第30話一回戦の結果

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々。


 学園に現れた幼馴染のエルザは、放心状態でどこかに消えてしまう。


 そんな中、キタエル学園の一学年生の大イベント【学内選抜戦】が行われることに。

 オレはマリエルとミーケの三人で、選抜戦に挑むことにした。


 一回戦の先鋒は、マリエルが勝ち星を得る。

 そして次鋒戦はミーケの出番がきたのだ。


 ◇



「次はミーケ……あなたの番よ!」


「ミーに任せるニャン!」


 マリエルは次の仲間にバトンタッチ。

 仲間の絆を繋ぐバトンタッチだ。


「それじゃ、ハリトタン。行ってくるニャー」


「気を付けて、ミーケ。ヤバそうだったら、棄権しても大丈夫だから」


 実戦では戦闘力のミーケは高い。

 でもクラスで模擬戦では、戦績はそれほど良くない。


 おそらく訓練剣はあまり得意じゃないのだろう。

 だから無理は禁物を事前に伝えている。


 だが今回の選抜戦は三人による団体戦。

 万が一、ミーケの調子が悪くて可能性はある。


 先鋒のマリエルと大将のオレで二勝すれば、次に勝ち進めるのだ。


「わかったニャン。無理せずに、精いっぱい頑張ってくるニャン!」


『ではハリト団の次鋒の選手は、登壇してください』


「いくニャン!」


 ミーケは元気よく闘技場に登っていく。

 装備は細身の剣。

 軽くて扱いやすく、突き技が主体の武器だ。


 ミーケが闘技場に上がると、観客席が軽くザワつく。


「あの次鋒の子……獣人族なのか?」


「この資料によれば、猫獣人らしいぞ……」


「獣人の剣士か……さっきのマリエル姫とは違い、今回は期待できないな……」

 

 選手名簿を見ながら、有力者たち失笑している。


 何しろ獣人の身体能力高いが、剣での戦いは得意ではない。


 それに比べて人族は、剣を得意とする種族なのだ。


(外野の声があるな……でもミーケは大丈夫そうだな)


 観客席のザワめきを、ミーケは気にしていない。

 良い感じで集中しているのだ。

 この分なら十分に実力を発揮できるだろう。


『では“ウラヌスの三銃士”の次鋒も前に!』


「はいっす!」


 相手の次鋒が出てきた。

 チャラそうな軍団の中で、一番大柄な槍使いだ。


「ほほう、彼は……」


「資料によれば、ザンダース伯爵家の六男の……」


「たしか彼は少年の部の武闘会で、入賞したこともあった才能ですな……」


「この勝負は見るまでもなく、最早決まりですな……」


 相手の次鋒の登場に、権力者たちが湧きたつ。


“猫獣人の少女”対“貴族の優良男子”


 あまりにも実力差が有り過ぎる勝負だと、鼻で笑う者もいる。


(ところで、次鋒の彼は……たしか……)


 そんな観客席の雑音も流しつつ、オレは対戦相手を観察する。

 この人も合同授業で見た覚えがある。


(でもさっきの人と同じく、腕を上げている感じだな……)


 槍を構える姿に、隙は少ない。

 総合力では、学年でも上位に入るであろう。


(槍使いか……ミーケにとって相性は悪いな……)


