第27話学園の最大の行事

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々だった。


 だが、そんなある日、幼馴染のエルザが学園に現れた。

 情緒不安定なエルザを説得しようとしたが、彼女は放心状態で消えてしまう。


 ◇


 エルザが消えてから一週間が経つ。

 未だに彼女は見つかっていない。


「エルザ大丈夫かな……タフで強いから、きっと大丈夫。そう思うしかないよな、今は。よし、今週も授業を頑張るとするか!」


 気持ちを切り替えていく。

 何故ならオレは剣士学園の生徒。

 まずは未熟な自分を、鍛えていくのが先決なのだ。


 朝一、部屋で制服に着替える。

 よし、今日も一日、頑張っていくぞ。


「ハリト様、私たちも準備が終わりました」


「さぁ、行くにゃん!」


 マリエルとミーケも制服に着替えていた。

 三人で屋敷を出て、校舎に歩いていく。


「そういえばハリトたんは、毎日、早起きにゃんね?」


「そうかな? 早起きは、嫌いじゃないからね」


 オレは昔から早く寝て、早起きるタイプ。

 朝日が昇る前に、毎日目が覚めてしまうのだ。


 だから、この二人を起こす係りだ。


「さすがハリト様です、私たちも見習わなくては……」


「それならマリエルも、もうちょっと早起きするニャン! あと寝事でいつも『ハリト様~、ハリト様~』って言うもの、直した方が、いいニャン?」


「ちょ、ちょっと、ミーケ! それはハリト様の前では、言わない約束でしょう!」


「あっはっは……二人とも、朝から元気だね」


 そんな感じで雑談しながら、校舎に向かう。


「ハリト様、いつも起こしていただき、本当にありがとうございます。お蔭で私も昔に比べたら、少しだけ早起きは出来るようになりました」


「えっ、昔はもっと朝は苦手だったの?」


「はい……王都にいた時から、朝だけは、どうしても……」


 マリエルは顔を赤くして説明してくる。


 どうやら幼い時から朝が苦手らしい。

 完璧そうに見えて、実は抜けているところもあるのだろう。


「そんなに悩まなくても大丈夫だよ。何しろ睡眠は身体を成長させるために、大事な要素だからね」


「えっ……睡眠で、成長が、ですか?」


「そう。前に読んだ専門書によると。特に成長期は質の良い睡眠が必須らしい。十分に睡眠時間を確保しないと、身体が適切に成長していかないんだ」


 オレは昔から、一人前の剣士になりたかった。

 だから強くなるために、色んな知識を勉強してきたのだ。


「なるほど……質の良い睡眠は、成長に大事……ですか」


 マリエルは言葉の意味を噛みしめている。


 強くなるために、剣技を鍛えるだけは駄目。

 更なる高みを目指すために、マリエルも意識を変えていた。


「そうだニャン。ちゃんと寝ないと、マリエルの胸も大きくならないニャン! ミーみたいに!」


 ミーケは自分の胸に手を当てながら、笑っていた。


 そう言われてみれば、胸はミーケの方が大きい。

 一方で細身なマリエルは、“ちょうどいい可愛い大きさ”だ。


「ちょ、ちょっと、ミーケ! ハリト様に聞こえてしまいますわ!」


「大丈夫にゃん。だってハリトたんは、いつもマリエルたんの、胸を見ているニャン! あっ、でもミーの胸も見ているニャン? つまりハリトたんは、どんな大きさの胸でも発情するから、大丈夫ニャン!」


 朝から凄いことを連発している。


 オレは気まずいので距離をとる。

 小走りで、さっさと教室に向かっていく。


「あっ、お待ちください、ハリト様! 急ぎますわよ、ミーケ」


「そうだニャン!」


 二人も雑談を止めて、追いかけてくる。

 何とも朝から元気の良いことだ。


 ◇


 教室に到着。


 今日の午前中は座学。

 長い椅子の教室で、先生の話を聞くスタイルだ。


「今日も、三人で並んで座るニャン!」


「ですわね。“ハリト団”の団結のためにですわ!」


「席はいいけど、その“ハリト団”って、何かな?」


「昨日、マリエルと二人で考えたニャン。三人のパーティー名ニャン!」


「我ながら見事な名だと思います。ハリト団……きっと大陸に名を響かせていく予感がします」


「そ、そうなだ……」


 何やら三人のパーティー名が、勝手に決まっていた。

 多数決の原理で、オレは頷くしかできない。


 それにしても“ハリト団”か……ちょっと恥ずかしいな。


「よし、今日は、この席にするニャン」


「そうですわね」


 三人に並んで座る。

 長椅子にサンドイッチ状態で、席に着く。


 真ん中はオレの定位置になってしまい、両脇に女性陣。

 三人で座るには、けっこう狭い長椅子。

 マリエルの真っ白な太ももと、ミーケの胸が、どうしてもオレにぶつかってしまう。


(ふう……仕方がないな……)


