第20話巨大魔獣討伐

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 お姫様マリエルと同居を開始。魔の森に実戦式の特訓にきた。


 その時、危険な魔物を探知する。


「よし、急いで行くぞ、マリエル!」


「はい、ハリト様!」


 迷い込んだ人が襲われている場所へ、オレたちと向かう。


 今は緊急事態中。オレが先頭になり、獣道を駆けていく。


「あれだ!」


 しばらく進むと、木々の開けた場所が見えてきた。

 そして巨大な魔物の姿も。


「ハリト様、あの大きいのは……」


「あれは……たしか“赤大蛇あかだいじゃ”の魔獣だ」


 屋敷にあった魔獣図鑑で、見たことがある魔獣がいた。


「あんな大きいのが、蛇……」


 マリエルが言葉を失うもの無理はない。

“赤大蛇”は全長二十メートル以上ある巨大な魔獣。


 胴回りは大木よりも太く、ちょっとした竜サイズだ。

 図鑑によると“上位魔獣”と呼ばれる、強力な種だ。


「ハリト様、あちらを!」


「ああ、あの人だね!」


 そんな巨大な魔獣と、戦って人がいる。


 その人は女剣士……茶色の髪の毛の少女だった。


「ハリト様。あの子は……もしかして」


「ああ……あの子は“獣人”だ」


 赤大蛇と戦っているのは、猫の耳と尻尾を生やした獣人の少女。

 巨大な魔獣を相手に、一人で奮闘している。


「でも獣人が、なんでこんな場所に?」


 屋敷にあった大陸図鑑で、獣人について見たことがある。

 ここから遥か遠い場所にしか、獣人は住んでいないはず。


「ハリト君、あの子は、このままでは……」


 マリエルが悲しそうな顔をするのも、無理はない。


 赤大蛇との戦い、獣人の子は押されている。

 彼女の攻撃は当たっているが、赤大蛇にダメージを与えられていないのだ。


「ああ、そうだね。このままだと、時間の問題だな」


 見た感じ獣人の子は、決して弱くない。

 だが相手が、あまりにも巨大すぎるのだ。


 更に赤大蛇は動きも素早く、退避経路も塞がれていた。

 このままでは間違いなく、あの子が死ぬ可能性が高い。


「ハリト様……」


「安心して、マリエル。あの子を助けるぞ!」


「はい、かしこまりました! ですが、あんな巨大な魔獣を、どうすれば……」


「攻撃はオレに任せて。マリエルはさっきと同じく、風の斬撃で牽制をして。その後はサポートを!」


「はい、かしこまりました! でもハリト様、無理をなさらずに」


「うん、任せて!」


 ――――と言ったものの、さてどうしたものか。


 相手はかなり防御力が高そう。

 オレのさっきの『一の型【雷斬ライ・ザン】』でも、一撃では倒せなそう。


(でも、いくしかない! いざとなったら、アノ技を試すしか……よし!)


 作戦も決まった。

 ここからは一気にいく。


 全身の意識を集中して、魔力を高め身体能力を高める。

 オレは赤大蛇に向かって駆けていく。


「援護射撃、いきます、ハリト様。『風の斬撃よ、彼方の敵を斬り裂け!』……剣術技【第二階位】二の型……【飛風斬ひふうざん】!」


 詠唱を終えて、マリエルは斬撃を繰り出す。

 鋭い風の斬撃が、剣から発射される。


 ザッ、ゴォオオオオ!


