大晦日・書籍化記念SS 波瀾万丈なお泊り会①(※ 割と直球で露骨なスケベに注意)
これは、俺達が学院に入学する直前の話。合格発表の結果、無事に入学試験を突破し、いよいよあと数日で入学式という日のことだった。
俺とリリー、メイの三人の合格祝いに、一つ上の先輩であるイリスも交えて、いつだったか特魔師団の合格祝いにイリスと一緒に行ったレストランで祝勝会をしていたら、ふとリリーがメイに向かってこんなことを訊ねたのだ。
「そういえばメイル。あんた、どこに住むかはもう決まったの?」
俺は言わずもがな、ファーレンハイト家の皇都邸宅から学院に通うし、リリーもベルンシュタイン公爵家の皇都邸宅に引っ越し済みである。イリスも特魔師団入団時にかつてのボロアパートを引き払って入居したお高めのワンルームマンションに住んでいるし、あと住むところが決まっていないのはメイだけだ————そう、リリーは思ったのだろう。
その素朴な疑問はもっともである。もっともなのだが、俺は久しく流していなかった冷汗が滝のように背中を流れ落ちるのを感じていた。
「ハルト、どうしたの? 気分が優れない?」
さぞ
「い、いや。何でもないよ。ダイジョウブ」
「そうは見えないけど……」
頼む。いずれ俺から皆には伝えようとは思っていたが、このタイミングはやめてくれ……。その願いも虚しく、メイの奴は無慈悲に暴露しやがった。
「私の住まいですか? 私はハル殿のお
「うわあああああああ!! メイル・アーレンダール、貴様あああ!」
瞬間、和やかな食事の場の空気が凍りつくのを感じた。メイ以外の女性陣の目が据わり、俺の背中に置かれたイリスの手がピタ、と止まる。心なしか、空気も冷えてきているようだ。いや、勘違いではない。リリーの氷属性魔法が発動している……!
「こ、このことは皆には俺から言おうと思ってたんだけ「何ですってええええ!?」ど」
「……ハルト、どういうこと?」
「あ、いや。その、ね」
イリスはともかく、リリーに伝えていなかったのは拙かった。リリーは許嫁だ。俺もリリーもメイもお互いに気心の知れた幼馴染同士の関係ではあるが、これだと浮気のように思われても仕方がない。
「リリー、何もしてないから! 嘘じゃないです」
「何かにつけ私の胸を揉みまくってた人間がよく言うであります」
「メイ、頼むから今は黙っててくれ!」
「……う」
「う?」
「羨ましいいいい! ハル君、私も、私も一緒に住みたいわ!」
「わたしも、仲間外れは嫌」
怒られると思ったが、リリーの口から出てきたのは叱責ではなく羨望の台詞だった。
「いや、しかしね。君達には自分の家があるでしょう」
「一緒に住みたい!」
「住みたい」
いつもは大人びているリリーが幼児退行している……。あとイリスもちゃっかり背中をさすっていた手を肩に回して、距離を詰めてきている。
何だろう、この修羅場とも言えない、さりとて決して和やかではない空気は……。
「しかしなぁ。お互い家もあるわけだし、お泊まり会くらいならともかく、やっぱり一緒に住むのは難しいんじゃないの?」
俺としては皆深い付き合いだし、別に一緒に住むくらいは全然構わないとは思うのだが。しかし同時に、公爵家という大貴族の娘が嫁入り前に、許嫁とはいえ男と同居するのもどうかと思うのだ。イリスにしても、自分の給料からかなりの額の家賃を払っていることだろうし、その部屋をただの倉庫扱いしてしまうのは忍びない。あと住居を移すには色々と行政上の手続きとかもあるし、そこは日本と同じように果てしなく面倒なことになりかねない。
しかし、俺が何気なく呟いたこの言葉がリリーとイリスの二人には刺さったようだった。
「「それ」だわ!」
「……うん?」
「お泊まり会よ! 確かにハル君の言う通り、引っ越すとなれば色々と大変だわ。でもお泊まり会をたくさんすれば同居も同然よね。なにせ、私には時空間魔法がある!」
伝説のレア属性を「どこ◯もドア」感覚で使うなよ!
