第163話 ちゃんと仕事してんじゃん
俺と殿下が生徒会役員として事実上の内定を得た(生徒会役員になるためには全校生徒による選挙、あるいは信任投票が必須だが、一年生に限っていえば入試成績の上位五名からしか選ばれないので、Sクラス内での決定がそのまま学年全体の決定となるのだ)のと同時並行で、リリーやメイ達もまた自分の適性や興味関心に応じた委員会への所属を決めていた。
以下がこの学院に存在する各種委員会の一覧と説明だ。
【生徒会】
→各委員会および全校を管轄する。入学試験において五指に入る人間の内、一人以上は必ず生徒会に入るという慣わしがある。
【生徒会執行部】
→生徒会の意志を学院全体に反映するため、実力を以てして執行にあたる実働部隊。
【中央委員会】
→各委員会の調整役にして、まとめ役。元々は生徒会の意志に従って諸制度の運用に携わる官僚機構であったらしいが、現在はほぼ独立しており、あまり連携が取れていない。その性質上、学院全体への影響力が他の委員会に比して強く、近年暴走傾向にあるらしい。
【厚生委員会】
→学生生活の質の向上に関する仕事を担う。学生からの相談や、各種手続きなどの対応も行う。
【文部委員会】
→教育・研究活動に関する仕事を担う。教授陣の補佐や講義内容の改善、学生自身の学習・研究活動の充実を図り、活動を行っている。方向性の似ている図書委員会と連携を取ることが多い。
【風紀委員会】
→学院内の治安維持を担う。風紀を乱す学生や団体相手に強権を発動することを一部認められている、いわば魔法学院における警察機関。
【防衛委員会】
→魔物や犯罪者、スパイ、活動家などの学院外部の脅威から学院および学生を防衛する実力組織。情報部、防衛部、特殊作戦部などに分かれて活動している。
【図書委員会】
→貴重な魔法研究の資料を管理・保護・研究する。新たな研究資料の確保や入手を行ったりもする。研究活動も行うという組織の性格上、他の委員会と比べて魔法研究科の人間が多い。
【環境委員会】
→設備の点検や学院内の美化活動を行う。備品の管理等も行っている。厚生委員会と連携して学生生活の質の向上に寄与すべく活動している。
【部会連合会】
→各部会の会長が集まって意思決定を行う会議。部会の代表者が集まって組織される団体であるため、あくまで委員会とは別枠である。
リリーは厚生委員会に、メイは入試の結果が考慮された結果、文部委員会の研究開発部に所属を決めたようだ。
リリーはてっきり中央委員会のような学院全体の運営に関わる委員会に入ると思っていたから、厚生委員会と聞いて意外な気持ちだ。なんでも「敵を作らず味方を増やすには厚生委員が一番よ!」とのことらしい。社交界の縮図と呼ばれる学院において、地道に味方を増やしていくつもりのようだ。相変わらず強かで抜け目がない。流石はリリーである。
メイが文部委員会の研究開発部所属となったことは、まあ予想の通りであった。というかメイにはそこしかないだろうし、逆にメイ以外がメイを差し置いてそこに入る意味もあまりないだろう。適材適所とはまさにこのことを言う。
ちなみに残る知り合いメンバーことハンスとエレオノーラ、ナディアであるが、ハンスは中央委員会、エレオノーラは風紀委員会、ナディアは防衛委員会の所属となった。
入試成績五位で魔の森での修行にも参加したハンスであれば、多岐にわたるであろう中央委員会の仕事も務まるだろうし、有名人で、かつ実力者でもあるエレオノーラがいれば、校内風紀を乱す者への抑止力にもなるだろう。
ナディアが防衛委員会のようなゴリゴリの前線部隊に所属となったことにはそこそこ驚いたが、どうも彼女の本意では無いようだ。曰く、環境委員会を志望していたらしいが、くじ引きで負けたようである。まあ防衛委員会も大変だがやり甲斐はあるだろうし、落ち込まずに頑張ってもらいたい。
「さて、これで委員会決めは終わったな! では次はクラス委員決めだ。Sクラスをまとめる人間は誰が相応しいかな?」
グランツ先生がそう告げた途端、Sクラスのほとんど全員がフリードリヒ殿下の方を向いていた。厳密には何割かは俺やリリー、エレオノーラといった他の適性がありそうな人間の方を向いていたのだが、やはり一番適性があって有望なのは殿下だろう。
「ええと……、殿下に、ファーレンハイトに、ベルンシュタインに、フーバーか。候補としてはこの辺りでいいか?」
「殿下で」
「殿下ね」
「ここは殿下に譲るわ!」
「ええっ、私がやるのかい!?」
殿下に仕事を押し付けるべく、示し合わせてもいないのに満場一致で殿下を推薦する俺達。別にクラス委員長が嫌だとかいう訳ではなく、単純に殿下を差し置いてやりたくないというだけの話だ。もし仮にこのクラスに殿下がいなければ、内申点稼ぎと教師陣からの印象を良くするためにも臨時でバトルが勃発していたことだろう。リリーやエレオノーラからすれば魔の森の時の雪辱戦にもなる訳で、割と真剣な試合が組まれていた筈だ。
しかし! このクラスにはフリードリヒ殿下がいた。明らかに人をまとめ上げる才覚に恵まれ、委員長の適性が突出している彼を相手に無駄な勝負を挑み、彼我の戦力差や勝敗の趨勢すら読めない無能であるというレッテルを張られる訳にはいかないのだ。偶然ではあるが、俺達三人は全員が貴族。それも大貴族と呼んで差し支えないほどの、だ。その手の見極めなければならない問題には敏感なのである。
「なんだお前ら、揃いも揃って……。まあ良し、ではクラス委員長はフリードリヒ殿下で構わないか?」
「「「はい」」」
「「もちろんです!」」
「殿下もそれでよろしいですか?」
「せ、先生まで……。わかりました、ここまで期待されているのならば、私がクラス委員長をやりましょう」
「「「「「「うおおおお!!!」」」」」」
皆の期待に応えるように、「仕方ないなぁ」とでも言いたげな表情で委員長になることを承諾する殿下。悪いことではなくむしろ良いところではあるのだが、皆が殿下に過剰なまでの信頼を寄せてしまうのは、そういうところが原因なのだと思う。
ともあれ、俺達委員長候補に挙げられてしまった哀れな貴族三人組は、殿下のクラス委員長就任を祝うと同時に、
*
その後は各委員会に割り当てられた委員会室への移動となり、入学初日のホームルームは活動を終えた。明日から一週間は履修登録期間として、学院はお休みである。委員会や部活動の先輩に訊くもよし。友人らと相談して決めるのもよし。厚生委員会の相談室を利用するもよし。いずれにせよ、自分の取りたい授業をじっくりと考える時間を与えてくれる魔法学院は素晴らしい教育機関だ。聞くところによれば、この履修登録期間は厚生委員会が学院当局に掛け合った結果、生まれたものであるらしい。ちゃんと仕事してんじゃん、と委員会活動を見直す俺。前世の学校張りに、形だけのおままごととは一線を画すようであった。難関と言われるだけのことはあるな、と魔法学院の凄さを再認識する俺であった。
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