西方動乱編
第554話 火種と子種
「だ、だめじゃ、エーベルハルト……。これ以上されたら妾は、妾は……はぁうぅっ♡」
「マリーさんがエッチすぎるからいけないんだよ! こんなエロ可愛い姿を見せられて、冷静でいられるかってんだッ!」
「んぐぅっ、ふあっ、ああっ、エーベルハルト♡ すき、好きっ」
結婚式まではよかった。ロマンチックでしんみりとした感動があったし、俺達も今夜は愛を語らいながらそっと身体を重ねるのかな、などと思っていたのだ。
だがいざ初夜本番というタイミングになって、あろうことかマリーさんが犯罪的ミニスカヒラヒラ巫女姿になって俺を誘ってきやがった。
アホかと言いたい。仮にも本物の巫女が、そんな信仰を冒涜するような行為をしても良いのかと小一時間ほど問い詰めたいくらいだった。
が、それはそれとしてくっっっっそ可愛かったので、普通にめちゃくちゃ勃起した。チラチラ見えるおパンツ様は純粋無垢な真っ白だし、ほとんど隠れていない太ももは若い少女の瑞々しさに満ちてむしゃぶりつきたいほどに美味しそう。極めつきは、肩出し衣装のおかげで腋と胸の先っちょがチラチラ見え隠れするところである。
実質性器なロリ腋はまだ百歩譲って許せるとして、桜色の突起はいけない。あれは俺を殺すのに特化した特濃遺伝子汁製造促進剤なのだ。おかげでロマンチックな初夜を迎えたかった俺のプラトニック・ラブは一瞬で瓦解して、いつものようにおバカで間抜けなドスケベ合体淫行祭りと化してしまったわけである。
まったく、マリーさんったらどこでこんなこと覚えてきたのかしら! え? 俺が寝言で言ってた? なら俺のせいか……。仕方ないので、責任取って愛し尽くすとしよう。
まあ、一言だけ添えるならば――――遮音魔法は偉大なり。
*
そんなわけで、一晩かけてマリーさんを抱き潰し、心身ともに満身創痍となった俺がようやく眠りについたと思ったわずか数時間後に、俺は再び叩き起こされることとなる。
緊急だからと断りを入れて突入してきたイリスは軍装だった。背後にはオレリアの姿もある。流石に男女のプライベート空間だから男性陣の姿は見えないが、ただごとではない様子だ。
「マリーさん。起きて、何だか緊急事態が起こったみたいだ」
肩を揺さぶって起こすと、数秒の後にマリーさんは片方だけ薄目を開けてぼんやりを俺を見返した。寝ぼけてるマリーさんも可愛いね……じゃない! 今は真面目なモードにならなければ。
「んあ? なんじゃエーベルハルト。まだ足りんのか? 流石の妾も壊れてしまうぞ…………オレリア? イリス? え? なんでじゃ?」
素っ裸のまま身を起こしたマリーさんは、頭に疑問符を浮かべて混乱している。普段は尋常でなく寝起きの良いマリーさんだが、夜戦をした翌朝は結構な確率で寝坊するのだ。今もあまり状況を呑み込めてはいない様子。仕方がないのでぱちんと両頬を軽く叩いてやると、ようやく頭が起動したのかマリーさんはキリッとした顔になって言った。
「二分待て」
「「了解」」
退室した部下二名を振り返ることなく、きびきびとした動きで身支度を整えるマリーさん。俺もまたインベントリから軍服を取り出し、瞬時に着替える。
二人揃って洗面所で顔を洗ってから部屋を飛び出せば、直立不動の姿で待機していた二人が出迎えてくれた。
「一分四五秒。流石ですね」
「伊達に五〇年も軍人をやっておらぬわ」
俺は数年前に特魔師団で散々叩き込まれたので、忘れるわけもない。将官となった今でも当時の習慣はきちんと残っているのである。
「それで、話とは?」
急いで廊下を進み、お偉いさんしか入れない会議室に入ったが早いかマリーさんが訊ねる。室内にはヴェルネリをはじめ、軍や政府の関係者が勢揃いだ。中には皇国軍人に皇国貴族の姿も見える。
昨日の結婚式とほとんどメンバーが変わっていないのが不思議な気もするが、新郎新婦の立場を鑑みればそれも至極当然の話なのかもしれない。
話が逸れたので、意識を話の内容に戻すとする。
「ヤンソン閣下。皇国中央軍の密偵が、西方海域にて不審な動きを察知しました。————デルラント王国に大規模な軍事行動の兆しあり、です」
