第28話選抜戦、開幕

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々。


 学園に現れた幼馴染のエルザは、放心状態でどこかに消えてしまう。


 そんな中、キタエル学園の一学年生の大イベント【学内選抜戦】が行われることに。

 オレはマリエルとミーケの三人で、選抜戦に挑むことにした。


 ◇


 選抜戦の当日の朝がやってきた。


「これが選抜戦の会場か」


 学園の敷地内にある会場に、オレたちは到着する。


 会場は円形状の闘技場を模した外観。

 街中にある巨大な闘技場を、コンパクトにした大きさだ。


「ここが会場……いよいよ、ですわね、ハリト様……」


「うわぁ……なんか、物々しい場所だニャンね、ハリトたん」


 一緒にやって来たマリエルとミーケは、会場の外観に声を上げる。


 マリエルはかなり緊張した様子。

 ミーケはいつものように明るく元気だが、少しだけ緊張している。


「二人ともそんな緊張しなくても、大丈夫だよ! 今日まで特訓してきたから、あとはリラックスさえすれば大丈夫さ!」


 緊張する二人に自信を促す。


 選抜戦の張り出しがあった日から、オレたち三人は特訓を続けてきた。

 オレが考えた対人戦のメニューを、主として鍛錬の日々。


 平日の通常の授業の後に、寮の裏庭で基礎練習。

 週末は“魔の森”で、大規模な実戦訓練を積んできたのだ。


「そうですわね、ハリト様。あの過酷な特訓の後なら、何ともでなりそうな気がします」


「本当に大変だったニャー。お蔭でミーたちも、少し強くなれたような気がするニャン!」


 マリエルとミーケの緊張が解ける。

 二人ともこの一ヶ月、本当に頑張ってきた。


 オレの課したトレーニングに一切の不満を口にせず、必死で付いてきれくれたのだ。


「それじゃ、さぁ、中にいこうか」


「分かったニャン!」


「いざ出陣ですわ!」


 全員の息が合ったところで、会場の中に入る。

 生徒専用の入り口から、案内に従って進んでいく。


 長い通路を進んだ先に、明るく開けた場所に出る。


「うわー! 中も広いニャン!」


「ですわね。あの中央の部分が、試験場かしら?」


 会場の中もコロッセオを模していた。

 周りには観客席にあり、中央部に闘技場が見える。


 独特の空気感。

 まさしく戦いの場に相応しい場所だ。


「ハリトたん、見るニャン! お客さんがいるニャー!」


「あっ、本当だ。先生にしては多すぎるな。誰だ?」


 観客席には、けっこうな人数の大人たちがいた。

 格好や雰囲気は様々で、商人風や騎士風、貴族も団体もいる。


 ここは一般人が入れない場所。

 あの人たちは一体?


「ハリト様、見たところ、あれは剣士学園の関係者やスポンサーの皆さんですわ」


 王女であるマリエルは、人脈関係に知識がある。

 観客席に知った顔でもいたのであろう。


「スポンサーか……なるほど、そういうことか」


 マリエルの説明を聞いて納得する。


 剣士学園は王国の秩序を守る剣士の育成所。

 だが学園の設立と運営には、莫大な金額がかかっている。


 主に出資しているのは国だが、それだけは足りない。

 だから大商人や貴族連中にも、出資させているのであろう。


 そして観客席の“視線の質”で、彼らの目的を察する。


(あの視線は……つまり学園剣士の“質”をお披露目する、品評会みたいなもんか、この選抜戦は?)


 観客席の顔つきは、余興を見に来た感じではない。

 彼らは投資者として、この場に来たのだ。


(品評会であり、オレたちを見定める権利か……)


 投資者には優遇して、リターンを渡す必要がある。

 そのための一つがこの『学園剣士同士のガチの選抜戦、その閲覧権利』なのであろう。


(なんか気に食わないけど。まぁ、気にしないでおくか……)


 あまり観客席の俗世な視線は、気にしないおく。

 マリエルとミーケも大丈夫そうなので、影響はないであろう。


(それより、気になるのは、あの集団だな……)


 観客席の中で、異質な集団を見つける。

 人数は二十名ちょっと。


 全員が白い法衣をまといい、顔をローブで隠している。


 なんだ、あの連中は?