 ミーケは細身剣を使うことも出来るが、基本的に接近系の剣術技を得意とする。

 基本的な戦い方は、細身剣で牽制して、接近戦で一気に仕留める戦い方だ。


 対する相手の槍は、間合いがかなり長い。

 普通に戦ったら、ミーケが不利。


 ミーケが相手の動きをどう制するか、勝負の分かれ目である。


 そんな思惑の中、次鋒戦が始まろうとしていた。


「それでは始め!」


 審判のカテリーナ先生の合図で、次鋒戦が幕を開ける。


「いくぜ!…………剣術技【第一階位】一の型、【連続突き】!」


 合図と同時、相手が動き出す。

 槍系の剣術技を発動。


 一定の距離をとって、鋭い突きを連打してくる。


【連続突き】は一撃の威力はそれほど高くないが、隙の少ない連続技。

 リーチの差を使って、ミーケに一方的に攻撃を仕掛けている。


「たしかハリトたんが、言っていたニャン……『相手が連続攻撃の時は……よく見て対応する』だニャ! せい! はっ! ニャん!」


 いきなり相手の連続攻撃。


 だがミーケは冷静に対応。

 細身剣で上手く攻撃をしのいでいく。


 うまい。

 致命傷を避けつつ、回避は最小限の動きだけで。

 ミーケは巧みに回避していく。


「いいぞ、ミーケ!」


 仲間の冷静な奮闘。

 待機場所で、オレは思わず声を上げてしまう。


 しかもオレが教えたことをミーケは実践している。

 魔の森での特訓を思い出しながら、冷静に対処しているのだ。


「ちっ……やるじゃん、獣人のクセに! いくぜ!…………剣術技【第一階位】二の型、【乱れ突き】!」


 初撃を全て回避され、相手は次なる剣術技を発動。


【乱れ突き】。先ほどよりも威力が高い、連続突き技だ。


 蛇のように不規則な槍先が、ミーケの全身に襲いかかる。


「えーと、『不規則な攻撃の時は……相手の手元を観察して回避』だニャん! はっ! せい! とう! ニャン!」


 それでもミーケは冷静だった。

 細身剣で正確に受け流し、回避にしている。


 訓練の時よりもキレがある、見事な回避技術だった。

 今度も全ての攻撃を回避する。


「ちっ⁉ な、なんだって⁉ 獣人のクセによぉお! 笑えないだけどぉぉ!」


 格下だと思っていた相手に、予想外に苦戦。

 明らかに苛立つ。


「こうなったら力技だ! 潰れろ!……剣術技【第一階位】三の型、【槍潰し】!」


 絶叫と共に更なる剣闘技を発動。

【槍潰し】……大降りで槍を振り飾り、防御こと相手を潰す槍の大技だ。


「これで潰れておきな! ネコ野郎がよぉおお!」


 必殺の技を発動して、相手は勝利を確信していた。

 少女であるミーケは、この技は受け流すことは出来ない、そう思っているのだ。


「隙ありニャン! 『大地の精霊よ、我が足となり敵を討て!』……剣術技【第一階位】一の型……【地針斬ちしんざん】ニャン!」


 直後、ミーケが一気に間合いを詰め、同時に剣術技を発動。

 地系の高火力の攻撃だ。


「なっ⁉ うぎゃぁああある!」


 直撃して、相手は吹き飛んでいく。


 放物線を描き、そのまま場外に落下する


「っ…………」


 意識はあるが、自力で立ち上がることは不可能。

 救護班が助けに駆け寄る。


「勝負あり! 勝者、ミーケ!」


 審判のカテリーナ先生が宣言。

 ミーケの右手を掲げて、勝者を称える。


「「「おっ?……おー!」」」


 ワンテンポ遅れて、観客席から歓声が上がる。


 一方的に押されていた猫獣人の少女が、最後にまさかの大逆転劇。

 誰もが予期していなかった結果だ。


 まるで物語のような結末に、観客席は湧いている。

 多くの者が勇敢なミーケの名を称えていた。


「はぁ……はぁ……ただいまニャー」


 大歓声の中、ミーケが待機所に戻ってきた。

 息も荒く、疲労の色が見える。


 終始、防戦一方だったので、かなり疲れたのであろう。


「お疲れさまです、ミーケ。見事な大逆転でしたね!」


「ありがとう、マリエルたん。何とか頑張れたニャン」


「まずは回復の魔道具で、疲労の回復ですわ!」


 勝利を勝ち取ってきたミーケ。

 待機場所にある魔道具で、マリエルは仲間を回復してあげる。



『ではハリト団の大将の選手は、登壇してください』


 そんな中、司会者から案内がある。

 既にハリト団が二連勝で、勝ち抜けは決まっていた。


 だが選抜戦では修練の場。

 あと特別ルールで大将だけは、勝ち抜き戦へ以降も可能。

 だから一応、大将戦は行うのだ。


(マリエル……ミーケ……本当に見事な戦い方だったな……)


