第23話一人での修行

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながらパーティーを組むになった。


 ◇


 ミーケと出会ってから三週間ほど経つ。


「それじゃ、オレとマリエルは、学園に行ってくる。ミーケはおとなしくしておいてね」


『わかったニャー。頑張るニャン、ご両人!』


「何かあったら、ここの小窓を、お使いください、ミーケさん」


「わかったニャン!」


 ミーケとの同居は順調な感じだった。

 彼女は基本的にマリエルの寝室で、猫型で生活している。


 用事があったら、猫だけが通れる小窓から、外に遊びにいく。

 小窓はマリエルが執事に作らせたもの。


 猫状態でもミーケは、自由気ままな生活を満喫していた。


 お蔭でオレはマリエルと、安心して学園に通える。


「そういえば、ハリト様。次の週末も、魔の森に特訓にいきますか?」


「そうだね。ミーケとの連携も、かなり順調だし。また土曜日に行こうか?」


「そうですね。楽しみですね」


 授業がない週末は、三人だけ魔の森に特訓に通っていた。


 対人の稽古と、魔獣や魔物を狩る実戦式。

 おかげでオレたちは、かなり実戦的な経験値を積んでいた。


「あっ、そういえば、今度の日曜日だけは、オレだけで、ちょっと特訓に行きたいんだ? いいかな、マリエル?」


「ハリト様、お一人で? もちろん、大丈夫ですが……何か、ありました?」


「いや、ちょっと、オレ技……我が家の一子相伝を、こっそり確認したいことがあってさ。あっ、森の奥には、行かないから、心配無用だからさ」


「なるほどです。それなら、私はミーケさんと屋敷で待っています」


「サンキュー。それじゃ、今日も授業を頑張っていこうか!」


「はい、そうですね、ハリト様!」


 こんな感じで平日は、オレは剣士学園に真面目に通っていた。


 ◇


 そして、その週の日曜日になる。

 予定通り、オレは一人で“魔の森”の入り口にやってきた。


 目的は一子相伝の剣技……という名目の、オレの剣術技を確認するためだ。


「さて、改めて、色々と試してみるか……」


 森の入り口の巨木に向かって、オレは剣を抜く。


「まずは剣術技の最初の方から……ふう……」


 剣を腰だめに構えて、精神を集中。

 剣術技の源である魔力を、全身の隅々まで行き渡せる。


「『春雷よ、敵を斬り裂け』……剣術技【第一階位】一の型、【雷斬ライ・ザン】!」


 巨木に向かって一気に踏み込む。

 剣術技を発動。

 

 雷撃をまとった鋭い斬撃を繰り出す。


 ドッ、バターン!


 強烈な斬撃を受けて、巨木は倒れていく。


「よし、【雷斬ライ・ザン】は何とかマスターしたな……」


 この剣術技は、マリエルから襲撃を受けた後日。

 オレの脳裏に浮かんで、会得した技の一つ。


 オレの中では基本的な斬撃タイプ。

 威力もけっこうあり、魔物退治では重宝していた。


 よし、次にいこう。


 木の大きな破片を、オレは自分の頭上に放り投げる。


 自由落下により危険な速度で、破片は襲ってきた。


「『空を舞い、切り替えせ』……剣術技【第一階位】二の型、【雷燕らいえん返し】!」


 ザッ、ゴーーン!


 頭上に落ちてきた、危険な木の塊。

 オレはカウンター攻撃で、木っ端みじんに切り裂く。


「よし、こっちの新しい技も、なんとか大丈夫そうだな」


 この【雷燕らいえん返し】も脳裏に浮かんでいた技。

 ここ三週間の必死の鍛錬で、なんとか形にできるようなっていた。


 系統的にはカウンターの剣術技。

 タイミングがシビアだが成功したら、相手の攻撃を倍の威力で返せる。


 よし、もう一つ、いってみよう。


 次は無数の木の破片を、オレは自分の頭上に放り投げる。


 先ほどと同じように、危険な威力で破片は襲ってきた。


「『流れる水のように、全て受け流せ』……剣術技【第一階位】三の型、【雷流らいりゅうの構え】!」


 シャン! シャン! シャン!