「わたしも一人暮らしだからお泊りくらい余裕」
それを受けて、イリスも張り合いだした。一体何なんだ、君達は。そんなにお泊まり会がしたいのかね。お泊りイベントが楽しい気持ちはわからんくもないが、俺は男だ。果たして男女のお泊まり会が健全と言えるだろうか。
「わたしとハルトは軍の任務でよく一緒に寝泊まりしている。それを言うのは今更」
「私なんて許嫁よ」
「全然問題無いな」
自分で言っておいて、本当に今更であった。イリスの言う通りだ。そもそもイリスを除く二人とは、ついこの間まで一緒にお風呂に入っていたのだ。何だかんだ、気が付けばかれこれ二年くらいは一緒に入っていないが、一三歳まで機会があれば一緒に入っていたのだから、実質この間も同然だろう。
よし、俺も吹っ切れた。こうなったら突如降って湧いたこの強制お泊り会イベント、とことん楽しんでやる。
「わかった。やろう、お泊まり会」
「ハル君好きよ!」
「流石ハルト。わかってる」
「ただし、遠慮は無しだ。とことん楽しむぞ。具体的には『お風呂』・『枕投げ』・『同じ布団』の三本柱だ。俺と一緒にお泊りするとはどういうことか知らしめてやる!」
名付けて「お泊りイベントと称して女の子とあれやこれやイチャコラ大作戦」だ。我ながら頭が悪いな。
ちなみに、この家には文理学院に通っている
「ハル君と一緒にお風呂入るの、けっこう久しぶりね。成長した私の身体を見せつけて虜にしてあげるわ」
「私は昨日ぶりでありま「メイぃいいい!」すな」
一緒に入っただけだ。手は出していない。触りはしたが。
「あの、わ、わたしも一緒に入るの?」
おや。イリスが頬を染めてこちらを見ている。
「……そうか。なんだかんだでイリスと一緒に風呂に入ったことは無いよな」
「……えっと、その」
「これも何かの縁だよね。是非ご一緒しましょう」
これも役得というやつだ。この流れを利用しない手はない。もし本当に嫌そうならやめるが、イリスも恥ずかしそうではあるものの、何気に満更でもないという空気を醸し出している。これは俺の勝ちだ。大勝利である。まだ見ぬ裸体、とくと拝ませてもらおう。ふひ。
✳︎
「というわけでやってまいりました、ファーレンハイト辺境伯家が誇る皇都邸宅備え付けの大浴場! 見渡す限りの湯船! 湯気! ほのかに頬を赤らめた女の子! 皇国騎士にして勅任武官であるわたくしエーベルハルトも大欲情でございますッ!」
「ハル君のバカ!」
「ぶおあっ」
バシャーン、と六〇キロあるかないかくらいの質量を持つ人体がお湯に勢いよく落ちる音が大浴場に響き渡る。まだ掛け湯もしていないのに湯船に突き落とすとは、マナーのなっていない奴だな。
「何すんだよ!」
「情緒って知ってるかしら」
「熱い!」
まだ誰も入っていない一番風呂だからか、
「火傷するかと思った……」
「ハル殿にはいい薬になると思うであります」
「おお……」
でかい。何がとは言わん。絶景だ。
「また良からぬことを考えてるわよ……。メイル、あんたも少しは隠したらどう?」
「いやー、もう散々見られまくってるので、今更かなーと」
「(チッ、これだから同じ街住まいは……)」
どうやらリリーには
そのリリーであるが、二年ぶりに見た彼女は、一三の時と比べて随分と成長していて、あまりに眩しい御姿をしていた。これが我が婚約者だというのか! 俺はなんて果報者なのだろう。幸せすぎる……。
「…………」
「え、ハル君……、なんで土下座しだしたの?」
土下座ではない。五体投地だ。俺は今、神に感謝している。成長期ってすごいね。
「で、残るはイリスだけど……」
「うー……、これ、巻いたままじゃ駄目?」
「駄目です」
湯船にタオルを浸けるのはマナー違反!
「わ、わかった……」
真っ赤になりながらも身体に巻いていたタオルをゆっくりと剥がすイリス。均整の取れた細身の身体が今、露わになる――――。
「俺はお前と同じ部隊の隊長として、お前を誇りに思う」
「ハルト、それ、今言う台詞じゃない……」
意外とイリスって大人なんだなぁ……、と目線を下に向けながら思う俺であった。まあ一つ上の一六歳だしな。この中で一番なのも当然といえば当然だ。ちなみに意外にも胸の発育が一番のメイはまだのようだ。リリー(と、どうでもいいがついでに俺も)は普通である。
「は、早く、入ろう!」
珍しく大きな声を上げてイリスが湯船に飛び込む。あ、掛け湯……。
「あっっつ!!」
「だから熱いって言ったじゃん……」
夜は長い。まだお泊まり会は始まったばかりだ。
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[あとがき]
もうあと数時間で年が明けますね。思えば三月から投稿を始めて、ここまで随分と長いようで、早いものでした。
小さい頃からの夢が叶った、記念すべきこの作品がここまでこれたのは、すべて皆さまの応援があってこそです。というわけで、感謝を込めて出血(主に鼻から)大サービスのSSを書いてみました。
今回の話はかなり露骨なスケベ要素が多いですが、第59-60話を乗り越えた皆さまなら問題なく楽しんでくださると思っております(ちなみにTanner分類でいうとイリスは4度、エーベルハルト&リリーは3度、メイは2度くらいになります)。
今年一年、本当にありがとうございました。また来年もよろしくお願いします! よいお年を!
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