西方海域。ノルド首長国のあるノルド半島と、我らがハイラント皇国の間に挟まれた海峡のことだろう。その海域でデルラント王国が不穏な兆候を見せた。間違いなく、このエルフ領における進駐作戦が影響している。
「連中、公国連邦に呼応してきおったか」
「そのようです。……ですが、気がかりな点もあります」
皇国軍の軍装に身を包んだ恰幅の良い中年(参謀本部の中将閣下だ。階級はマリーさんと同格だが、経験や職責という意味ではマリーさんのほうが格上になる)が、眉間に皺を寄せながら懸念を口にする。
「ファーレンハイト少将率いる特殊作戦群とアルフヘイム解放戦線による獅子奮迅の活躍の甲斐あって、公国連邦の動きは一時的にとはいえ停滞状態にあります。ゆえにデルラント王国が連邦と共鳴して動くにしても……それは今ではない」
「情報がうまく伝わっておらんのか、それとも王国側の勝手な暴走か……。いずれにしても、連携が取れておらぬということか」
「ええ、おそらくは」
それを聞いて、マリーさんは腕を組んだまま深い溜息をついた。そしてしばし黙考したのち、可愛らしい相貌を歪めて小さく呟く。
「厄介じゃの」
統率が取れているならまだ楽だ。こちらは圧倒的な兵力と技術格差にモノを言わせて、その連携を断ち切ってやればいい。それだけで敵陣営をいとも簡単に翻弄できることだろう。
だが初めから敵の連携がうまく噛み合っていないとなれば、話は別だ。連邦と王国が互いに違う方向を目指しているせいで、こちらも対応に二倍の労力をかける必要が出てきてしまう。
あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たない、だなんて話は歴史を振り返れば枚挙に暇がない。東方の連邦対策にかまけるあまり、西方が火の海になってしまうようでは困るのだ。
北西には我らが友好国にしてメイのルーツのあるノルド首長国がある。豊富な鉱山資源と高い冶金技術を持つかの国を押さえられたら、負けることはないにしても苦戦を強いられることは免れえない。
もう少し南西に目を向ければ、うちの皇帝陛下と宗教的権威という意味で並び立つ法王猊下がましますカンブリア教主国だってあるのだ。カンブリア教主国が落ちた時の政治的ショックは大きい。西方諸国はカンブリア教圏だ。法王の身柄を押さえた暁には、教主庁の後ろ盾を得たデルラント王は西方諸国の盟主として一躍名を馳せることだろう。
そうなればもう手に負えない。いくら超大国のハイラント皇国とて、一丸となった西方諸国と公国連邦を同時に相手取るのは厳しいだろう。負けはしないかもしれない。もしかしたら勝てるかもしれないだろう。
だが、その代償におびただしい量の血を流すことだけは確実だ。それが皇国人の血か、それとも敵国人の血かは関係ない。相手は魔人ではないのだ。同じ人類である。よしんば皇国が歴史的大勝利を掴みえたとして、戦後に待っているのは「敵兵を皆殺しにした極悪非道の大帝国」の
ゆえに、そうなる前に戦争の火種を摘み取る必要がある。
「少し外す」
そう言ってマリーさんは部屋の外へと向かう。祖国を復興させ、俺と結婚して幸せの絶頂にあったこのタイミングでの出来事である。彼女の小さな双肩にのしかかる重圧を思えば、一人で悩みたくなるのも無理はない。
「マリーさん」
そんな愛しの彼女に寄り添うべく「俺も付いて行こうか」と視線で問うと、予想に反してマリーさんは顔と耳を真っ赤に染めて、ずんずんとこちらににじり寄ってきた。目と鼻の先にまで肉薄した彼女は、そこで誰にも見えない角度に位置取ると、怒りと恥ずかしさと照れと焦りをごちゃ混ぜにしたような謎の感情を湛えて俺を睨み上げてくる。
「……マリーさん?」
「(お主のが垂れてきおったんじゃ! ぼけ!)」
「お、おお……」
こんな時だというのに、ゾクゾクッときた自分が情けなかった。
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