 頭上に落ちてきた、無数の危険な木の塊。

 オレは剣術技で全て、受け流す。


 身体には、傷一つ付いていない。


「よし、こっちも大丈夫そうな」


 この【雷流らいりゅうの構え】も脳裏に浮かんでいた技。

 ここ三週間の必死の鍛錬で、なんとか形にできるようなっていた。


 こちらは受け流し系の剣術技。

 相手に反撃はできないが、防御力はかなり高い。


 よし、これで新しい剣術技は、だいたい確認できた。


 あとは、メインの“アノ技”に挑戦する。


「ふう……」


 剣を腰だめに構えて、精神を集中。

 剣術技の源である魔力を、全身の隅々まで行き渡せる。


 よし、いくぞ。


「『迅雷よ、天を焦がし、大地を斬り裂け』 ……剣術技【第一階位】きわみの型……いくぞ……【雷光斬ライ・コウ・ザン】!」



 ……シーーーン……


 だが今度は発動できなかった。


 オレの声だけが、森の中に反響していく。

 かなり虚しい。


「うーん、やっぱり、これだけは、上手く発動できないな……」


 この技はオレが、最初に発動できた剣術技。

 実戦でも何度か出してきた。


 だが、こうした訓練の場では、一度の成功していないのだ。


「原因は……やっぱり、あれかな……“走馬灯そうまとうモード”に入ってないからかな?」


雷光斬ライ・コウ・ザン】を発動できた時は、いつも時間がゆっくり見える“走馬灯そうまとうモード”になっていた。


 あっ……“走馬灯そうまとうモード”というのは、オレが勝ってに名付けたもの。


 だから他の誰にも言っていない。


「そもそも、オレは何で、剣術技を会得できたんだろう……」


 王都を出るまでオレは、必死になって剣術の修行に励んでいた。


 だが才能がなく、初級の剣術技すら会得できずにいた。


 だが学園に入学してから、急にオレは剣術の才能が花開てきた。

 ……ような気がするのだ。


「うーん、原因は、やっぱり、あの“十日間の気絶”していた時かな?」


 キタエルの街に向かう道中、その山中ではオレは謎の記憶飛び。


 そのすぐ後に、オレは馬車の王女様。

 マリエルを救うために、第一回目の“走馬灯そうまとうモード”に入っていた。


「うーん、でも、あの十日間でしていたのは、夢を見ていたぐらいし……」


 あの時は、オレは不思議な夢を見ていた。

 起きた直後は、内容を覚えていたが、最近は何故かうっすらとしか覚えていない。


 本当に不思議な夢だった。


「あと、この“雷系”というもの、謎だよな?」


 カテリーナ先生に聞いたところ、雷系の剣術技はかなり希少なもの。

 学園の生徒では他に誰もいない。


 というか現存の剣士の中でも雷系は、存在しないらしい。


 それ以外のことも詳しく先生に聞きたかった。


 でもカテリーナ先生は凄く怪しい魔道具で、オレの身体を調べようと接近。

 オレは逃げだしたので、今のところまだ聞いていない。


「とにかく【雷光斬ライ・コウ・ザン】は、なんとか会得したいな……今後のためにも」


 この極みの剣術技の威力は、普通ではない。

 上位魔獣ですら、一撃で葬り去ることが可能。


 そのため学園の対人戦で使う機会はない。


「でも、この世の中には……もっと凄い剣士がいるからな……よし! 絶対に頑張るぞ!」


 オレの目標は一人前の剣士になること。

 そのためには妥協は不要。


 今まで以上に鍛錬に励んでいくしかない。


「よし、そのためには、“走馬灯そうまとうモード”を自由に発動できるとうにしよう!」


 今までは自分に危機が迫った時にしか、発動できなった。

 だから成長のために、自由自在に発動できることが必須。


「マリエル……嘘ついて、ごめんね。でも、必ず戻るから」


 オレは魔の森の奥に進んでいく。


 目的は強大な魔物と魔獣と戦い、“走馬灯そうまとうモード”を発動させること。


 そして自分のモノにすることだ。


「よし……いくぞ!」


 こうしてオレは毎週日曜、一人での危険な特訓をすることになった。


 ◇


 森の奥での特訓は、かなり危険だった。


 何度も命を落としそうになった。


 オレは毎週のように、ボロボロになって屋敷に帰還。


 でもマリエルはいつも優しく、オレのことを治療してくれた。


 きっと気が付いていたはず。

 オレが無茶をしていることを。


 でも彼女は毎回、優しくオレを送りだしてくれた。

 本当に有り難い存在。


 だからオレもどんな困難でも、最後まで諦めなかった。


『絶対に一人前の剣士になる!』その想いが胸に、過酷な特訓に挑んでいった。



 ――――そして単独での特訓を毎週続けて、二月が経つ。


 ◇


 オレはついに“走馬灯そうまとうモード”、その第一段階に踏み込んでいた。


 目の前の巨大な蛇の魔獣がいた。


 赤大蛇……前回のよりも更に大きく、危険な個体だ。


「いくぞ……【走馬灯そうまとうモード・壱の段】発動!」


 直後、巨大な赤大蛇の動きが、ゆっくり見える。


「よし、いまだ! 『春雷よ、敵を斬り裂け! より乱れて』……剣術技【第一階位】一の型・改……【雷斬ライ・ザン乱舞らんぶ】!」


 そして時は動き出す。


 ザン! ザン! ザン! ザン! ザン! ザン! ザン!


 連撃式の【雷斬ライ・ザン】をくらい、赤大蛇は絶命する。


「ふう……なんとか、最初の段階だけど、【走馬灯そうまとうモード】を会得できたぞ……よし、戻るとするか」


 こうしてオレは自分の意思で、新たな段階に進むことに成功したのだ。

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