第273話 順位発表

 試験が終了して二日後。教師陣の採点作業も終わり、教務課から試験の結果が発表される日が来た。この魔法学院では期待を裏切らず、上位五〇名分の順位が構内の掲示板に貼り出される。毎回これを楽しみにしている人もいれば、緊張でいてもたってもいられない人もいるのは、どこの世界でも同じらしかった。


「せーせきはっぴょ〜! さーて、俺は何位かな?」

「ハル君、聞いたわよ。実技試験でまたなんか凄いことしたんでしょ? 轟音が屋内演習場にまで響いてきてたわよ」

「そうなのか。まあ新技の試し撃ちをちょっとね」

「廃棄処分になって研究開発室うちに回されてきた的を後から見ましたけど、あれはどころじゃないですよ。ミスリルとアダマンタイトの強化魔合金があんな惨状になるだなんて、いったい何をしたらそうなるんでありますか?」

「うーん、メイには後で仕組みを説明するよ。新しい武器の開発にでも活かしてくれ」

「楽しみにしてるであります」


 一年生ながらに文部委員会・研究開発室の主任技術者に推薦された(まだ一年生だからという理由で辞退したらしいが)というメイのことだ。いずれまた新発明で、俺の新技を再現してくれることだろう。


「お、もう貼り出されてるみたいだな」


 廊下にある掲示板には、既にたくさんの学生達が集まってきていた。人だかりからは歓喜の猿叫やら失意の悲鳴やらが次々に聞こえてくる。ガッツポーズを取る者、泣き出す者、自慢げに背筋を伸ばす者、がっくりと肩を落とす者と、実に三者三様だ。総じて、掲示板の周囲は騒がしい。

 そんなところへ俺達がやってきた瞬間、群衆は更に騒々しさを増した。


「な、なんだよ」

「大方、首席の登場ってところじゃないかしら?」

「ネタバレかよ!」


 まああれだけ実技試験で無双したら、首席以外はありえないよなぁ……と冷静に自分を顧みる俺。座学でも上位入りは間違いないとメイのお墨付きを貰っていたくらいだし、遠距離魔法以外の実技試験でもはっちゃけた俺である。普通に考えたらまず首席だろう。


「あ、ハル殿の名前が」

「一番上じゃん」

「良かったじゃない。勉強の成果があったわね」

「二人に助けられたおかげだよ」


 見れば、「総合」ランキングの一番上には「エーベルハルト・カールハインツ・フォン・フレンスブルク・ファーレンハイト」の名前が。そのすぐ下にはやはりというべきか、エレオノーラの名前がある。


「フーバー家の才女、か。侮れないわね」

「伊達に俺のライバルを自称してないよな」


 一つ学年が違えば、四年間ずっと首席だとしてもおかしくはない実力の持ち主だ。特に粒揃いと言われる今年の一年生の代においてすら、入試に引き続き一桁をキープしているというのは並大抵のことではない。


「三位は……やっぱり殿下か!」


 俺と同じ生徒会役員会議のメンバーにして、世界に冠たる我がハイラント皇国の第三皇子、フリードリヒ殿下。誠に光栄なことに、俺は殿下の学友というありがたい立場を拝命している。いくつか被っている授業の時にはご一緒させていただくこともあるが、将来の皇国を率いる御方として相応しい実力の持ち主であることは俺が保証しよう。今この場にはいらっしゃらないみたいだが、どうせ生徒会室で顔を合わせることになるだろうし、その時にでも語らうとするかな。


「リリーは総合四位か。一桁キープ、成功だな」

「私、実技は座学ほど得意じゃないから不安だったけど……むしろ座学よりも良い点が取れてたみたいね。良かったわ」

「座学単体だと俺より上みたいだな。……あとやっぱりメイが一位か。なんだよ満点って」

「まあ、ケアレスミスさえなければ死角は無いでありますが故」


 知ってはいたが、なんともまあ恐ろしい頭脳の持ち主である。そして興味深いことといえば……


「ユリアーネも相当健闘してるじゃないか」


 入試の座学では学年次席だった彼女だが、なんと今回も二位の椅子を守ることに成功したらしい。しかも満点でこそないが、三位以下を大きく突き放しての学年次席だ。全体で見れば、メイとユリアーネが頭一つ二つ飛び抜けていることになる。


「あ、エーベルハルトくん!」


 そんなことを思っていると、群衆の端のほうにいたらしいユリアーネがトコトコと駆け寄ってくる……途中で転けそうになったので、『縮地』で一気に距離を詰めて支えてやる。


「エーベルハルトくん……」

「大丈夫か」

「う、うん!」


 図らずも密着した体勢で見上げてくるユリアーネの頬は、心なしか赤い。体温も若干高いようだ。熱かな?


「まーたハル君が女たらしな行動を……」

「あれは惚れること間違いなしでありますね。私もよく転けそうになるからわかるんであります……」

「メイル、何気にシンパシー感じてない?」

「まあ同じ頭脳系としてキャラクターが被ってますからね。理系と文系の違いはありますけど」


 背後からなんかヒロインズの呆れたような会話が聞こえてくるが、意図的に無視を決め込む。まあ俺は鈍感系主人公ではないので、ユリアーネが俺のことを少なからず異性として意識している……というかぶっちゃけ好きなんだろうなぁということは、流石にもう把握している。だが、まだそこまで大きなイベントを経ているわけでもないし、向こうから告白をされてもいないし、何よりまずはイリスにプロポーズをするのが誠意ってもんだ。

 だから俺は、しばらくの間はユリアーネとの間に愛を育むつもりはない。……ないけど、何かしらの突発的なイベントが発生して、結果として愛が芽生えちゃう場合は仕方がないよね、と予防線を張っておくとする。


「あ、あのっ。エーベルハルトくん、今回も首席なんですね! 私、感動しちゃいました」

「ユリアーネこそ、座学次席なんて凄いじゃないか。俺の場合は部室でユリアーネに教えてもらったところが試験に出たからってのもあるし、嬉しいのはこっちも同じだよ。そうだな、今度もまた一緒に勉強会しようか」

「も、もちろんです!」


 掲示板の周りの男子生徒諸君からの突き刺すような視線を感じながら(ユリアーネは引っ込み思案の大人しい子だが、平民男子生徒からの人気は非常に高いのだ)、そんな提案をする俺。いい加減離れないとそろそろいたたまれないのだが、いかんせんユリアーネが俺を掴んで離してくれないのだ。うーん、困ったなあ(棒)!



     ✳︎



試験結果


【総合】

一位 エーベルハルト  四七六点

二位 エレオノーラ   四六五点

三位 フリードリヒ殿下 四六〇点

四位 リリー      四五八点

五位 ハンス      四四一点


【実技】二五〇点換算

一位 エーベルハルト  二五〇点

二位 エレオノーラ   二四五点

三位 リリー      二三〇点

四位 フリードリヒ殿下 二二七点

五位 ハンス      二二一点


【座学】二五〇点換算

一位 メイル      二五〇点

二位 ユリアーネ    二四六点

三位 フリードリヒ殿下 二三三点

四位 リリー      二二八点

五位 エーベルハルト  二二六点

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