 オレは基本的には孤独を愛する。

 だが今は二人に頼まれたら断れない。


 クラスメイトを刺激しないように、上手くやっていくしかない。


 よし、今日も頑張って勉強していくぞ。


 ◇


 その日も順調に、午前と午後の実技が終わる。

 充実した一日だった。


 今は帰宅前の、帰りのホームルーム。

 担任のカテリーナ先生から、今後のスケジュールの連絡があった。


「来月の上旬に“学内選抜戦”を行います。先日も説明しましたが、詳しい内容は、この掲示物で各自に確認しておいてください」


 先生は教室の横に、大きな掲示物を張り出す。

 内容は“学内選抜戦”について書いてあるという。


「それでは今日の授業は、ここまで」


「「「先生、ありがとうございました!」」」


 終礼の挨拶を是認でして、先生は教室を去っていく。


 今日の授業は終わり。

 生徒は寮の自室に戻る流れだ。


 だが教室内がザワついていた。


「ついに“学内選抜戦”があるのか……」


「いよいよか……」


 クラスメイト誰一人として、教室を去っていない。

 みんなで掲示物に群がり、真剣な表情になっている。


「ん? “学内選抜戦”?」


 オレは首を傾げる。


 何しろ初めて聞く内容の単語。

 一体に何を行う、行事なのだろうか?


「えっ、ハリトたん。二日目の“学内選抜戦”の話を、聞いていなかったニャン?」


「もしかして、ハリト様は、ここ数日、忙しかったので、前回の掲示物を見逃していた、かもですね」


 そうか……そういえばエルザ捜索で、最近のオレはバタバタしていた。


 だから二日前の啓示物を、オレは見逃していのだ。


「とりあえず、一回見てくるね」


 少し時間が経ったので、掲示物の人混みも緩和されていた。

 オレは内容を確認していく。


「ふむふむ……これは。つまり、キタエル学園の一年生が、全員で模擬戦をして、一年の代表を決めるのかな? この選抜チーム? こっちは何のことだろう?」


 読み込んでみたが、表現が曖昧で、いまいちよく分からない。

 文章が全体的に遠まわしなのだ。


「ハリト様、その学内選抜戦は剣士学園の中でも、一、二を争う重要な行事でございます!」


「そうだニャン。一年の中で優勝できたら、“一人前の剣士”に近づくチャンスにゃん!」


「あっ……そうなんだ、知らなくて、ごめん」


 マリエルとミーケは、かなり興奮していた。

 というか興奮し過ぎて、少し怖い。


 だが興奮しているのは、二人だけはなかった。

 まだ教室に残る、他のクラスメイトも興奮している。


「この学内選抜戦を勝ち抜いて、キタエル一年の代表になれたら……」


「ああ、称号持ちになれる、確率が一気にアップだな……」


「どんなことをしても、絶対に勝ちぬかないとな……」


 皆はかなり興奮している。

 鼻息が荒い者もおり、学内選抜戦の重要さが伺える。


(それほど、一大イベントなのか……とりあえず、もう一回ちゃんと、読み込んでみるか……)


 今度はメモをとりながら、学内選抜戦の概要を確認していく。


 それによると詳細は、次のような感じだった。


 ――――◇――――◇――――


《キタエル学園学内選抜戦》


 ・一年生は三人一組のチームを作る。


 ・選抜戦は学園内の闘技場で行う。


 ・トーナメント方式の勝ち抜き戦を行っていく。


 ・チーム対抗戦で一対一の個人戦を、三回行う。より多く勝ち星があるチームが、勝ち抜け。

(一勝一敗一分け、などで同点の時は、延長試合で決定。他にも特別ルールあり)


 ・優勝チームには褒美の武器を与える。


 ・優勝チームは王都で行わる、学園対抗戦の出場権利を与える。


 ・なお優勝できなくても、剣士への道が閉ざされる訳ではない。その後は授業も続いていく。


 ――――◇――――◇――――


 だいたいこんな感じの内容だった。


(ふーん。つまり三人一組でチームを作って、一年の中で最強チームを決める……のか?)


 大まかに説明するなら、こんな感じだろう。

 早い話が、腕自慢大会みたいな感じだ。


(優勝の特典は、褒美の武器か……)


 これはかなり魅力的な賞品。

 だからクラスメイトも、あんなに目を輝かせているのだろう。


(でも“王都で行われる学園対抗戦の出場権”……これって、何だろう?)


 これまた初めて聞く単語である。

 何と何が対抗して、戦うのであろうか?


