第329話 大天使マリーさんの小っちゃいお尻
「戦闘服よし、着替えよし、食料水分等は数ヶ月分以上ある。ワイヤー、テント、簡易野営ハウス、シャベル等も準備よし。包帯や消毒液、薬草なんかもバッチリだな」
インベントリ内の在庫を一つ一つ整理して、長期間の遠征に耐えうることを確認する俺。いざという時のための使い捨て転移門や、予備の通信魔道具の用意も忘れない。
「じゃあ皆。悪いけどこれから任務に就くから、しばらくは留守にするよ。いつ帰ってこれるかはわからないけど許してくれ」
「極秘任務なのよね? ハル君のことだから大丈夫とは思うけど……気を付けてね」
「副官のわたしにも言えないってことは、かなり重要な任務になる筈。頑張って。あと昇進おめでとう」
リリーとイリスが俺を心配して激励してくれたのでハグでお礼をしていると、ゴソゴソと何やら準備していたメイが俺に転移門のような機械を渡してきた。
「ハル殿、これを持っていってください」
「これは?」
「転移門の理論を応用した遠隔輸送ゲートであります。何か入り用の際は、連絡を入れてくれたらすぐに作って送るでありますよ」
「これは凄く助かるな。使う機会が無いのが一番とはいえ、備えあれば憂いなしだ。ありがとな、メイ」
「いえいえ、私なりにできることを考えただけであります」
そう言って照れるメイ。俺は彼女にもハグで愛情と感謝を伝えておく。メイもまた俺の背中にそっと手を回して抱き返してきた。
それにしても俺が任務でしばらく留守にするって言ったのは昨日のことだというのに、もうこんなものを作ってしまうなんて相変わらず凄い奴だ。こうやって抱き締めていると、この小柄な身体のどこにそんな凄い可能性が秘められているのか不思議で仕方がない。
「学院の授業、溜まるとヤバいんだけどなぁ……」
「二、三週間くらいなら私がノート取っといてあげるわよ」
「私も被っている授業なら後で教えてあげるであります」
「もしかしたらそれが一番助かるかもしれないな」
メイ先生にかかれば、この学院でわからない授業なんてなくなるに違いない。リリーのノートもかなり見やすくて綺麗だし、その二つが合わされば数週間の欠席なんてまったく問題にならないかもしれないな。
「わたしは去年とってた授業の過去問、見せてあげるね」
学年が一つ上で直接手助けはできないイリスがそう申し出てくれたので、感謝の意を示しておく。そうこうしているうちにいつの間にか集合の時間が近づいてきた。
さて、そろそろ出発しないとな。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「武運長久を祈る」
「早めのお帰りをお待ちしているであります」
三人の見送りを受けた俺はファーレンハイト家皇都邸を後にして軍務省へと向かう。そこでマリーさんと合流した後、俺達はエルフ族自治領へと向かうのだ。
「あっ、虫除け買ってくるの忘れたな」
エルフの森というくらいだから、さぞかし虫や小動物も多いことだろう。噂を聞く限りでは密林ではないそうなので、それだけが救いだな。
「早く行かないとマリーさんに怒られちゃうや」
集合時間まで残り少ない。軍人たるもの、任務において遅刻など絶対にあってはならないのだ。
✳︎
「うむ、時間ぴったりじゃな。皇国軍人たるもの、やはりそうではなくてはならんの」
「はあ、はぁ……間に合って何よりだよ」
皇国人は、五分前行動を好まない。かといって遅刻するというわけでもない。指定された時間ジャストに到着するよう、計画的な行動をとることが好まれるのだ。
とはいっても道の混み具合や距離の見積もり間違いなんかもあるので、大抵の人は現地入りしてから近場で時間を潰すらしい。俺は遅れそうなら最悪『飛翼』で空を飛んでしまえばそれでいいので、わざわざ時間よりも前に行くことはあまりしないが。
「ねえ、マリーさん」
「なんじゃ?」
「虫除け薬って持ってたりしない?」
「もちろん持っておるぞ。妾をどこ出身と思っておるんじゃ」
そう言って腰のポーチ型インベントリ(しばらく前に俺がプレゼントしたものだ。愛用してくれているようで何よりである)から虫除け効果のある塗り薬を取り出して見せてくれるマリーさん。かなり容量はあるようなので、これなら俺が追加で買わなくてもいいだろう。流石はエルフ領出身だな。
「エルフの森はハイトブルクから見れば南方にあるが、緯度自体は皇都とさほど変わらん。南国の密林とは違うからの、そこまで心配せんでも良いぞ」
「それを聞いて安心したよ。いくらSランクとはいっても、虫はいつまで経っても慣れないからね」
「お主、本当に軍人か……?」
呆れたように呟くマリーさん。彼女は普段から魔の森という大自然の中で生活しているので、そのへんはあまり気にならないのだろう。俺は修行の際に野山を駆け回っていたとはいえ、所詮は都会っ子だ。これからも一生虫に慣れることはないだろうな。
「さて、では行くかの」
「うん」
そう言って背中から『飛翼』を展開する俺達。そう、実はマリーさんもこの前ようやく飛行魔法を会得したのだ。二対四枚の白い魔力の翼を背中から展開してフワフワと浮かぶマリーさんの姿は、白いお肌に銀髪という見た目も相まってまさに大天使のようだ。
「まだいまいち慣れぬが、これも良い機会じゃな。長距離飛行の練習にさせてもらうぞえ」
「お付き合いしますよ、お師匠様」
「うむ、良きに計らえ」
陸路ではかなり時間の掛かる距離も、空を飛べば一瞬である。皇国は広いといっても、今日中にはエルフ族自治領に入れるに違いない。
「忘れてはならんが、これは極秘任務じゃ。くれぐれもスパイ共に行き先を捕捉されんよう、高高度飛行で行くぞ」
「了解だよ」
グン、とその場で舞い上がるマリーさん。不特定多数の人間に下から覗き込まれないよう、今日はズボンを穿いているみたいだが、そんなズボン姿も可愛らしい。
「小っちゃいお尻」
「ぬあぁっ!? エーベルハルトッ、お主、馬鹿か!?」
「しまった、つい本能が!」
手に残る柔らかく温かい感触を思い出しながら、幸せな気分に浸る俺。マリーさんは顔を真っ赤にして俺の背後を取るべく急旋回を行う。
「お主だけ触るのはズルいと思うんじゃが!」
「お尻タッチ合戦だね。いいよ、受けて立つ! 空の上では俺のほうが上だってことを見せつけてやろうじゃん」
「妾とて、弟子に負けるわけにはいかんのじゃ! エーベルハルトのお尻ぃいい!」
「うおおおおっ!」
真剣な任務である筈が、馬鹿な弟子と師匠の二人組はそんな感じで遊びながら空へと駆け上がっていく。そんな二人の超人の様子を下から見ていた軍務省の軍人達は、呆れたような尊敬したような何とも言えない不思議な表情になっていたとかいないとかいう話を数ヶ月後に風の噂で耳にする俺だが、この時の俺はそんなことなど知る由もないのであった。
あ、それとマリーさんのお尻はしっかり楽しませてもらいました。めちゃくちゃ柔らかいね!
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