第271話 期末試験 実技

「うーん、なんとか秀の評価は得られそうだな」

「私も自分で見直した感じ、問題はなさそうね」


 試験終了後、俺とリリーは席が近かったのでそんなことを話していると、我らの打ち倒すべき天才が教室前方からやってきた。


「答え合わせしましょう」

「そうするか。この最後の問題だけちょっとよくわかんなかったんだよな」

「私も……」


 解答用紙は回収されてしまったので、問題用紙を突き合わせて各々の解答を見比べる俺達。メイはというと、自分の問題用紙を見せてからサラサラと解説をし出したのだった。


「ここはこう解くんであります」

「……へえ? ……ふうん、あっ! なるほど! そういうことか」

「ここでこの定理を使うのね! ……あー、復習が足りなかったかしら」

「ここは捨て問でありますね。教授からの挑戦状みたいなもんであります」

「てかこれ、間違いなくメイ向けの問題だろ。今思い出したけど、これに似た論文が査読会に提出されたって先月の学内報に載ってたぞ」

「それ、私も見たわ。結局、新しい発見だってことで国から予算が下りてなかったかしら」

「下りてたと思う。レベッカさんが言ってたから」


 授業中、応用問題を出して学生が答えられなかった時、困った先生がメイを指名するというのはだいたいどの授業でも共通して見られる魔法学院の光景である。どうやらメイの存在は教授の作成する試験問題にすら影響を及ぼすらしかった。


「お二人とも九割以上取れてるみたいですね」

「よかった〜。これで平常点も合わせたら秀の評価は確定だな」

「授業のレベル的に不安なのはこれくらいだったから、あとはなんとかなりそうね」


 どうやらすべての科目で無事に最高評価を貰えそうな俺達である。これなら学年一桁は堅いに違いない。入試首席の面目を保つことに無事成功したようだ。


「不安だった座学が終わったから、次の実技は安心ね」

「そうだな」

「あれ、ハル殿って実技系科目は全単位取得扱いで受講を免除されてましたよね。試験は受けるんでありますか?」


 もっともな疑問を抱いたメイがそう訊ねてくるので、少し前に教務課から言われたことを話してやることにする。


「そうなんだよ。別に試験は受けなくても進級要件には影響しないらしいんだけど、それだと成績の判定が出ないんだってさ。だから順位が欲しいなら必修科目の試験だけは受験してくれって言われたんだ」

「なるほど、納得であります」


 必修の実技系科目なら、いずれも満点の自信がある。大いに点数を稼がせてもらうとしよう。



     ✳︎



「それでは、遠距離攻撃魔法の実技試験を開始する。目標の的を狙って全部で三回、魔法を使用してもらう。発動速度、威力、命中率の三点が評価対象だ。三回の平均点が自分の点数になる。質問のある者は?」


 実技の先生が試験の概要を説明しているが、まあ特に変わったルールは無いようだし、質問のある学生もいないようだ。俺もこれなら何の問題もなく余裕で満点を狙えそうである。


「では出席番号順に始める」


 この試験会場にいるのは全部で三〇名ほど。すべての学生が一度に同じ試験を受けるのは非効率なので、何組かに分かれてローテーションで試験が行われるみたいだ。俺がいるグループには、あいにくと仲の良い知り合いはいない。何度か話をしたことのある人間はいるが、まあその程度だ。友人と呼べるほどではない。


「では次。ファーレンハイト学生」

「はい」


 どうやら俺の番が来たようだ。現役特魔師団員、そして皇国騎士としての実力を見せつけてやろうではないか。


「一年生の試験にしては随分と的が遠いな」


 指定位置から的までの距離は、五〇メートルくらいはあるだろうか。これが銃なら、訓練を積んだ人間でないと碌に擦りもしない距離だ。魔力操作の必要な魔法なら余計に難しいかもしれない。ちなみに二年生以上になると一〇〇メートルに伸びるそうだ。

 これが四大学院として世間に名を馳せる魔法学院のレベルか。……確かに留年する人間がゴロゴロ出てくるのもわからなくはない難易度である。

 だが、それも学生レベルならの話だ。あいにくと俺はそんな領域なんてとっくの昔に通り過ぎている。


「……どうせなら新技での精密射撃の練習台にさせてもらおうかな」


 俺の得意な戦闘スタイルは近・中距離戦闘なので、普段はあまり遠距離攻撃はしないんだが……これも良い機会だ。別に遠距離を苦手としているわけじゃないんだ。どんな場面でも臨機応変に戦闘スタイルを変えられるのが北将武神流の強み。ゼネラリストならではの柔軟さを発揮する時が来たようだ。






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