第22話新しい同居人

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様マリエルと同居を開始。魔の森に実戦式の特訓にきた。


 猫獣人の少女ミーケを助け、マリエルと三人でパーティーを組むになった。


 ◇


 魔の森での実戦稽古も終わり。

 オレたち三人は、キタエルの街まで戻ってきた。


 そのまま真っ直ぐ、マリエルの屋敷に向かう。


「マリエルお嬢様、お帰りなさいませ!」


「ハリト殿、お帰りです。ん? それは猫……ですか?」


 屋敷の門番の剣士が見てきたのは、オレの胸に抱いている茶色の猫。


「そ、そうなんですよ。捨てられていたのを、マリエルが見つけて」


「そうですか。さすがはマリエルお嬢様。ご慈悲深いですな!」


「イザベーラ様も、稀代の猫好きなんの、きっと喜びますぞ!」


 そんな感じで、門を無事に通過。

 オレたちは屋敷の中に入る。


「あら、二人とも、鍛錬から帰宅したのですね?」


 ちょうど玄関で、屋敷の主イザベーラさんに遭遇。

 オレとマリエルの剣士修行に関して、彼女も後押してくれていた。


「あら? その猫ちゃんは、どうしたの?」


「叔母さま、実は街で……」


「あら、それは可哀想ね。この屋敷で飼っても構わないわ」


「ありがとうございます、叔母さま!」


 こんな感じで、館の主の許可も得た。

 オレたちはマリエルの寝室に向かう。


 侍女たちに着替えをしてもらって、オレたち室内着になる。


 マリエルは侍女たちと、先にお風呂に行った。

 部屋に残ったオレは、茶色の猫と寝室で二人きりになる。


「えーと、ミーケ。聞こえているかな? 戻っても大丈夫だよ?」


 そして連れてきた茶色の猫……猫獣人のミーケに合図をおくる。


『わかったニャン……『猫獣人……秘技……【変化へんげ】』ニャン!』


 ボワン!


 直後、凄いことが起こる。

 小さな茶色の猫が、猫耳の少女に変身したのだ。


「す、すごい……本当に、また人型に戻れるんだね、ミーケは……」


 魔法のような光景に、オレはミーケのことを凝視してしまう。


 それにしても本当に凄い。

 さっきまで本物の猫だったのに、今は人型。


 ちょっと褐色の肌で、綺麗な手足。

 腰や胸も、本当の女の子に……


「えっ⁉」


 その時だった。

 オレは気が付く。


 人型に戻ったミーケが、全裸だったことに。

 思わず手で、自分の目を覆い隠す。


「ん? どうしたニャン? ハリトたん? 顔が真っ赤ニャン?」


「い、いや、それは、ミーケが裸だから……胸とか下が……」


 ミーケは凄い格好だった。


 何故なら彼女は獣人の中でも、人に近い種族。


 猫要素があるのは猫目、頭の猫耳、あとツルツルのお尻から伸びた尻尾だけ。


 人族の女の子と同じで、全身には体毛は生えていない。


 つまり無防備でやや褐色な裸の女の子が、オレの目の前に立っているのだ。

 しかも仁王立ちで。


「裸? ミーは猫獣人だから、室内では基本は、この格好ニャン。それがどうしたニャン?」


「えっ……室内では……裸なの?」


「だって、猫が室内で、下着と服を着ていたら、変だと思わないニャンか?」


 ミーケは自分の胸を、自信満々に叩く。

 けっこう大きめな胸が、ぷるるん♪と揺れる。


「い、いや、猫はそうだけど、今のミーケは人型な訳で……というか。森では服を着ていたよね⁉ というか、あの剣と服は、どこに消えたの?」


「猫獣人は戦闘の時は、防御用に服を着るニャン。服と剣は、この【猫穴】収納しているニャン!」


 ミーケは自分の身体に、下っ腹に手を突っ込む。

 身体の表面に、異空間の穴が開く。


 これは猫獣人の固有の能力なのだろうか。


 異空間の小さな【猫穴】から、ミーケの服と剣を取り出す。


「す、すごい……そんな凄い能力があるんだね。猫獣人は……」


「これが使えるのは一族の中でも、ミーたち……王族だけニャン。あと、収納できるのも、ちょっとだけで、大きいのは無理ニャン。それに他人は、この【猫穴】に手を入れられないニャン。試してみて、ハリトにゃん?」