 先ほどの戦いを思い返しながら、オレは闘技場に登っていく。


 巨大な斧を構えた相手が、オレの目の前に立つ。


 何やら『おい、お前! そのイケメン顔を、タピオサジュースみたいに、ボロボロにしてやんぜぇ!』みたいな感じ、オレに向かっ叫んでいるような気がする。


 そして観客席も、またザワついているように気がする。

 また『何とか子爵家の何男が……』みたいな感じで。


 ――――だが開始線に立ったオレには、雑音は一切聞こえていない。


 何故なら先ほどの二人の戦いを、思い返すだけ今は胸がいっぱいなのだ。


(マリエルとミーケ……本当に頑張っていたな……相性の悪い相手にも、あんなに必死に……)


 二人とも決して楽な戦いではなかった。

 だが決して焦ることなく、最後まで冷静に戦ったのだ。


 本当に胸が熱くなる。


 ――――そんな時だった。


「それでは始め!」


 審判のカテリーナ先生の合図で、大将戦が幕を開けた、ような気がする。


 相手が『うらぁああ、死ね!』と大斧系の剣術技を発動してきた、ような気もする。


 あっ……そうか、今は大将戦が始まっていたのか!


 現実の世界に、戻らないと!


「おらぁおらぁ! 死ねぇ! イケメン野郎がぁあああ!」


 気が付くと、目の前に巨大な斧が迫っていた。

 勝利を確信した相手が、攻撃してきたのだ。


「くっ……【走馬灯そうまとうモード・壱の段】発動……『空を舞い、切り替えせ』……剣術技【第一階位】二の型、【雷燕らいえん返し】!」


 走馬灯モードと剣術技を同時に発動。

 カウンター攻撃で、攻撃力を倍にお返しする。


「うがあああああああ!」


 相手はは空高く舞い上がり、そのまま場外に落下。


 バタリ。


「…………」


 落ちた相手に意識はない。

 でも斬ったのは訓練剣。


 命に別条はないだろう、たぶん。


「勝負あり! 勝者、ハリト!」


 審判のカテリーナ先生が宣言。

 オレの右手を掲げて、勝者を称える。


「「「なっ……なっ?」」」


 だが観客席は唖然としていた。

 何が起きたか理解できていないのだ。


 同時の発動が速すぎて、誰も見えなかったのであろう。

 相手が勝手に自爆したように、観客には見えたに違いない。


 オレも最初ボーとして、申し訳ない気分になる。


「ハリト君……あなたは、まったく……後で私の個室に来てください。また触診しますから」


 間近にいたカテリーナ先生だけには、辛うじて見えていたようだ。

 でも半分呆れた顔をしている。


 これは気まずい。

 あと会場の静けさが気まずいので、急いで闘技場を降りていこう。


「ふう、ただいま」


 ちょっとだけ疲れたフリをして、待機場に戻る。

 本当は疲労ゼロなのだが。


「ハリト様、お疲れ様です。さすがハリト様でしたわ!」


「お疲れニャン! ナイスファイトだったニャン!」


 マリエルとミーケが出迎え、勝利を祝ってくる。

 お蔭でオレもほっと一息つく。


『それでは今の勝負は“ハリト団”の勝利! ハリト団は二回戦に進出です!』


 会場の司会者からアナウンスが響き渡る。


 選抜戦は勝ち抜きトーナメント方式。

 少し時間が空き、次は二回戦だ。


「よし、次も頑張るニャん、ミーは!」


「そうです。私も次は一撃で決めますわ!」


「あぁ、ここまで来たら……『目指せ、優勝』だね!」


 こうしてハリト団は一回戦を無事に突破。


 勢いにのり学園代表の座を目指して、トーナメントを一気に突き進んでいくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る