飛風斬ひふうざん】が赤大蛇に命中する。


 だが相手は大物。

 先ほどとは違い、今回は一撃で仕留められていない。


 だが突然の攻撃に、赤大蛇は混乱している。

 ナイスの援護射撃だ、マリエル。


 よし、ここからオレの出番だ。


「いくぞ! 『春雷よ、敵を斬り裂け』……剣術技【第一階位】一の型、【雷斬ライ・ザン】!」


 剣術技を発動。

 全体重をかけた斬撃を、赤大蛇の脳天にぶち込む。


『ギュルルルル⁉』


 強烈な斬撃を喰らい、赤大蛇は吹き飛んでいく。


 やはり大きなダメージは与えられていない。

 だが相手の体勢は崩れている。


 これで時間は稼げた。

 オレは獣人の子の元に駆け寄る。


「大丈夫?」


「えっ……? キミはナンニャ? なんで、こんな所に人族の男の子、いるニャん?」 


 オレの登場に、獣人の子は驚いている。

 この反応も仕方がない。


 何しろオレの見た目は幼い。

 ひと気のない魔の森で、少年が迷い込んだと思ったのであろう。


 だが今は事情を、詳しく説明している暇はない。


『ギュルルルルゥ!』


 何故なら赤大蛇が、起き上がってきたのだ。

 巨大な顔を向けて、こちらを威嚇してきたのだ。


 先ほどの剣術技のダメージは、それほど無い。

 蛇だけに柔軟性があり、強固な鱗で防御力も高いのだ。


「オレは味方だ! 信じて! とりあえず、あの蛇を仕留める。まだ動ける、獣人の子?」


「も、もちろん、大丈夫ニャー、人族の男の子!」


「いい気合だ。それからオレのことは、今は“ハリト”って呼んで!」


 今は戦闘中、互いに気を使うのは無駄。

 それに変な名で呼ばれたままだと、恥ずかしい。


「分かったニャ、ハリトたん。それならミーのことは“ミーケ”って呼ぶニャン!」


「ああ、分かった。ミーケ!」


 名前を聞けて、相手の信頼を勝ちとった。


 よし。

 あとは厄介な赤大蛇を、とっとと退治するだけだ。


「ミーケ、よく聞いて。今から作戦を伝える。オレの仲間がさっきと同じ風の斬撃で、左から攻撃して牽制する。ミーケは同時に右から牽制をしてくれ」


「分かったニャン。右からの牽制はミーにまかせ!」


 情報が多い戦況。

 だがミーケは気持ちを落ちつかせ、剣を構える。


 よし、悪くない気持ちの切り替え。

 これなら連携がとれそうだ。


「でも、ハリトたん。あの魔獣の防御力は、普通じゃないニャン。牽制の後は、どうするニャん?」


「大丈夫。最後はオレに任せておけ。ん? 相手が、動いた。よし、行くぞ。援護射撃を頼んだぞ、マリエル!」


 オレの合図で作戦開始。

 まずはマリエルの遠距離攻撃だ。


「ハリト様、いきます! 『風の斬撃よ、彼方の敵を斬り裂け!』……剣術技【第二階位】二の型……【飛風斬ひふうざん】!」


 マリエルの遠距離攻撃が発射される。


 ザッ、ゴォオオオオ!


 先ほどと同じ風の斬撃が、赤大蛇に炸裂する。


『ギュルルルルゥ⁉』


 強烈な攻撃を受けて、赤大蛇は叫び声をあげている。

 だが今回は上手く、身体の外皮で防御している。


 さすが上位魔獣。

 学習をしているという訳か。


 だが体勢は崩れている。

 たたみ掛けるチャンスだ。


「ミーケ、いまだ!」


「わかったニャん!…………『大地の精霊よ、我が足となり敵を討て!』……剣術技【第一階位】一の型……【地針斬ちしんざん】!」


 ミーケは剣術技を発動。

 地系の技で、ミーケの大地を駆ける速度が上昇。


 凄まじいスピードの連撃で、攻撃をしかける。


 ドッ、ザゴーン!


『ギュルルルルゥ!』


 崩れた態勢に直撃を受けて、赤大蛇は吠える。

 だが強固な鱗に阻まれて、ミーケもそれほどダメージを与えていない。


「ミーケ、下がれ! オレと交代だ!」


「わかったニャン!」


 エタイミングを合わせて、ミーケは後方に退避。

 入れ替わるように、次はオレが前に進み出る。


「さて、いくぞ!」


 オレは腰だめに剣を構え、意識を集中。

 魔力を高めていく。


 相手は強固な防御力と、柔軟性を合わせて魔獣。

 手加減は不要。

 全力でいく。


「ふう……」


 深く息を吐き出す。

 意識を集中して、魔力を高めていく。


 今まで感じたことがない高揚感が、全身に漲(みなぎ)る。


 ――――次の瞬間だった。


 奇妙なことが起きる。


(魔獣の動きが……ゆっくりに、なった?」


 先ほどまで素早く、激しかった魔獣の攻撃。

 今はスローモーションのように、止まって見えるのだ。


(これはあの時の……“走馬灯そうまとう”。よし、今ならいけるぞ!)


 勝機が見えた。

 オレは身体が動くまま、剣術技を発動させる


「『迅雷よ、天を焦がし、大地を斬り裂け』 ……剣術技【第一階位】極(きわみ)の型……いくぞ……【雷光斬ライ・コウ・ザン】!」


 オレの右手の剣が、凄まじい轟雷をまとう。

 そのまま雷光の斬撃で、魔獣を斬りつける。


 ドッゴォオオオオン!


 直後、凄まじい閃光と雷鳴が弾ける。


 斬撃が赤大蛇に直撃した直後――――


 ジュオーーーーン!


 超電圧の雷撃が、赤大蛇の体内で爆発。

 魔獣の体内の水分という水分が、一瞬で破裂する。


 直後、赤大蛇は粉々に砕け散る。


「やったか⁉」


 念のために探知で、死骸を確認。

 魔石の反応があるだけ、赤大蛇は消滅していた。


 周囲にも他の魔物の気配もない。

 これでひと安心だろう。


「えっ……今の……剣術技なのかニャン? ハリトたんの斬撃で? えっ?」


 剣を構えたまま、ミーケは固まっていた。

 目の前で起こったことを、理解できずにいるのだ。


「えーと、今のはオレの……オレの家に代々伝わる、一子相伝いっしそうでんの剣術技みたいなもので……えーと」


 とりあえず誤魔化すことにする。

 もちろん、そんな一子相伝な技はないのだが。


「ハリトたんの家に伝わる?」


「そうそう。だから、あまり他言していでね」


「なるほどニャン!」


 なんとかミーケは納得してくれた。

 後でマリエルにも誤魔化しておこう。


 一子相伝の剣技ということにしておけば、二人も追及してこないだろう。


「それより、ミーケ。なんで、こんな危ないところに一人でいたんだ?」


「ハリトにゃん……実はミーは……」


 先ほどまで陽気だった獣人の子ミーケ。

 急に神妙な顔になる。


 こうしてミーケの悩みを、オレたちは聞くことにした。

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