第270話 対メイル戦線同盟
「ハル君……んっ、はぁっ、あん、ハルくぅん!」
「リリー、ああっ……リリー!」
その日の夜。リリーと大人の試験勉強(意味深)を夜通しエンジョイした俺は、若干げっそりした状態で翌朝学院に登校することになる。
明け方になってようやくリリー嬢が満足なされたらしく、辛うじて数時間ほど睡眠を確保することに成功したが、休息はあまり充分とは言い難かった。
とはいえそんな俺の健康状態など学院が知る由もなく、よしんば知っていたとしても配慮などしてくれる筈もなく、今日も今日とて地獄の期末試験は無事開催される見通しだ。
「古代魔法文字学はまだ良いとして……この体調で現代魔法学の試験は流石に不安だな……」
何度も復習して要点を整理し、メイ先生特製の予想問題を解きまくった俺に死角は無いとはいえ……睡眠不足の頭で集中力が保つか、甚だ不安だ。理不尽なことに、同じ講義を受けているリリーは夜戦(直球)に関してのみ無尽蔵の体力を発揮するらしく、今日は朝からツヤツヤと元気そうだった。
「昨晩はお楽しみでしたね」
同じく古代魔法文字学、そして現代魔法学の講義を履修していたメイが、そそそと近づいてきてボソッと耳打ちしてくる。どうやら正妻と側室の間で何やら取り決めが交わされていたらしく、昨晩は珍しく自室のベッドで寝ていたメイだ。とはいえメイの部屋は俺の部屋と隣り合わせなので、まあ普通に聞こえてたんだろうなぁと思う俺。
「そりゃあ楽しかったよ。楽しかったけどさ、試験前日にあれはねえって……」
修行の末に人並外れた体力を手に入れた俺だが、それでもやっぱり人間である以上、ある程度の睡眠は必要なのだ。これ以上は試験に支障を来すと判断して、俺に乗っかっていたリリーを押し倒し、総攻撃を敢行した本日未明の俺の判断は正しかった。清楚キャラのリリーが乱れに乱れる様子は、見ていてそれはもう実に素晴らしいものだったが……おかげでなけなしの体力は根こそぎ吹っ飛び、こうして今、絶賛体調不良と相なったわけである。
「うーん、こうなると流石に今晩はお邪魔し辛いでありますね……」
「俺そろそろ干からびちゃうよ」
若いから一日だけ休息をくれたら多分全回復するんだろうが、連日の大運動会は流石に負担だったみたいだ。豪華絢爛、酒池肉林、理想郷が如く艶やかな反面、穏やかに休ませてほしくもあるという爛れた毎日。なんともまあ贅沢な悩みである。ちなみに酒池肉林の肉に肉欲という意味はないのでこの使い方は誤用だったりする。
「ハル君ったら意味のわからない攻め方してくるのよ。そろそろ限界……って時にいきなり『
「だって一応、試験勉強って名目だったじゃないか」
「それはそうだけど……もっとムードってものが……」
「私の時なんて、いきなり新しい発明品のアイデアを囁いてきたことありますよ。それどころじゃなかったのですっかり忘れたでありますけど」
「ハル君は女心をわかってないわね」
「もっと愛を囁いてほしいであります」
なんだか散々な言われようだが、これに関しては完全に俺が悪いので弁明のしようもない。仕方がないじゃないか、ロマンあるアイデアを思いついちゃったもんは言いたくなるのが男の
「あっ、そろそろ試験の時間ね。ハル君、勝負しましょ」
「よしきた」
「夜と違ってこっちでは負けないわよ」
「おや、ここしばらくは夜戦で勝てていないくせに大きく出たな?」
タフネスこそあるリリーだが、あちらのほうは例によって弱いので最終的には俺に屈服する彼女である。
「では私もお二人に勝負を挑むであります」
「お前は絶対満点だろ! というかあっちだとクソ雑魚のくせに、夜戦で勝てないからってこんなところで面目保とうとするなよ!」
「私だって悔しいんであります! いつかハル殿を手玉に取ってやりたいのに全然勝てるビジョンが湧かなくて!」
「それはメイが弱すぎるから……」
普通の人間はそんなに弱くないと思うんだ。三擦り半は流石に無い……。
「私から見ても、メイルはちょっと早すぎるというか……もうちょっと我慢したら?」
「無理であります!」
いっそ清々しいまでの開き直りっぷりだな。頭脳に全ステータスを極振りした弊害である。まあ、そんなところも可愛いので許してあげよう。
「さて、君達そろそろ自分の席に戻ったほうがいいんじゃないか。先生が来るぞ」
「お二人とも……偏差値の暴力にひれ伏すがいいであります」
自分の弱さを散々弄られた腹いせか、偏屈な予備校生みたいなことを口走るメイ。
「ハル君、せめてメイルに嗤われないように秀の評価だけは死守するわよ」
「ああ、夜だけが俺の魅力じゃないってことを見せつけてやる」
斯くして、俺とリリーの間に対メイル戦線同盟が締結されたのであった。
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