第17話王女様との関係

 オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。

 謎の激ヤセでイケメン風に、クラスの女の子からも高い好感度を。


 転入生のお姫様マリエルの暴走を助け、彼女と同居することになった。


 ◇


 同居初日の朝。


「ねぇ、マリエル。朝だよ」


「えっ? ハリト様⁉ キャッ!」


 マリエルは寝ぼけていた、ベッドから落ちてしまう。

 ネグリジェの大きくまくれて、彼女のピンクの下着と太ももがあらわなる。


 プライベートの彼女は、かなり“うっかりさん”なのだ。


「大丈夫? マリエル?」


「は、はい。大変お見苦しいところを」


「オレは大丈夫だけど、その……マリエルの、か、可愛い下着が、丸見えでして……」


「ひゃっ? し、失礼いたします!」


 顔を真っ赤にして、マリエルは奥の部屋に逃げていく。

 メイドの控える衣装室に、制服に着替えに行ったのだ。


「ふう……なんか、騒がしくなりそうだけど、オレも準備ないと!」


 オレの汚れた制服は、昨夜のうちにメイドさんが洗濯くれた。

 制服に着替えて、学園に向かう準備をする。


 その後は、案内に従って、屋敷の朝食会場に。


「「いただきます!」」


 マリエルと一緒に挨拶をして、朝食に口をつけていく。


 うん、美味しい!

 すごく美味い!


 出された食事は全てが、最高に美味い。


 何でも、この屋敷には専用の料理人がいるという。

 キタエル地方の特産品を使って、朝から豪華な食事を頂く。


 あまりの美味しさに、何回もお替りしてしまった。


「ハリト様、そろそろお時間です」


「あっ、本当だ! それじゃ、行こう。マリエル」


「はい!」


 二人で一緒に、屋敷の玄関を出ていく。

 屋敷中の使用人が、全員で見送ってくれる。


 門番の剣士さんたちが、最後に送りだしてくれた。


「これはマリエル様。それにハリト殿。お気をつけて」


「学園でのマリエル様ことは、頼みましたぞ、ハリト殿!」


 どんな大貴族でも生徒は、学園内に従者や護衛を連れていけない。

 王女マリエルも一人前の剣士になるため、ここから先は一人で歩いていくのだ。


 二人で一緒に、校舎に向かって歩いていく。

 まだ時間に余裕はある。


「うっふふ……」


 歩いていると、マリエルが急に笑いだす。

 いったいどうしたのかな?


「ん? どしたの?」


「いえ、こうしてハリト様と歩いていると、自然と笑みが出てきました」


「えっ? どうしてかな?」


「私もよく分かりません。不思議ですね。ふふふ……」


 今日のマリエルは、朝から気分が良さそうだった。

 とにかくよく笑って、元気に歩いている。


(もしかしたら王都のことをオレに告白して、心が軽くなったのかもな……)


 昨日の襲撃の後、マリエルからたくさん話を聞いた。

 ずっと溜まっていたもやが、心から消えたのであろう。


 話を聞いてあげたオレも、なんか気分が良い。


「あっ、校舎ですわ、ハリト様」


「そうだね。そういえば、学園内で、どうする、オレたち?」


 校舎に入る前に、確認したかったのは、二人の関係。


 何しろマリエルは、一国の王女。

 一方でオレは辺境の村出身の平民。


 同居しているのを知られたら、王女であるマリエルは困るはずなのだ。


「いえ、私は知られても一向に構いません」


「えっ……でも、オレは田舎出で、普通の身分だけど……」


「この剣士学園では、身分は関係ありません。それに我が王国では、最終的“強い剣士”こそが、国を制することが出来ます」


「あっ、そっか……」


 王国の国土は常に、魔物や魔獣の脅威にさらされている。

 そのため有能な剣士の権力は、国内でも大きい。


 手柄さえ立てたら、信じられないほど出世も可能。

 過去には奴隷だった剣士が、腕一本で大貴族まで伸し上がった前例もある。


 今回はオレの将来性を、当主イザベーラさんが先買い物した感じかな?