「ハリト様、“学園対抗戦”は、王国内にある五つ学園で行う対抗戦ですわ」


 首を傾げているオレに、マリエルがそっと耳打ちしてくれる。

 王女である彼女は、王国内の行事について詳しいのだ。


「へー、そうか。ありがとう」


 王国内には全部で、五個の学園がある。

 東西南北に一カ所ずつ。


 あとは王都に一個、剣士学園がある。


「あっ、そうか。王都学園は、マリエルが……」


「はい、そうでございます。私は王都学園の元生徒でした……」


 王都学園の話になって、マリエルは急に眉をひそめる。


 先日のオレに話してくれたこと。

 王都学園時代の事件を、彼女は思い出しているのであろう。


「“あの者”は必ず王都学園の代表として、学園対抗戦に出てきます。だから私も負ける訳いないのです。今回の学内選抜戦は……」


 マリエルはいつになく真剣な表情だった。

 王都のライバルに負けたのが、よほど悔しかったのであろう。


 下唇をぐっと噛みしめている。

 あまりの力に血が染み出している。


「マリエルたん、大丈夫にゃん? これハンカチにゃん」


「ありがとう、ミーケ。ごめんなさい、みっともないところを見せて……」


「気にすることないニャン。マリエルたんは本気で強くなりたから、そこまで真剣なんだニャン。ミーも負けてられないニャン!」


 ミーケは純粋で優しい性格。

 思いつめているマリエルに共感していた。


「うん……ありがとう、ミーケ。一緒に頑張りましょう」


「ちょ、ちょっと、ミーまで、もらい泣きしちゃうニャン」


 二人の少女はやや涙目になりながら、ギュッと抱き合う。

 同じパーティーとして選抜戦で、勝ち進むことを誓い合っている。


(学内選抜戦か……でも、このルールだと、少しばかり面倒かもな……)


 そんな中、オレは掲示物を読みこみながら、あることに気が付く。


(『三対三の個人戦によるポイント制で……トーナメント方式か……』


 気になったのは、学内選抜戦のルールについて。


(普通に考えたら、マリエルとミーケで一勝ずつ。オレが負けても、何とかなりそうだけど……)


 現時点の一年の中でマリエルの総合力は、一人だけ飛びぬけている。

 さすがは【薔薇の剣姫】の二つ名持ち。

 不安な要素といえば実戦経験が、まだ少ないこと。


 あと性格的に、たまにポカをやらかす部分。

 でも、よほどの大失敗さえなければ、マリエルによる一勝は固い。


 あとミーケも一年生の中では、けっこう強い。

 猫獣人としての身体能力の高さ。


 剣士としての技術も、ぐんぐんと急成長している。

 他のクラスのトップにさえ気を付ければ、なんとか勝ち星は狙えそうだ。


(問題はオレはか……)


 正直なところ、まだオレは自信がない。

 たしかに三人での特訓を始めてから、自分の戦闘力は急成長している。


 だが、あくまでの“最初のハリト”に比べての成長。

 学年の中で、どのくらいの位置にあるのか、実感できていないのだ。


(まぁ、心配しすぎかな、オレ? マリエルとミーケで二勝したら、オレは負けででも、チームは勝ちぬけるからな……)


 選抜戦ともなれば、参加者はヒートアップしてしまうのであろう。


 とにかく大きな怪我をしないように、選抜戦は安全で楽しくいきたい。


「あのう……ハリト様、大丈夫ですか?」


「へっ? あっ、うん。話は聞いていたよ!」


 考え事していたから、変な声が出てしまった。

 急いで意識を現実に戻す。


「学内選抜戦のことだよね? そうだね。三人で力を合わせて頑張っていこう!」


 どうせ負けても退学になる訳ではない。

 それなら安全で楽しく対抗戦に参戦だ。


 あっ……でも、やっぱり、どうせ参加するのなら、いけるところまで勝ち進みたい。


 よし、そのためには選抜に向けて、対策もしていかないとな

 二人に提案してみよう。


「ねぇ、明日から特別訓練をしていかない? 選抜戦で、勝ち進むために? 二人とも大丈夫かな?」


 オレたち三人は今まで、対魔物の実戦稽古が多かった。


 だが学内選抜戦は対人戦だけ。

 練習プログラムを少し変えて、対人戦を多くしてきたいのだ。


「もちろん大丈夫です、ハリト様。厳しい鍛錬は、わたくしも望むところです!」


「ミーも大丈夫ニャン! 三人で強くなるニャン!」


 二人の了承は得られた。

 これで今日からの訓練は、選抜戦に特化していける。


「よし、三人で頑張っていこう! とりあえず目指せ、優勝かな?」


「もちろんだニャン! 目指せ優勝だニャン!」


「ハリト様、よろしくお願いします!」


 ◇


 こうしてオレたち三人は、選抜戦に向けて鍛錬をスタートする。


 かなり厳しい内容だったが、二人とも脱落することなく付いてきてくれた。


 また他の一年生たちも選抜戦に向けて、各チームで特訓をしていたようだ。


 一年生の全員が、とにかく異様な熱気に包まれていた期間。


 全員が優勝を目指して、選抜戦まで精進していたのだ。


 ◇


 そして日が経ち、月が明ける。


 キタエル学園内の最大の行事。


 ついに学内選抜戦の当日の朝がやってきたのだ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る