「あっ……本当だ……手どころか、指も入らないね。なるほど、こういう弱点もあるのか……って、ミーケって、王族……王女様だったの⁉」


「そうニャン。って言っても、今は滅んじゃってけどニャー。だから、気にしないでニャー」


「そ、そうか。まぁ、でも何となく。分かった」


 色んなことがあり過ぎて、頭が混乱してきた。


 ミーケの能力のことや、生い立ちについては、あとでマリエルにも話しておこう。


 ガチャリ。


 そんな時、寝室の扉が開く。


「ハリト様、お次は、お風呂をどうぞです……って⁉」


 マリエルの動きが止まる。

 そして、急に室内に一人で入り、すぐに鍵をかける。


「ハリト様……それにミーケさん。ここで何をしていたのですか?」


 ゆっくりと振り向いてきたマリエル。


 丁寧な口調だが、顔がちょっと怖い。


「あっ! そうだった……」


 オレは我にかえる。

【猫穴】とミーケの王女の話で混乱して、すっかり忘れていた。


 今のミーケは全裸、ここは寝室。


 しかも、つい先ほどまでオレ二人きり。


 マリエルが誤解するもの無理はない。


「えーと、マリエル……実は、これには深い訳があって、ミーケたち猫獣人は、その習慣があって、あと【猫穴】っていうので……」


「猫……穴ですか?」


「そうニャン! さっきハリトたんに、ミーの下半身の穴に、触ってもらったニャン! でも無理だっていったのに、ハリトニャンは強引に手を入れようとしてきたニャン!」


「えっ……ミーケさんの下半身の穴に……ハリト様が……強引に手を……?」


 マリエルは完全に誤解している。


 彼女の全身から剣気が……闘気は放たれていた。


 顔もかなり怖い。


「えーと、マリエル……だから、それは誤解で、理由が……」


 こうしてオレは正座。

 マリエルに必死に弁明。


 なんとかミーケの協力もあって、誤解を解くことが出来た。


「……なるほど、そうだったのですね。先ほどは、大変失礼いたしました。ハリト様!」


「いや、大丈夫だから。顔を上げてちょうだい、マリエル」


 ふう……よかった。


 なんとかマリエルの誤解を解くことに成功。

 三人で寝室で、一息つく。


「でも、ミーケさんは、室内では裸の方が、良いのですよね? 今後はどうしましょう……」


「その辺は心配ないニャン、マリエルたん。ミーは里以外では、さっきの猫状態の方が、基本形態ニャン。だから戦闘以外では、ずっと猫の格好しているニャン!」


 なるほど、そういうことだったのか。

 猫獣人の戦闘能力は、人族よりも基本値が高い。


 その分だけ消費する魔力が高いという。

 だから戦闘以外では、常に猫状態で魔力を補充しているのだ。


「だから、この屋敷内では、ずっと猫の格好でいくニャン」


 これで色んな問題が一気に解決した。

 ミーケと一緒に暮らしても、屋敷の人にも気がつかれない。


 食事やお風呂も、猫だから問題ない。

 オレとマリエルがペットを飼っている感じだ。


「ふう……これでひと安心か……」


 問題が解決したので、オレはお風呂にいく。


 その後はマリエルと夕食。

 猫に戻ったミーケは、テーブルの下で一緒に食べる。


 あとは寝室に戻って就寝するだけ。


『ミーは、このベッドの端が、すきニャン。ここで寝るニャン』


 ミーケはオレとマリエルの足元。

 ベッドの足の方で寝ることになった。


 シングルベッドだけど、猫型のミーケは小さい。

 場所的は問題なかった。


 魔道具の電気を消して、三人で練ることにした。


 オレはいつものように、マリエルのすぐ隣に。


 ネグリジェで肌の露出が多いマリエル。

 肌同士があんまり付かないように、気を付けてベッドに入る。


 あとは心を落ち着かせ、目をつぶって寝るだけだ。


『あっ、そういえば、ハリトにゃん。ミーの身体のことで、言い忘れていたことが、一つあったニャン』


「えっ、身体のことで?」


『そうニャン。戦闘以外にも、もう一個だけ、人型に戻る必要がある時ニャン!』


「人型に戻る必要な時? いつなの?」


『それは“交尾”の時ニャン! 猫獣人は交尾をする時は、どうしても人型に戻る必要があるニャン!』


 えっ、交尾って……つまり人型だと……。


『あとハリトたんたち人族とも交尾は出来るニャン! 子供も産めるニャン!』


『そういえばマリエルたんとハリトたんは、これから交尾をするニャン?』


『猫獣人は、そういうのは気にしないから、子孫繁栄のために頑張ってニャン! じゃあ、おやすみニャン!』


 ――――なんか色々とすごい。


「…………」


「…………」


 オレはマリエルと顔が真っ赤になってしまう。


 そして、その夜は二人ともドキドキして、なかなか寝付けなかった。


 一歩で猫型のミーケは、瞬時に爆睡していた。


『ミャー……ミャー……もう、食べられないニャー……ムニャ、ムニャ……』


 こうして色々と危険な意味で危険なミーケと、オレたちの同居は始まるのであった。

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