 そのため先ほどの屋敷の皆も、オレとマリエルの仲を、快く認めてくれたのだ。


「だからハリト様が私と一緒にいても、問題ありません。むしろ私の方こそ、ハリト様に後れをとらないように、これから頑張ってついていきます!」


「マリエル……わかった。キミの決意が、そこまで固いなら、オレも大丈夫。マリエルに付いていくよ!」


 こうして二人の公での関係が、決まった。

 仲良く二人で校舎に、入っていくことにした。


 校舎に入ってから、すぐ。

 白衣を着た女性が、目の前を横切る。


「あっ、カテリーナ先生。おはようございます!」


「先生、おはようございます」


 通りかかったのは、担任のカテリーナ先生。

 真面目な口調の人だけど、今日も白衣と眼鏡で、どこかエロスを発している。


「あら、おはようございます。マリエルさんも、その顔色だと、体調は大丈夫そうですね?」


「はい、ご心配おかけいたしました。お陰様で、この通りに回復いたしました」


 満面の笑みでマリエルは、先生に感謝を述べる。

 本当に眩しい笑顔。


 昨日とは別人のような雰囲気だ。


「あら? マリエルさん、あなた……?」


 そんなマリエルの内面の変化に、同じ女性の先生も気が付く。


「もしかして……昨夜“大人”になったかしら?」


 いきなり先生は変なことを口走る。


「大人……ですか?」


「昨夜、『ハリト君と夜を共に』? という意味よ?」


 早朝からカテリーナ先生はすごい言葉を、真顔で発してきた。


 きっと、気分が爽快になったマリエルの顔を見て、勘違いしているのであろう。


 これは急いで、訂正しないと。


「はい、昨夜は、“ハリト様とベッドを共”にいたしました」


 だがマリエルも先走る。

 真顔で先生に答えてしまう。


 いや……ちょっと、待って、マリエルさん。


 たしかに昨夜、同じベッドで寝たけど、その言い方だと、更に誤解が大きく……。


「やっぱり、そうでしたか。ちなみに昨夜のハリト君は、どのような感じでしたか?」


「昨夜のハリト様は優しくて、でも気がついたら私、意識を失っていました。目を覚ましたら、ハリト様の腕の中で、朝日を迎えていました……」


 ぶっはー!


 それを聞いてオレは、口から変な液が出てしまう。


 な、なに、頬を赤くして答えているんだ、マリエルさん⁉


 い、いや……たしかに、マリエルの言っていることは、間違いではない。


 昨夜、彼女は疲れで、すぐに寝てしまった。

 それこそ気絶してしまったように。


 それに朝もマリエルの方が寝ぼけて、オレに抱きついていた。


 だから彼女は嘘を言っていない。


 けど、今の返答で、ますます先生に誤解を与えてしまいそうだ。


「あら、そうでしたか。それにしても“はじめて”だったマリエルさんを、昇天させるとは。見かけによらず、ハリト君は技巧派だったのですね」


(い、いえ……だから、先生、それ誤解で……)


 テンパリすぎて、オレは言葉が出てこない。

 真顔で褒めてくる先生に、どうやって誤解を解けばいいのか分からない。


「でもハリト君、卒業までは、ちゃんと避妊してください、マリエルさんは王女ですから」


「ひ、ひにん……って、いやっ……だから……」


「あと、校舎内での性行為は禁止です。でもハリト君が“どうしても我慢できない”ときは、私の個室に来てください。善処します」


「だ、だ、だから……」


 カテリーナ先生のエスカレートぶりが半端ない。

 もはや言い訳の言葉すら出てこない。


「おや? それでは、そろそろ午前の授業です。二人とも遅刻しないように」


 真顔でそう一方的に言い残して、カテリーナ先生は立ち去っていく。

 

「あっ、あっ……はぁ……」


 一方で残されたオレはため息をつきながら、呆然と立ち尽くす。

 朝から精神エネルギーが、ごっそり吸い取られた感じだ。


 もしかしたらカテリーナ先生は、裏で【精気吸収】の剣術技を使えるのかもしれない。

 あり得そうで……少し怖い。


「あの……ハリト様。少しお尋ねしても、よろしいですか?」


 そんな時、マリエルが小声で訊ねてきた。

 すごく真面目な顔だ。


 どうしたんだろうか?


