第21話猫獣人ミーケ

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様マリエルと同居を開始。魔の森に実戦式の特訓にきた。


 危険な魔物から、獣人の少女ミーケを助け出す。

 マリエルと一緒に事情を聞くことにした。


 ◇


「それより、ミーケ。なんで、こんな危ないところに一人でいたんだ?」


「ハリトにゃん……実はミーは……」


 先ほどまで陽気だった獣人の子ミーケ。

 急に神妙な顔になる。


「実はミーは……“強く”なるため、武者修行をしていた最中だニャン……」


「でも、ミーケさん、あんなに強いの……どうしてですか?」


 マリエルが不思議がるのも無理はない。

 先ほどのミーケの戦い方は、見事なものだった。


 今回は上位魔獣で相手が悪すぎた。

 普通に戦ったなら、たいがいの敵は倒せる。


 おそらくキタエル学園の生徒と比べても、かなり上位の強さには入るであろう。


 そんな彼女がもっと強くなりたい。

 遠い獣人の里を離れ、こんな危険な森の奥まできて。


「何か、事情があるの、ミーケ?」


「そうニャン……実はミーの生まれ故郷が、滅ぼされてしまったニャン……」


「えっ……獣人の里が⁉」


「そうニャン。だから無力なミーは、もっと強くならないといけないニャン……」


「そうだったのか……」


 ミーケの話を聞いて、オレは言葉を失う。

 かなり重い内容。


 生まれ故郷を滅ぼされてということは、ミーケの家族は全員……。


「ちなみ相手は誰か分かるの?」


「それがミーには分からないニャん……里が何者かに襲われてミーは滝つぼに落ちて……その後、気がついたら、里の皆は……だから危険を避けて、ここまで移動してきたニャン」


「そうだったのか。辛いことを聞いて、ごめんね」


「うんうん。大丈夫ニャン。ミーたち猫獣人は、気持ちの切り替えが早いのが、モットーにゃん」


 そう強がりながらもミーケの顔は、まだ神妙だった。

 きっと自分の中に悔しさが、残っているのであろう。


「だからミーは早く強いならいといけないニャン! 仇を討てるように、もっと強く!」


 ミーケの目には強い意志が燃えていた。

 絶対に強くなるための覚悟だ。


 彼女は誰よりも真っ直ぐ。

 だから危険を承知で、単身で魔の森に修行に来ていたのだ。


「でもミーケ。単独での魔物狩りは、まだ止めておいた方がいいよ。リスクが高すぎる」


「それは分かっているニャン。でもハリたん、ミーは強くならないといけないニャン……」


 ミーケはかなり頑固な性格のようだ。

 決意の意思は固く、説得に応じてくれない。


「うっうっう……」


 そんな時である。

 少女の泣き声が聞こえてきた。


「ミーケさん、可愛そう……」


 泣いていたのはマリエルだった。

 大粒の涙を流しながら、ミーケの想いに共感している。


「ハリト様……」


 そしてオレのことを、じっと見つめてくる。

 涙に濡れた瞳は、静かに物語っていた。


 ――――『ハリト様。ミーケさんのこと、助けることは可能ですか』という意志が。


 もしかしたら、オレの一方的な勘違いかもしれない。


 だがオレも男だ。

 こんな悲しく純粋な瞳で見つめられたら、手助けをするしかない。


 でもミーケの願いを叶えるためには、いったいどうすれば?


(ん……あっ、そうか!)


