第324話 ウェディング・イリス
数日後。雲一つない快晴の日、俺の姿はハイトブルクの社院にあった。今、俺は珍しく貴族としての正装に身を包んでいる。
そう、今日は俺とイリスの結婚式だ。
「今日がわたしの人生で一番幸せな日かもしれない」
そう言って頬を僅かに染め、俺を見つめてくるイリス。薄く化粧をしていつもよりも大人びて見える彼女が、最高に魅力的だ。
「身分的にわたしのほうが先になるのが、メイルに少し申し訳ない気がするけど」
「そこはメイの奴もちゃんと理解してたし、仕方ないさ」
イリスの所属する身分階級である士族とは、貴族の血筋に連なる平民の総称だ。大まかな括りではメイと同じ平民だが、実態は大きく異なる。有力な士族になってくると、下級貴族くらいなら優に凌ぐ軍事力・発言力・経済力を持つほどだ。
没落士族とはいえ今回の結婚でファーレンハイト家との縁ができたシュタインフェルト家は、皇国でも指折りの大士族へと成長していくに違いない。
「子供はいっぱい欲しい」
「大変だと思うぞ」
「それでもいい。ハルトとの子供なら、他の何よりも嬉しいから」
「そうか。じゃあ、卒業したらたくさん家族を作ろうな」
「うん」
だが、中退だけはいけないよ。士族としての面子があるからね! 特にイリスは成績面に多少の不安があるから、そのへんはしっかり注意して新婚生活にうつつを抜かさないようにしないとな!
「怪しいかも……」
「まあ、それだけ俺と一緒になれることを喜んでくれるのは素直に嬉しいんだけどね」
相変わらず表情筋が死んでいるイリスだが、これでも昔より随分と表情豊かになってきているのだ。出会ったばかりの頃よりもずっと笑顔が晴れやかに見える。
「今日だけはわたしが世界の主役」
「俺も主役だぞ」
「そうだった。ふふ」
「はは」
まるで映画のワンシーンのような会話を交わして、手と手を絡め合う俺達。
「――――それでは誓いのキスを」
その様子を温かく見守っていた神官……俺の叔父が、タイミングを見計らってそう促してくる。
「幸せにするよ」
「わたしも、ハルトを幸せにしてあげるね」
社院の鐘が鳴り、幻想的な音色がハイトブルクの街に響き渡る。音に驚いた白鳩が空へと羽ばたいていく。
今日、俺とイリスは結婚した。
✳︎
「あっ、これはやばい。妊娠しちゃう」
「そのセリフはずるいって――――ぅっ!」
その日の夜……を待たずに夕方。
式を終え、披露宴もお開きになった俺達はといえば、二人っきりで風呂に入り、その後は優雅にディナーを楽しむつもりだった。
だが風呂に入っている途中で
結局、ディナーを待たずして俺達はイリスの部屋に直行し、そのままベッドにダイブ。即結合して今に至る。
「避妊魔法を使ってるから妊娠はしないぞ」
「うん、頭ではわかってる。でもこれは本能。本能には抗えない」
「卒業したらすぐ子供できるから、もうあと三年待ってくれ……」
「待ち遠し過ぎる」
事後のピロートークを交わす俺達。特魔師団では俺を支える優秀な相棒の彼女だが、夜の戦いでは俺にやられっぱなしの雑魚イリスである。流石にメイほどクソ雑魚ではないが、まあ所詮は雑魚だ。想いを伝え合ってから幾度となく夜戦を繰り返しているが、今のところ俺の勝率は八〇%超である。
ちなみに対リリー戦では七〇%台後半、メイに関しては一〇〇%の勝率である。あいつ弱すぎ!
「とりあえず、もう一発しよっか」
「誘い方なんとかならない?」
「ハルトがエッチすぎるのがいけない。興奮を抑えられない」
「それは俺のセリフだ!」
がばっ、と起き上がってイリスを組み伏せ、そのまま第nラウンドへと突入する俺達。
「ああっ♡ ハルト、すき、好きっ」
耳元で嬌声を上げながら下半身でがっしりと俺をホールドしてくるイリス。そんな切ない美声で愛を囁かれたら、俺の耳が妊娠してしまいそうだ。
「はぅっ、んっ、愛してるよ、ハルトっ」
「俺も、愛してるっ、ぞ!」
結局、ディナーの席に着いたのはだいぶ夜更けになってからだった。使用人達が若干疲れた顔をしていたのには、なんというか非常に申し訳なさを感じる。今度ボーナス弾んどくか、と内心で決めた俺なのであった。
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