第268話 属性魔法で模擬戦
「それじゃあ模擬戦するわよ」
「おう。リンちゃんは審判よろしくな」
「わかったー!」
昼食を済ませた俺達は、再び屋内演習場へと戻ってきていた。服も動きやすいように運動着にお着替え済み。リンちゃんには審判を任せることにする。といってもまともに判定するなんてまず無理だろうから、あくまで立場だけだな。
「いちについて、はじめー!」
可愛らしい掛け声とともに戦端が開かれる。皇帝杯での苦い経験を経て、エレオノーラはまた更に強くなっているから手は抜けない。最初から全力でいかせてもらう。
「――――『衝撃弾』、『
「――――『
ほぼノーモーションで発動できる『衝撃弾』で相手を牽制しつつ、三種類のバフ技で自身を強化。全力での戦闘時における定石となっている俺の王道パターンだ。
だが今回は思ったようには決まらなかった。牽制として放った筈の『衝撃弾』が、僅かに遅れて放たれたエレオノーラの『火炎大蛇』に呑み込まれて呆気なく雲散霧消する。牽制とはいえ、決まりさえすればそれだけで相手を戦闘不能にさせるだけの威力を込めた『衝撃弾』だったのだが、難なく攻略されてしまったな。牽制にすらならなかった。
エレオノーラの必殺技『ヘルファイア・ドラグーン』ほどではないが、無視できない威力の業火を撒き散らして大気中を突き進んでくる巨大な炎の大蛇。『白銀装甲』を貫通して俺にダメージを与えるほどの攻撃ではないが、少なからず熱と光による衝撃でこちらの集中は乱されてしまう。『纏衣』の発動は遅れざるをえない。
「そのパターンの有効性は皇帝杯で嫌というほど見せつけられたわ。対策をしてないと思った?」
そう不敵に笑うエレオノーラ。……地力では俺のほうがまず間違いなく上なんだが、こういうところが侮れない所以でもあるんだよな。
「王道ってのは強いから王道なんだけどな。まさかそれに対抗策をぶつけてくるとは……流石と言わせてもらおうか」
とはいえ、この程度で崩されるようでは「定石」とは言い難い。俺が皇帝杯でこの定石を不特定多数の前で公開したのは、「対策できるものならやってみろ」という確固たる自信があってのことだ。軽く衝撃派を放ってエレオノーラの炎を掻き消すと、俺は現在発動中の魔法を切り替えるべく新たに魔法式を記述し直す。
「――――『
これは思考を分割する数を二つにしぼる代わりに、それぞれの思考を三倍ずつ加速する『多重演算』と『意識加速』の応用技だ。
現在、俺は六倍まで思考を分割ならびに加速させることができる。それを状況に応じて上手いこと割り振ってやることで、加速か並列かのどちらか一方のみを選ぶことなく、両方の良いとこ取りができるというわけである。
これなら集中を一瞬乱されたとしても、すぐに巻き返すことが可能だ。
「――――『纏衣』」
「っ、やられた!」
エレオノーラとしては、俺の強さの大部分を占める『纏衣』の発動を阻止するのが狙いだったんだろう。実際、彼女の妨害によって俺の『纏衣』発動は遅れそうになっていた。
だが、それも俺の実力がこれまで通りならの話だ。俺はいつか相手に対策を取られる可能性を考慮して、あらかじめ「対策潰し」を用意しておいたのだった。
「俺の新しい力、試させてもらうぜ。……『水球』!」
無事に『纏衣』を展開できたおかげで、ここからは有利に戦況を運べる筈だ。せっかくなのでその余裕を活かして、属性魔法を戦術に組み込ませていただくとする。
「さっきこそ不覚を取ったけど……甘いわ! その程度――――『
――――ジュッ……
「やっぱり駄目か。流石だな」
俺の放った『水球』は水属性なだけあって、一般的には火属性魔法に対して優位性を発揮する。が、エレオノーラの『炎防壁』は初級魔法に過ぎない俺の『水球』なぞ、いとも簡単に蒸発させてしまったのだった。
「だが、岩石なら防げまい。『石礫』!」
続いて、同じく火属性に比較的強い土属性の魔法をお見舞いする。レパートリーがまだ初級魔法しかないので、必然的に攻撃がしょぼくなりがちなのはご愛嬌だ。
「『一枚岩』!」
「岩の壁⁉︎ ……そういやエレオノーラの奴、土属性も使えたんだったな。やっぱり一筋縄じゃいかねえ」
初級魔法とはいっても、発動までの時間や射出速度は『衝撃弾』並みだ。初級なのはあくまでも技の規模だけ。使っている人間がSランクなんだから、魔法もまた初級の範囲に収まる筈がないのだ。
だがエレオノーラはそれらを難なく迎撃した。それも火属性が苦手としている水ならびに土属性の魔法を、だ。
「いいじゃないか。面白くなってきた!」
「次はこっちからいくわよ。……喰らいなさい! 『爆撃炎弾』っ!」
エレオノーラが空中に魔法陣を投影したかと思うと、次の瞬間、野球ボール大の火球が大量に放たれる。
――――ズドドドドドド……ッ!
「飽和攻撃は俺には効かないぞ。『
エレオノーラの放った火球群はまさしく炎の嵐とでも呼ぶべき凄まじいものではあったが、俺はそのすべてを全自動追尾型の迎撃魔法で相殺する。
「続いて……『水球連弾』、『石礫連弾』! 苦手属性の波状攻撃だ!」
属性魔法を使えるようになったばかりの俺には、まだ初級魔法くらいしか使えるものはない。だが俺の武器はなんといってもその人外とでも形容すべき膨大な魔力量だ。ならばそれを活かさない手はない。魔力に物を言わせた物量作戦で押し切る!
「下手な鉄砲は数撃ちゃ当たる……だが上手い鉄砲は全弾命中するんだぜ」
思考を分割した上で加速している俺には、戦況を把握しながらにして、不慣れな属性魔法での精密射撃などお茶の子さいさいだ。慌てて防御態勢を取るエレオノーラめがけ、俺は『纏衣』と『縮地』の掛け合わせによる超スピードで肉薄する。
「チェックメイトだ」
エレオノーラの首元に『衝撃弾』を突きつけて宣言すると、彼女は両手を上げて降参した。
「……負けたわ。属性魔法を覚えたばっかりだというのに、随分とやるわね」
「まあイメージトレーニングだけは積んできたからな」
属性魔法が使えないなりに、もし使えるならこう戦うのになぁ……などと悲しい妄想を繰り返していた俺である。自分で言っていて可哀想に思えてきたな……。
「初級とはいえ、苦手属性ばっかり喰らうとやり辛いだろ?」
「ええ。私も何か対策を立てないといけないわ」
「修行付き合うぞ」
「助かるわ。私も火と土属性ならアドバイスしてあげられるわよ」
「それはありがたいな。俺は他の人に比べて何年も出遅れてるからな。属性に特有の戦い方とかも教えてくれると助かるよ」
「そこは任せなさい! 私を誰だと思ってるの?」
「フーバー辺境伯家の才女様だろ」
えへん、と胸を反らして自信満々に言うエレオノーラ。属性魔法は組み合わせ次第では、エレオノーラのように柔軟な戦い方だって可能になる。
今回、俺は四大属性のすべてを(エレメンタル・バングルが必要だとはいえ)使えるようになったのだから、これからしばらくの間はエレオノーラをはじめとした学内学外の友人達を頼って様々な属性魔法の使い方を学ぼうと思うのだった。
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