「先ほど先生が口にしていた『ひにん』と『せいこうい』とは、いったいどういう意味ですか?」


「ふぇっ⁉」


 思わず変な声が出てしまう。


(カ、カテリーナ先生……オレはアナタを恨みますよ……はぁ……)


 とりあえず真顔で聞いてきたマリエルには、適当に誤魔化しておいた。

 

『オレは上手く説明できないから、イザベーラさんかカテリーナ先生に、詳しく聞いてみて?』という感じで言っておいた。


「よ、よし。とりあえず、教室に行こう!」


「はい、ハリト様」


 こうして朝からバタバタしながら、オレたちは教室に駆けていく。


 ◇


 その後、教室に入ってからも、色々と大変だった。


 何しろ転入してきたばかりの王女が、平民でのオレと一緒に、仲良く登校したのだ。


 入った瞬間に、教室中がザワついていた。


 でもクラスでの騒ぎは、オレの予想とは違う方向だった。


 何故なら多くの生徒が、何かを納得していたのだ。


『我がクラス随一のイケメンのハリト……早くも王女様を陥落させたのか……』


『ああ……さすがは“魔道具クラッシャー”……女子に対しても、凄まじい破壊力……』


『あいつが相手なら、マリエル様のことは、オレたちも諦めるしかないな……』


『そうだな。敵わないな……』


 男子生徒は称賛の目で、オレのことを見てくる。

 中には小さく拍手してくる奴いた。


 いや、ありがたいけど、その“魔道具クラッシャー”って何だ⁉


 たしかに適性検査の時に、大事な魔道具を壊した。

 けど、誰が、そんな変なあだ名をつけていたんだ。


 しかも騒いでいるのは、男子だけはなかった。

 女子の多くもザワザワしている。


『あーん、ハリト君が、奪われちゃったよー』


『でも、マリエル様が相手なら、仕方がないわよね……』


『そうね……美少年と美少女で、お似合いのカップルだからね……』


『だね。みんなで、応援していかないとね……』


『ねぇ、ねぇ、二人の結婚式には、何着ていく?』


『楽しみだねー♪』


 男子よりも女子の話は、エスカレート度が凄い。

 話は飛躍して、結婚式の話までしている。


 いや、祝福されるのは嬉しいけど。

 なんかみんな話が飛躍しすぎていて、いろいろと怖い。


 でも、これでクラスの女の子のオレに対する態度が、少しでも落ちついてくれるといいな。


 だが――――オレのこの予想も外れる。


「ねぇ……ハーリト君♪」


「やっほー、ハリト君♪」


 クラスで一番積極的な、例の女の子たち。

 またオレの密着してきたのだ。


 いったいいつの間に、接近していたのでろうか?

 油断していた訳でないのに、虚をつかれた。


 もしかしたら、この子たちは将来すごい隠密型の剣士になるのでは。


「ねぇ、ハリト君。本命はマリエル様で、構わないから、私ともデートしようよ……」


「王家は一夫多妻制みたいだから、こっそりとね……」


 油断していたので、いつも以上にグイグイくっつかれてしまう。

 しかもマリエルから見えない角度から。


「楽しみだね、ハリト君との夜は……なんか夜の方も、“すごい”みたいだら……ね♪」


「マリエル様の“小さくて可愛いの”を食べ飽きたら……私の“大きいの”を食べてもいいんだよ……」


 今日の密着度は、いつも以上に強引。

 たしかにマリエルの胸は、形は良いけど少しだけ小ぶり。


 対抗するように大きくて柔らかい胸を、オレの手に押し当ててアピールをしてくる。


「い、いや……だから……ご、ごめんさい!」


 これはまずい。

 今日の説得は不可能。

 どうにもならないので、男子の集団の方に走って逃げることにした。


 ふう……あとはカテリーナ先生が来るまで、この子たちから逃げ切るしかない。


(まったく……みんなで、オレのことをイジって遊んできて。まぁ、数日もすれば落ち着くか……)