「ハリト様、あの方々は“剣士教団”の皆さまですわ」


 オレの視線に気が付いたミーケが、そっと耳打ちして教えてくれる。


「“剣士教団”? 何、それ?」


 初めて耳にする言葉。

 聞いたこともない宗教だ。


「今から二十年前ほど前に設立された、新興宗教でございます。主に有能な剣士を発掘する教団で、今では王家の支援を受けている、信頼のおける団体です」


 マリエルの説明を聞きながら、もう改めて集団を観察する。


(“剣士教団”か……うーん、なんか“嫌な感じ”がするんだよな……)


 言葉では上手く説明できないが、“なんか嫌な感じ”がするのだ。


「では、そろそろ候補生の皆さんは、中央の闘技場に集まりください!」


 そんな時、会場のアナウンスが流れる。

 拡声器の魔道具。

 司会の男性教師から、会場中に案内がされていく。


「これから開会式を行った後に、すぐに選抜戦を行います! 一年生の皆さんは迅速な行動をしてください!」


 今日のスケジュールが発表される。

 簡単な開会式の後に、一試合目がスタートだという。


「いよいよだニャン!」


「いよいよですね、ハリト様」


「ああ、そうだな。とにかく悔いないように、三人で頑張ろう」


 この後、開会式が何事もなく終わる。

 選抜戦がスタートするのであった。


 ◇


 キタエル学園の選抜戦がスタート。

 戦いは既に幕を開けていた。


(始まったか……)


 ハリト団は一回戦の試合が、けっこう後の方だった。


 順番が来るまで、オレは観客席で情報収集することにした。

 マリエルとミーケは控え室で、アップ運動をしている。


 さて、どんな試合か見ていこう。


(おお! 最初から、みんな飛ばしているな!)


 今回の選抜戦は三人一組で、一対一で戦う方式。

 使う武器は、刃を潰した訓練用の武器。


 だが剣術技や他の技の制限はない。

 魔物すら葬る剣術技で、候補生同士が真剣勝負しているのだ。


 そのため一回戦から、激戦が繰り広げられていた。


「「「おお⁉」」」


 学園剣士同士の本気の真剣勝負に、観客席から歓声があがる。

 豪快な剣術技が炸裂するたびに、闘技場が大きく揺れていた。


 学園生はまだ成長中の段階。

 だが才能ある者の戦闘力は既に、腕利きの剣士に並ぶ者もいる。


「「「おお!」」」


 戦いのたび、闘技場に歓声が響き渡る。

 更にその歓声を、剣術技同士のぶつかり合い激音が、歓声を打ち消していく。


(おっと⁉ 今のは遠距離系の剣術技の誤射か? 今のは観客も危なかったな……)


 ちなみに選抜戦を行う中央の闘技場は、特殊な結界が被われている。


 カテリーナ先生の話では、特殊な魔道具だという。

 かなり強力な攻撃でも、防ぐことが出来る結界みたいなもの。


 だから観客も安心して観戦できるのだ。


「そこまで! 勝負あり!」


 聞きなれた先生……カテリーナ先生の声が度々、響き渡る。

 今日、先生は審判役だ。


 公平な審判を行っている。


「勝負止め! 止めと言うのが、聞こえないのですか!」


 先生は戦いを途中で、止める時もあった。

 何しろ生徒たちは真剣勝負のあまり、かなりの興奮状態。


 死人が出ないように審判役の権限で、勝負を決する場合もあるのだ。


「救護班! 急いで治療を!」


 負傷者には学園の医務係が、応急措置にあたる。


 学園の秘蔵の回復魔道具で、かなりの重症でも回復してくれるのだ。


(でも、今の戦い方じゃ、二回戦に響くな、あの人は……)


 回復の魔道具は傷を塞げても、スタミナまでは急に回復は出来ない。


 勝ち抜いてもダメージが大きい場合は、次の試合に影響が残る場合もあるのだ。


(なるほど。勝ち抜いていくために、戦い方も、重要だな、これは……)


 選抜戦は勝ち抜き戦のトーナメント方式。

 勝利者は今日一日で、何戦もこなしていく必要がある。


 勝つだけなく、スタミナ配分も重要な肝になるのだ。


「「「うぉ!」」」


 そんな感じで、エキサイトに試合が進んでいく。


 一試合あたりの時間は、それほど長くない。

 闘技場中央部は、それほど広くはないので、短時間で勝負が決まることが多いのだ。


「では、“ハリト団”の皆さん、準備してください!」


 会場の司会者からアナウンスがある。

 いよいよ出番がきたのだ。


 オレはマリエルとミーケと合流。

 闘技場の下の待機場所に向かう。


 選抜戦は三人一組で、一対一で戦う方式。

 闘技場の上に登るのは、戦う者一人だけ。


 ここまで来たら、もう引き返すことはできない。


「さぁ、準備はいい? いくよ、マリエル、ミーケ!」


「もちろんニャン!」


「お任せください、ハリト様!」


 二人とも戦闘準備は万全。


 先鋒を送りだす前に、三人で円陣を組む。

 全員のテンションを上げる儀式だ。


「それじゃいくよ、二人とも…………『ハリト団、ファイト!』」

「「「おー!」」」


 事前に決めていた気合入れをする。


 かなり恥ずかしいが、これもマリエルの提案。

 彼女からの提案だから、オレも頑張るしかない。


「それでは次の試合を始めます。“ハリト団”の一人目の選手は、開始位置に上がってください」


「いざ、参りますわ!」


 オレたちの先鋒は銀髪の女剣士……マリエルだ。


 こうしてハリト団として挑む選抜戦は、幕を上げるのであった。

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