第16話:【閑話】幼馴染の聖女エルザ視点 その2

 《幼馴染の聖女エルザ 視点》


 同居人のハリトが家出してから一ヶ月と、ちょっとの日が経つ。

 聖女エルザは、まだまだ苛立いらだっていた。


「くそっ! なんで、あの馬鹿、こんなにも見つからないのよ!」


 もちろん原因は家出したハリトが見つからないこと。


 部下の隠密衆も捜索から撤退。

 居場所も不明。


 まさに八方ふさがりの状態。

 部屋のヌイグルミにストレス発散する毎日だった。


「エルザお嬢様、失礼します」


 そんな時、執事の声が部屋の外からする。


「はい、なんですの?」


 エルザの表面おもてづらは良い。

 幼馴染のハリトの前以外では、礼儀正しい生活していた。


「実は……国王陛下から、お呼び出しがありました」


「えっ? 私に? 何かしら?」


 大貴族の令嬢であり、【聖女】の称号をもつエルザは、国王との面識もある。

 だが、こうして直接、呼び出されるのは初のこと。


(もしかしたら褒美を? それとも新しい宝剣の授与とか?)


 とにかく国王を待たせてはいけない。


「では、行って参りますわ」


 エルザは王都の屋敷から、王宮へと急いで駆け付ける。


 だが待っていたのは、予想外のことだった。


 ◇


「聖女エルザ! お前は、なぜ、ここ一ヶ月の公務をサボっていたのだ⁉」


 国王カイザル・ワットソンの怒声が、謁見の前に響き渡る


 エルザを待っていたのは、国王からの糾弾きゅうだんだった。


【聖女】としての魔物討伐や、式典への参加。

 王城への報告の、再三の無視。


 聖女としての職務を、全て放置していたことに対して、国王は激怒していたのだ。


「あっ……」


 まさかの激怒に、エルザは弁明できない。

 聖女といえども、王国の剣士であることは変わりない。


 国の君主たる国王には逆らえないのだ。


「どうして、この一ヶ月、職務を怠慢していたのだ⁉ キサマは⁉」


「そ、それは……その……」


 エルザは答えることは出来なかった。

 何故なら理由は『家出した幼馴染ハリトを捜索の指揮に没頭していた』から。


 かなり個人的な理由であり、激怒している国王には、口を裂けても言えない。


「答えられない理由か? もしかワシに対して反逆するつもりか、キサマ⁉」


 国王カイザル・ワットソンは初老だが、凄まじい覇気の持ち主。

 若かりし時は【剣鬼】の称号も有していた、屈強な武人なのだ。


「い、いえ、滅相もございません」


 そんな覇王に睨まれて、エルザは声が小さくなる。

 圧倒的な圧力によって、足を震わせていた。


「ふん。キサマのことを買いかぶり過ぎていたようだな。では判決を言い渡す。キサマの【聖女】の称号は一次没収する! に下り、結果を出してこい!」


「えっ……そ、そんな……」


 まさかの判決だった。


 エルザが有していた【聖女】の称号の没収。

 王都から追放され、いち剣士として国民のために成果を出せ。


 それが国王から課せられた非情な言葉だったのだ。


 ◇


 その翌日になる。

 エルザは本当に王都から追放された。


 大貴族である養父も、国王には逆らえない。

 わずかな旅の準備だけ与えられ、エルザは養父から見放されたのだ。


「そ、そんな……」


 街の正門の外で立ち尽くすエルザは、立ち尽くしていた。


 自分が置かれた状況が、まだ飲み込めていないのだ。


「くそっ……これも……全て、あの馬鹿の……あの駄目ハリトのせい……」


 そして急に表情を険しくする。


 思い出したのだ。

 自分がこんな惨めな思いをしている原因を。


「こうなったら……必ず見つけ出して……ボロボロにしてやるんだから! あのクズを!」


 こうして聖女の称号を剥奪はくだつされたエルザは、王都から旅にでる。


 向かう先は北。


 隠密衆から唯一の情報があった、キタエル地方だった。




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