 あまり気を落とさないように、自然体で授業に励むことにした。


 ◇


 その後の一週間、クラスの中は相変わらずザワザワしていた。

 みんなでオレとマリエルの仲の良さを、何かと祝ってくる。


 だが金曜日ともなれば、騒ぎも落ち着いていった。


 オレもほっとひと息。

 これでゆっくり剣の鍛錬に励める。


 あと、もう一つのオレの心配事。

 マリエルとの同居も、なんとか上手いっていた。


 というかマリエル邸の生活は快適すぎた。


 何しろ食事が美味しくて、家事も全部メイドさんがやってくれる。

 お蔭でオレは授業と剣士の修行に、前より専念できるようになった。


 本当に有り難い同居生活だ。


 あっ、でも。

 唯一大変なのは“夜の方”。


 あれから毎晩、マリエルと一緒に同じベッドで寝ている。

 一人用のシングルベッドで。


「お、おじゃまします、マリエル……」


「はい、今日もよろしくお願いします、ハリト様……」


 ベッドに入る時、互いの肌がくっつかないように、オレは気を付けて横になる。

 

 でも狭いベッドなので、どうしても肌が触れ合ってしまう時もある。

 そんな時は、お互いの心臓の鼓動が、聞こえてくるほどドキドキしてしまう。


「ハリト様……」


「マ、マリエル……あっ、そういえば、今日は授業でさ……」


 そんな時は、二人で話をして心を落ち着かせる。

 一杯いろんな話を。


「そういえばハリト様、私は今日……」


「へー、そうだったんだ……それは凄いね……」


 ベッド中で静かに楽しく話をしていく。

 本当に幸せな時間だ。


「ハリト……様……すぅ……すぅ……」


 いつも先に寝落ちしてしまうのは、マリエルの方。

 天使のように可愛い寝顔が、すぐ横にある。


 そんな天国のような雰囲気の中、オレも眠りに入る。


 だいたい二人とも毎晩、熟睡。

 あっとう間に朝になる。


「むにゃ……むにゃ……ふぇ、ハリト様⁉」


 相変わらずマリエルの抱きクセは、すごい。

 いつもネグリジェから真っ白な胸元や、太ももを出してオレに抱きつてくる。


「も、申し訳ございません……また……」


 話によると彼女は幼い時、母親を亡くした。

 また父親は厳しいことで有名な国王。


 そのため家族の愛情に飢えているのだ。


 だから彼女の抱き癖のことは、オレも気にしないことにした。


 まぁ……ちょっと……ドキドキするのを、オレが我慢すればばいいからね。


 ◇


 そんな感じで同居してから一週間は、あっとう間に経つ。


 そして今日は土曜日。

 待ちに待った週末がやってきたのだ。


 土曜と日曜は学園の授業なく、生徒は休み。

 自由な時間なのだ。


「おはよう、マリエル。予定通り、今日は特訓にいくよ!」


「はい、ハリト様。そういえば向かう先は、どちらに?」


「それは着いてのお楽しみ!」


 オレたちは制服姿に剣を装備、キタエルの街を飛び出す。

 向かう先は、少し離れた所にある深い森。


 そこは通称“魔の森”。

 魔獣が出没する危険な場所だ。


「よし、着いたよ!」


 こうしてオレたちは一人前の剣士になるために、魔獣相手に実戦訓練に挑むのであった。

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