第31話ライバルチームを偵察

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々。


 一学年生の大イベント【学内選抜戦】が開幕。

 オレはマリエルとミーケの三人で挑戦し、一回戦を三連勝で無事に突破する。



 ◇


 チャラい男な軍団との一回戦の後。

 オレたちは待機部屋で、小休憩にはいる。


 次の二回戦までは、少しだけ時間が空く。

 参加者は待機部屋で、体力を回復に励む時間だ。


「あれ、ハリトたん。どっかに行くのニャー?」


「あっ、うん。ちょっと散歩に」


 だがオレは一人で、待機部屋を後にする。


「時間は大丈夫ですか、ハリト様?」


「ああ、すぐに戻ってくるから」


 マリエルとミーケを待機室において、オレは会場の中を散歩することにした。

 向かう先は観客席。

 目的は、他の候補生の試合を偵察するためだ。


「一回戦は結構な強敵だったからな。とりあえず情報収集でもしておくか」


 マリエルはともかく、オレとミーケは少し危ない試合だった。

 出来れば二回戦以降は、楽に勝ち進んでいきたい。

 そのための情報集で、偵察だ。


「さて、どんな感じかな……」


 観客席に着席。

 闘技場で行われていく試合を、観察していく。


「なるほど……全体的にレベルは高いな。みんな頑張って、ここまで成長してきたんだな」


 試合を見ながら感心する。

 入学直後の合同授業に比べて、生徒たちは圧倒的に成長していた。


 誰もが必死に、鍛錬を積んできたのであろう。

 剣術技の精度とレベルが、目に見えて向上している。


「でも、まぁ。なんとなくだけど、この分なら、決勝戦までいけそう……かな?」


 客観的に見て、ミーケより強い生徒は何人かいる。

 だがマリエルほどの者はいない。


 選抜戦は三対三の団体戦。

 つまり大将のオレさえ頑張れば、二勝以上をキープ可能。

 決勝まで勧める可能性があるのだ。


「さて、あとは見なくていいかな?」


 大よその情報収集は終わった。

 そろそろ戻るとするか。


 早く帰らないと、マリエルたちも心配するであろう。


「ん?」


 そんな時であった。

 ちょうど始まった試合に、思わず目を止まる。


「何だ、あの人たちは⁉」


 明らかに今までとは違うチームが、登場したのだ。


 凄く強い三人組だった。


 圧倒的な戦闘力で、あっとう間に三連勝してしまう。


「あんな三人組……うちの学園にいたかな?」


 見たこともない顔の三人だった。

 間違いなく同じクラスの連中ではない。


 ということは別のクラスか?

 だが入学式の時には、見なかった顔の三人組。

 というか戦闘の制服が、キタエル学園とは違う。


「ということは、特別参加の連中か?」


 そういえば選抜戦には、他校から一チームが特別参加しているという。


 思い出して見ると、制服デザインが若干違っている。

 三人は黄色と白をベースとした制服。

 これで他校からの特別参加組だと確定した。


「それにしても、今のあの戦い方は……あの三人、手を抜いていたよな……」


 先ほどの戦い方を思い返す。

 信じられないことに他校の三人組は、本気を出さずに三連勝。


 うちの学校の連中が、誰もが必死で挑んでいる選抜戦。

 それをあざ笑うかのよう、片手をポッケに入れた状態で戦っていたのだ。


「はぁ……何だろうな。この不快感は……」


 オレはこのキタエル学園に、今や愛着がある。

 だから三人組の戦い方を見ていたら、あまり気分はよろしくない。


「とりあえず……要注意だな」


 不快感は別にして、特別参加の三人の実力は飛びぬけている。


 トーナメント表によれば、オレたちとは反対側のブロック。

 当たる可能性があるのは、最後の決勝戦で。


 念のために、注意しておくことにした。


「さて、戻るとするか……」


 情報収集も終わったので控え室に戻ることにした。

 まだオレたちの第二試合まで、時間はある。


 もう少し、ゆっくり出来るであろう。


 ◇


 出場者の休憩室に戻ってきた。

 休憩室の前で、マリエルたちをバッタり会う。


「あれ? 二人もどこか行ってきたの?」


「ミーたちも、少し散歩してきたニャー!」


 なるほど、そういうことか。


 ミーケとマリエルも暇を持て余していた。

 二人でコロッセオ外周を、散歩して来たという。


 さて、三人揃ったところで、中に入ろう。

 この後の二回戦の作戦会議をしよう。


(ん?……何だ、この視線は?)


