持っていかれちまうぞ……」


 クラスメイトたちは嘆いていた。

 学園生活で最大のイベントの一つである選抜戦。


 それが大人に事情らしき特別参加の制度によって、乱されてしまった。


「くそっ! なんなんだよ! そうなったら、オレたちの今までの厳しい授業に耐えてきた苦労は、どうなるんだ⁉」


「ああ、水の泡だな……」


「どうして先生たちは、あんな横暴な奴らに、選抜戦に参加させたんだよ……」


 恐らく今回の特別参加してきたのは、大人の事情があったのであろう。

 その証拠にキタエル学園の教師陣も、先ほどから苦い顔をしている。


 マリエルの話では剣士教団は、独自の強大な影響力を持つ。

 きっと司祭長が強引に、自分の生徒を参加させたのであろう。


「とにかくオレたちの決勝戦の相手は決まった。気持ちを切り替えていこう」


「そうですわね、ハリト様。それにしても、あの強さ……決勝戦は、かなり手強い厳しい戦いになりそうですね……」


 いつもは自信満々のマリエルだが、今は眉をひそめる。

 何しろ先ほどの三人の戦闘力は、今までの相手とは別格。


 客観的に見ても、マリエルですらギリギリ勝てる相手。

 ミーケに至っては現時点では、かなり勝ちは難しい。


 つまり優勝するのは、かなり厳しいのだ。


「そんな顔をするな、マリエル。オレたち三人なら大丈夫だ!」


「ですがハリト様……」


「大丈夫だニャー、マリエルたん! ハリトたんの予言はいつも当たってきたし、頑張ろうニャン!」


「そうですね……はい! 私も今まで以上の力で、決勝戦に挑みますわ!」


 マリエルにいつもの自信が戻ってきた。

 銀色の髪の毛をかき上げて、笑顔を取り戻す。


『それでは、少し休憩した後に、決勝戦を始めます!』


 準決勝が終わったところで、司会者からアナウンスがある。


 決勝戦は本日のメイン試合。

 休憩をして両チームとも万全の体勢で開始となるのだ。


(剣士教団学園か……厄介な相手だな……)


 こうしてオレたちは決勝戦に挑むのであった。

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