第293話 イリスとショッピングデート
イリスに告白をした次の日のこと。俺とイリスの姿は皇都中心部に位置する繁華街にあった。数々の飲食店や雑貨屋、服飾店、宝石店などが立ち並ぶ繁華街は、何度来ても相当な賑わいを見せていて見る人を飽きさせない。人口一〇〇万を擁する世界一の大都市なだけあって、繁華街の規模も相当に大きいから店の種類も幅も実に様々だ。
「ハルト、あそこ行ってみたい」
「防具屋か。どうしてまた?」
デートに防具屋をチョイスするのは俺もイリスも戦闘を生業とする特魔師団員だからまあ良いとして、何ゆえ防具屋なのだろうか。俺は自前の『
「特魔師団の制服は防刃・耐魔性に富んでいるけど、私服は違う。普段の生活でいつトラブルに巻き込まれるかもわからないから、一応の備えが欲しいと思って」
「なるほどね」
イリスの場合は俺と違って
魔法士たるもの、命を左右する『防盾』の展開速度はとにかく早くあることが求められる。当たり前だが防御が間に合わなければ怪我を負ってしまうし、最悪の場合は命を落とすからだ。そのあたりは軍の魔法士なら常日頃から散々叩き込まれているわけだが、エリート魔法士集団である特魔師団では特にそこは徹底している。
だからイリスも別に差し迫った危険があるわけではない(そもそもそんなに危険なら、これだけ多くの人間が街中を悠々と歩いてなどいられない)のだが……まあ、心構えとしてはたいへん良いことだ。
「どうせならファッショナブルなのがあるといいな」
「うん。特魔師団の制服も可愛いし、似たようなのがあると嬉しい」
実は特魔師団をはじめとした皇国軍の制服は、「デザインセンスが良い」などと一般市民からはそれなりに好評だったりする。思い返してみれば前世の日本でも有名アイドルグループの衣装が軍服を意識したデザインで人気を博していたし、ああいう制服系の服は見る人が見れば結構魅力的に映るんだろうな。
ちなみに魔法学院の制服もどことなく軍服を意識した意匠になっていて、それがまた魔法学院の人気を上げる一因になっていたりする。他にも騎士学院は詰襟、文理学院はブレザー、神聖学院は神官服を意識した制服と、四大学院の制服はどれもなかなかに凝ったデザインなのだ。姉のノエルが文理学院に通っているのでたまに家でブレザー姿の彼女を見る機会があるのだが、身内贔屓を差し引いても可愛く見えてしまったのはノエルには絶対に内緒だ。万が一ポロッとこぼそうものなら、その後ひたすらに自慢されまくる未来しか見えないからな!
……などとどうでも良いことを考えながら、俺達は防具屋「エリザベート防具店」へと入店する。
「いらっしゃ〜い」
中に入ると、店員の間延びした緩い声が俺達を出迎えた。若い女の人だ。店内に他の客はいないのか、椅子に座ってのんびりしている。
「品揃えが豊富。これは期待できそう」
「防具っていうくらいだからてっきり金属とか革の鎧ばっかりだと思ってたけど、意外と普通の服とかインナー類もあるんだな」
「求めていた防刃・耐魔素材の洋服もあるみたい」
魔力を豊富に含んだ水や肥料、餌を与えることで強度を増した、特殊な綿や絹などを織り込んで作った洋服も色々あるみたいだ。普段ジェットが着ているような黒のインナー風のものが中心だが、中には普通のお洒落な洋服と変わらないものもあるみたいだ。
「見て、これ。可愛い」
「ほー、チュニックか。良いデザインしてるね。これで特殊繊維なのか。全然そうは見えないなぁ」
ヒラヒラとした白いチュニックを胸元に持ってきて見せてくるイリス。その様子を見ていた店員のお姉さんがこちらに近寄ってきて、声を掛けてきた。
「気に入ったなら試着してみるかい?」
「いいんですか?」
「もちろん。他には何か気になるものはあるかい?」
「じゃあ……これとこれを」
「はいよ〜」
何着か洋服を持って試着室へと消えていくイリス。店の種類は防具店とやや定番からは外れているが、やっていることは完全にショッピングデートだ。なんだか凄く楽しいな。自分が買い物をしているわけではないとはいえ、それと同じくらいには服選びも楽しいものだ。
「お兄さんも良かったら何着か試着してみたらどうだい?」
「俺ですか?」
「うん。見たところお兄さんも軍人さんなんでしょ? だったらこういうのとかオススメだよ〜」
そう言ってイリスのと同じく特殊繊維でできたワイシャツやチノパン、Tシャツなんかを差し出してくる店員さん。それにしても……驚いたな。
「よく俺が軍人だってわかりましたね」
防具屋に来ている時点で戦闘を生業としていることくらいは予想して然るべきであるが、それでも一発で軍人だと当てるのはなかなか難しいと思うんだよな。戦闘職なら他にも傭兵とか冒険者とか色々あるのに、どうして軍人だとわかったんだろうか。
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