 その時、一つアイデアが浮かんできた。


(うん、これは悪くないかもしれない)


 このアイデアが上手くいけば、ちょうどオレの抱えていた、ある悩みも解決できる。

 よし、ミーケに聞いてみよう。


「ねぇ、ミーケに提案があるんだけど?」


「えっ……提案ニャン?」


「そう。ミーケは強くなりたいだよね?」


「そうニャン!」


「それなら、今後はオレたちと……オレとマリエルと一緒に、武者修行していかない?」


「えっ、ハリたんたちと⁉」


「そう。修行といっても、特に難しいことはないから。魔物を狩りながら実戦稽古的な感じかな?」


 この提案には、オレにもメリットがある。


 どうしても今後、マリエルと二人きりで修行しても限界が来てしまう。

 だが三人でパーティーを組めば、効率は向上する。


 それにマリエルとミーケは女同士で同性。

 修行中や移動中も、女子同士で気が休まるだろう。



 あっ、そうだ。

 ミーケの返事を聞く前に、マリエルにも大丈夫か聞いてみないと。


「えーと、マリエル。事後報告みたいだけど、大丈夫?」


「はい、ハリト様! 私は大賛成です!」


 マリエルは心が広く優しい子。

 満面の笑みで、ミーケ本人の返事を待っている。


「マリエルたん……それにハリトたん……本当にありがとう……にゃん」


「ということは?」


「もちろんミーはオーケーにゃん! むしろミーの方からお願いするニャン!」


 ミーケはぺこり頭を深く下げてくる。

 猫耳が可愛く揺れる。


「これから頼むニャン!」


 上げたミーケノ顔は、先ほどから一変していた。


 清々しいほどの表情。


 彼女は生まれ故郷からの逃走してきた。

 ずっともやがかかっていた顔が、一気に明るくなったのだ。


「ミーケさん、これから、よろしくです……」


「マリエルたんも、こちらこそよろしくニャン! ……ってマリエルたん、また泣いているニャン?」


「ご、ごめんなさい、ミーケさん。 なんか、嬉しくなったら、また急に涙が止まらなくて……」


「そんな……こんなミーのために……」


「あっ、ミーケさんも、涙が溢れてきちいましたね……」


「こ、これは違うニャン! あ、汗が目に入って……だニャン!」


「うっふふ……そうですね」


「そ、そう……にゃん」


 少女二人は自然とハグし合う。


 二人とも泣きながら、そして笑っていた。


 本当に不思議が光景。


 そして眩しすぎる光景だった。


 さっき会ったばかりの二人。

 でも今は往年の親友のように談笑している。


 年頃の女の子同士は、こういったものなんだろう。


 男子であるオレは立ち入る隙がない、神聖なる光景。

 少し離れて、静かに見守っていくことにした。


「ん? 陽の角度が……そろそろ戻る時間だな」


 けっこうな時間が経っていた。

 門限もあるので、そろそろ学生寮に戻らないといけない。


「マリエル、ミーケ、とりあえず寮に戻ろう?」


「はい、そうですね。ハリト様」


「わかったニャン、ハリトたん」


 二人とも気持ちを切り替えて、帰り支度をする。

 とりあえず落ちていた赤大蛇の魔石は、オレが代表して管理しておくことにした。


 今後、修行で倒した魔物の魔石は、三人で山分けがいいだろう。

 後でパーティーの簡単なルールとかも、決めておこう。


「あっ、そういえば……ミーケの住まいはどうしよう……」


 ふと問題に気が付く。

 逃走してきたミーケには家がない。


 キタエルの街に住むとしても、長期間だと生活費もバカにならない。

 ミーケは着の身着のままで、お金持ちではなさそうだ。


「それならハリト様。私たちの屋敷に、一緒に住むのはどうですか?」


「なるほど。でも大丈夫かな? 叔母さんに聞かなくて?」


「たしかに、そうですわね……空いている客室をどうにかすれば……」


 マリアンヌは少しだけ悩んでいる。

 何故なら彼女も、あの屋敷に住まわせてもらっている身なのだ。


「ん? 住む場所なら、ミーはちょっとでいいニャん。部屋の押し入れとか」


「えっ? 押入れに?」


「証拠を見せるニャン…………『猫獣人……秘技……【変化】』ニャン!」


 ボワン!


 直後、凄いことが起こる。

 ミーケが小さな茶色の猫に変身したのだ。


『それじゃ、お世話になるニャン、ご両人たん♪』


 こうして新しい仲間……“猫獣人”ミーケと、オレたちは新たなパーティーを結成するのであった。


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