 控え室の入った時だった。

 周囲から視線を感じる。


 これは控え室にいる、他の参加者たちからの強い視線だ。


(視線はオレに対してじゃないな。これは隣の……マリエルに対して?)


 つい先ほどの控え室とは、雰囲気から一変していた。

 あまり好ましくない視線……負の視線が、マリエルに向けられているのだ。


 主に視線を向けてくるのは、他のクラスの令嬢軍団。

 ヒソヒソ話をしながら、マリエルをチラ見している。


 当人のマリエルはミーケとの会話で、まだ気がついていない。


(とりあえず、何を蔭口しているか、調べておくか……【走馬灯そうまとうモード・壱の段】発動、盗み耳!)


 意識を集中して、自分の地獄耳を強化。

 これで盗み聞きができるはず。


 さて、どんなことを言っていているのだろうか?


「…………ねぇ、聞きました? あのこと?」


「ええ……私も聞きましたわ……まさか、あのマリエル様が、あんなことになっていたとは……」


「同感ですわ……私たちもすっかり騙されていたということですわ……」


 令嬢たちの会話の内容は、やはりマリエルについて。

 でも、何の噂話なのであろうか?


「…………どうりで、あんな獣人の子や、イケメンだけど庶民出の男子と一緒にいる訳ですわ……」


「ですわね……お似合いの三人組だったという訳ですわね……」


 驚いたことに、マリエルは白い目で見られていたのだ。


 彼女は王女であり、転校してきた時から、特別な扱いをされてきた。

 学園のカースト最上位いるお姫様マリエルに、まさかの異変が起きている。


 原因はいったい何だ?

 もう少し調べてみる。


「私たちも今まで、気を使って損をしましたわ……」


「そうよね……でも、これからマリエル姫も、お終いね……」


 明らかに令嬢たちは、マリエルのことを陰で軽んじている。

 つい先日まで持ち上げていたのに、すごい手のひらの返しようだ。


「可哀想に……あの“失墜(しっつい)の剣姫”さん……」


「そうね……あの“失墜の剣姫”は……」


 そして令嬢たちが口にしているのは、聞きなれない呼び名。

“失墜の剣姫”という明らかに蔑(さげす)んだ俗称だ。


(“失墜の剣姫”……だと。さっきの観客席でも聞こえたけど、どういう意味だ?)


 耳慣れない言葉だが、間違いなくマリエルの対する悪口だ。


「マリエルたん……アイツ等……」


 その時であった。

 談笑していたミーケの顔が、急に曇る。


 獣人族は聴覚も優秀。

 自分の隣にいる友人に向けられている、負の視線の気が付いたのだ。


「大丈夫です、ミーケ。気にしないでも」


 一方でマリエルは気にしていない。


 いや、彼女は最初から、気が付いていたのだ。

 控え室に戻ってきた時から。


 最初から分かって、気にしなようにしているのだ。


「でも、マリエルたん、アイツ等、悪口を……」


「そうですね。ここまで広まってしまったら、二人だけには、事情を話さないと。ハリト様、ミーケ、少しだけお話があります。お時間、少しよろしいですか?」


 マリエルは神妙な顔で訊ねてきた。

 話の内容は十中八九、今の噂話についてであろう。


「ああ、大丈夫だ。二回戦までの時間も余裕がある。誰もいない、建物の裏で話を聞こう」


「もちろんミーも大丈夫ニャン」


 マリエルの顔は今になく真剣だった。

 仲間として、話を聞いてやらない訳にはいかない。


 でも話とは、いったいどんな内容なんだろう……。

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