第292話 何人に増えるのかしらね?
「それにしても、まさかこの歳で結婚するとは思わなかったけどな」
国際情勢が悪化しているという事情もあるとはいえ、貴族であることを加味しても随分と早いほうなのではなかろうか。
「そうね。私も学院を卒業してからだと思ってたわ」
「私は……そもそも結婚できるって思ってなかったでありますから……。ハル殿以外と結婚する気もなかったですし……」
「わたしもそう。ハルトとは一生今みたいな関係が続くんだと思っていた。……だから本当に嬉しい。愛してるよ、ハルト」
リリーは許婚だからそのあたりの心配はなかったみたいだが、他の二人のセリフが本当に悲しみに満ちていてなんだか申し訳なく思えてくる。……そうだよなぁ。イリスも没落士族とはいうが、実態はほぼ平民みたいなものだからな。価値観はどちらかっていうとリリーよりもメイのほうが近いのか。
「イリス、俺もだよ。……リリーも、メイも俺を選んでくれてありがとう」
「ハル殿だから好きなんであります」
「私もそうよ。……それにしてもなんだかハル君、モテモテね。ハル君を狙ってる女の子は他にもまだまだいるだろうし、これからいったい何人に増えるのかしらね?」
「そこまで増やすつもりはないぞ。増えすぎても皆を愛せなくなっちゃうだろうし」
正妻の許可もあることだし、家の繁栄的な意味でもお世継ぎは多いに越したことはない。まだもう何人かは増えそうな予感はしている。
「でも正妻の立場は絶対に譲らないわよ」
「とはいえ、公爵令嬢を押し退けて正妻になれるのなんて、それこそ皇族くらいしかいないだろ」
ちなみに皇族で俺と接点のある若い女性は一人もいないので、その線はなさそうだ。可愛いと学院内でも評判のフリードリヒ殿下も、実は女の子――――なんてことはなく、ちゃんと男の子である。俺も彼もヘテロセクシャルを自認しているので、ここで何かしらのフラグが発生するということもない。
というかそもそも、そんなことをしたら皇族的に大スキャンダルである。俺個人としては前世の影響もあって別に好きにしたら良いと思うのだが、やはり血を残すことが義務付けられている王侯貴族の間ではそういった恋愛面のあれこれは未だに保守的なのだった。
「ここ最近で一番怪しいのだと、ユリアーネ殿とかですかね」
「あの子は間違いなくハル君のこと、意識してるわね」
「部会が同じでありますから、そりゃもう恋に落ちる機会には事欠かないでしょうしね」
ユリアーネは、うん。まあ、多分……間違いなく俺のこと好きだよね……。この前もポロッと「俺と結婚したい」的なこと言っていたし……。
「二年だと、ヒルデガルトも怪しいと思う」
「アンガーミュラー先輩? ……そういえばこの間、ハル君からあの人の石鹸の匂いがしていたような……」
「だ、だからあれは学院の浴場に入った時に石鹸を借りたんだって! やましいことは何もして……な……」
あー……そういえば、あの時ヒルデにキスされたんだったな……。
「……ハル君?」
「俺からは何もしていない」
「本当?」
嘘だ。めちゃくちゃ乳を揉んだ。ああ見えてヒルデの奴、意外とあるのだ。まああの時はお互いに前日の夜遅くまで呑んでいたから、そういうこともあるだろうってことでお許し願えませんかね……。
「あと師匠もかなり要注意」
「お師匠さま! そうよ、あの人がハル君と話している時の目、絶対に弟子に向ける目じゃないわよ」
「二〇〇も歳下なのに、割と本気で入れ込んでいそう」
「本人は自覚していらっしゃらないんでしょうけど、明らかに他の弟子との扱いが違うわよね。これはもう事案だわ」
嘘だろマリーさん⁉︎ 確かに俺達は仲良しだし、マリーさん、銀髪のじゃロリハイエルフで超可愛いけど……。俺達一応師弟関係だよ⁉︎
「あの子はどうですか? えっと、名前が……猫系獣人の子であります」
「ナディア? あー、あの子はあんまり色恋沙汰とは縁がなさそうな印象があったけど……でも確か今、ハル君が新しく監督に就任した従魔愛好会で一緒なのよね? うーん、怪しいわね」
「どうせすぐ落ちる」
「多分、イリス殿の言う通りになると思うであります」
まったく信頼のない俺である。というか俺から口説いた奴なんて、それこそここにいる三人くらいしかいないからな⁉︎ 確かに転生してからこの方、俺はモテ男になったかもしれんが、それを悪用して女の子を傷つけるような最低男になった覚えはこれっぽっちもないぞ!
「でも今は私達だけを見ていてほしいであります」
「もっと言うなら、明日からしばらくはわたしだけを見ていてほしい」
そう言って俺の右腕にメイが、左腕にイリスが絡み付いてくる。リリーもそれに倣って背中から抱き着いてきた。三人の柔らかい感触と温かい体温が俺を包み込む。
「……皆、ちゃんと幸せにするよ」
「期待してる」
「私はこうして一緒にいられるだけで、もう充分幸せであります」
「これからはもっと幸せにしてくれるのよね?」
そう口々に言ってくれる三人の顔を順に見回して、俺は頷いて言う。
「ああ、もちろんだよ」
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