第577話 デカブツ
Side : Siegfried
「なんだ、ありゃあ」
ジークフリートは己の危機感知本能が騒つくのを感じていた。
数百メートル先に現れた新手の魔物。その姿は異様の一言に尽きる。
全長は四、五メートルほどあるだろうか。全身を甲冑のような装甲で覆い尽くした巨大なアルマジロ。端的に形容するならばそういう表現になる。
「でっかいアルマジロに見えるぜ」
「みてェだな」
コンスタンスが剣を担いで思ったままのことを言う。彼女は深く考えてものを言わないので、こういう異常時にはむしろ状況整理に役立ったりするのだが、それをわざわざ口にすることまではしないジークフリート中佐である。
「とりあえず撃ってみるか」
細かいことを考えないのはジークフリートも同じだ。彼はアーレンダール技師謹製の双剣「迅雷剣」をガチャリと組み合わせると、一発あたりそれなりの値段のするアダマンタイト徹甲弾を装填して部隊に警告を発した。
「全員、死にたくなけりゃ離れとけ」
言うが早いか、ジークフリートは自身の持てる技の中で最強の遠隔攻撃技を放った。雷鳴が如く轟く発射音。極超音速で放たれた徹甲弾は、しかし攻撃の直前に殺意を感じ、丸まることで防御耐性を取った巨大アルマジロの装甲に阻まれ、弾かれてしまう。
「あ?」
「す、すげえ技だな……。けど、これでも効かねーのか」
コンスタンスが感心した声で呟いた。それは部隊全員の思うところとまったく同じである。神殿騎士を含め、ここまでの戦闘を見ているおかげでジークフリートの実力を疑う者はもう誰一人としていない。ファーレンハイト少将に指揮を任された彼こそが、この部隊の中で一番の実力者であることは誰もが認めるところだった。
そのジークフリートの必殺技が効かない。その事実は部隊全体の士気に大きく悪影響を与える。
「チッ」
ジークフリートは己の失態を思って小さく舌打ちをした。試しに撃ってみただけのつもりだったが、思いのほか敵が硬かったせいで動揺が部隊全体に広がってしまっている。なまじ今の電磁砲撃の威力が高かったのがいけない。おかげで「あの敵を倒す術はもはや無いのではないか」という空気感が醸成されつつあった。
「すまねェ、コンス。悪ィが尻拭いを手伝ってくれ」
「任せろ。自分を誰だと思ってやがる」
「神殿騎士の四位様だろ。安心しろ、テメェの実力はオレもわかっている。あいつを倒すのにはコンスとシュナイダー少尉の力が必要だ」
そこまで言うと、ジークフリートは声を大きく張り上げて言った。
「これより皆は手出し無用! オレとシュナイダー少尉、それからコンスの三人でかたをつける! それ以外の奴は雑魚どもの処理だ!」
皆の奮戦の甲斐あって、気づけば敵の魔物と兵士は随分と数を減らしていた。おおかたあのデカブツを召喚するのに多くのリソースを割いた副産物なのだろうが、敵を減らしたという視覚的な効果は大きい。おかげで一度は下がりかけた士気が再び盛り上がってくる。
「コンス、シュナイダー少尉。テメェらはあのデカブツの気を引け。その隙にオレはもう一回、今の攻撃をブチ込む」
「中佐殿。しかしそれでは同じことの繰り返しになるのでは?」
ヨハンが言いづらいことを単刀直入に訊く。下手な忖度をしないところが彼の良いところだ。武人気質のなせるところだろうが、そういう部分がこの爆弾上官であるジークフリートとうまくやっていける理由でもある。そんな彼らを同じ部隊に配置したファーレンハイト少将は流石と言えるだろう。
「いや、今度は文字通りに全力で、しかもゼロ距離射撃でブチ込んでやるつもりだ。おそらく一発撃ったらしばらくオレは使い物にならなくなるだろうから、後は任せることになる」
「まだあの上があんのかよ?」
コンスタンスが呆れたように言うが、ジークフリートは不敵に笑うだけだ。
「ああ。ただ、気絶するだろうけどな」
戦場のド真ん中で、強敵を排除した後とはいえ気絶するというジークフリート。並の神経をしていれば、そんな自殺行為を選ぶことはすまい。だが彼は立派な狂人である。ただひたすら強さのみを求めて、将来の約束された特魔師団を抜けて特殊作戦群へと移ってきたような人間だ。己の全力を出すことで敵を倒せるのならば、たとえリスクがあろうと迷いなく実行に移せるだけの胆力がある。
「いくぞ!」
ジークフリートの掛け声と同時にヨハンとコンスタンスが駆け出した。まずはコンスタンスがアルマジロの正面に陣取り、大威力の『
それでダメージが通るほどアルマジロの装甲は柔らかくはなかったが、しかしバランスを崩すことには成功したようだ。
「――――『
そこへ畳みかけるように繰り出されるヨハンの連撃。敵を崩すための最適解を、魔剣カタストロフが斬り、刺し、突いてゆく。
次々と鱗状の皮膚を狙われ、バランスを崩すアルマジロ。硬い装甲に阻まれて攻撃自体は通らない。だが少しずつ着実に
「今だ! くたばれェッ、デカブツ野郎ォォッ!」
全身に雷属性の魔力を纏う『青天の霹靂』。その魔力をすべて攻撃に注力したジークフリート史上最大最強の電磁アダマンタイト弾が、ゼロ距離で撃ち出される。極超音速の弾体は、普通ならまず間違いなく膨大な熱エネルギーと空気との摩擦熱、断熱圧縮熱に耐えきれずにドロドロに融解した挙句、プラズマと化して消えてしまうだろう。
だが魔力で強化されたアダマンタイトは融解することなく、アルマジロの硬い皮膚を貫き、その中身の肉に全運動エネルギーを余すことなく伝達し、そしてアルマジロの体内を破壊し尽くして背中側から飛び出した。
「――――!」
言葉では表現しきれない断末魔を上げて地に
「テメェら……あとは……頼ん……だ……」
急性魔力欠乏症に陥って膝から崩れ落ちるジークフリート。だがその表情はやりきったことへの自信と満足感でどこか幸せそうであった。
――――――――――――――――――――――――
[あとがき]
カクヨムコン参加中です。軍略と築城を駆使して異世界で成り上がる戦略モノになります。軍略考えるのすっごく難しい。
「軍略のリントブルム」よろしかったらぜひブクマと星さんお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16818093086430474442/episodes/16818093086437147000
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