第162話 ホームルーム恒例行事「委員会決め」

「さて、どうやら皆揃ったみたいだな。ではホームルームを始めよう。Sクラスの担任になったガイン・グランツだ。古代魔法文字学が専門だから、多分一年生の必修授業はみな俺が持つことになると思う。俺もこの魔法学院の魔法研究科出身なんだ。先生としてだけでなく、先輩としても相談に乗れるから気軽に話しかけてくれ。一年間よろしく」


 ホームルームの時間になり、我らが担任のグランツ先生の自己紹介があった後に、学生の自己紹介タイムとなる。出席番号順なので、「エ」から始まる俺はかなり前の方であった。


「エーベルハルト・カールハインツ・フォン・フレンスブルク・ファーレンハイトです。得意魔法は無属性魔法、苦手な魔法は属性魔法です。一年間楽しくやりましょう。よろしく」


 俺が挨拶をすると、この短い時間である程度打ち解けたクラスメイト達がヒソヒソと噂話をし出した。


「Sクラスに入れたから一緒になるとは思ってたけど、やっぱり迫力が違うな……!」

「でも取っつきやすい性格っぽくて助かったわ。これで性格キツかったら一年間大変だったもの」

「勉強とか教えてもらえるかな……」


 概ね好印象と見て問題なさそうだ。ここはもっと売り込んでおくかな。


「属性魔法は無理だけど、その他のことなら何でも相談に乗るよ。勉強、魔法、趣味、恋愛、その他お悩み相談まで何でもお任せあれ! ただしお金は貸しません」


 最後の一言が受けたようで、軽い笑いが教室内に響く。呆れ笑い……って訳でもなさそうだし、出だしはまずまずといったところか。


「では次にいこうか」

「はい」


 こうして次の学生の挨拶へと移っていく。20名そこそこのクラスメイトの挨拶が終わったのは、それから10分後くらいであった。


 ちなみに殿下の挨拶の時の盛り上がりは凄かった。流石は皇族と言うべきか、殿下は人心の掌握術にものすごく長けていた。おそらくクラス委員長は彼に違いあるまい。人徳なら間違いなく同世代でもナンバーワンであった。


 他に特筆すべき内容があるとすれば、この少ないクラスに知り合いが何人かいたということだろうか。

 エレオノーラ、ナディアといった、魔の森で一緒に修行した仲間がクラスメイトの中にいたのだ。これで顔見知りの身内がクラスの四分の一ほどを占めることになる。初っ端から過ごしやすそうな、幸先の良いスタートであった。

 ちなみに同じく今年受験していたヴェルナーとヘレーネであるが、彼らは他のクラスの所属となっていた。

 そしてマルクスはと言うと、受験はせずに軍の工兵に志願して工科兵学校へと進学していた。曰く「おれの魔法はあまり魔法らしい魔法じゃないから」とのことだ。確かに彼の魔法は「罠魔法」とでも表現すべき少々どころではない特殊な魔法であって、魔法学院で学ぶよりかは工科兵学校に進学した方がよっぽど成長できるだろうことは想像に難くない。無意味に魔法学院に進学するよりもよっぽど将来を見据えた立派な選択だったと思う。

 工科兵学校は皇都ではなく、南都マルスバーグの更に南方の海に浮かぶ島にあるらしいので、彼が卒業するまではしばらくは会えないだろう。とはいえ同じ軍に所属する人間同士、またいつかどこかでめぐり会う機会もある筈だ。その時までにお互い成長できているよう、俺もこの魔法学院での学生生活を頑張りたいと思う。


「さて、それじゃあこれから所属する委員会を決めていこうかと思う。一人一役は必ず所属する義務があるから、各自自分が興味のある仕事を選んでくれ」


 委員会か。懐かしいな。前世の学校を思い出す。人気どころといえば放送委員会とか図書委員会だ。逆に環境委員会とか体育委員会みたいな土で汚れがちな仕事は敬遠されていた記憶がある。

 俺は日本にいた時は図書委員会に所属していたが、今度はどこに所属しようかな。放送委員会は文明レベルの関係で存在しないだろうし、この世界特有の興味深い委員会があればいいのだが。


「ああ、あと入試の成績上位五名だが、慣例として誰か一人以上は生徒会に所属してもらうことになっている。押し付けるようになってしまうのは申し訳ないが、逆に言えば上位五名以外は入りたくても一年次から生徒会に入ることは許されていない。義務ではあるかもしれないが、同時に特権だとも思って志願してくれると嬉しい」


 ふむ、生徒会か。前世では俺が立候補しようものなら「出しゃばるな」と散々な言われようだったが……今は俺が首席だ。誰にも文句は言わせない。実は生徒会役員なるものに密かに憧れていたのだ。なんだか楽しそうじゃないか。

 ……と、そこまで考えて、ふと俺はフリードリヒ殿下の存在に思い当たる。もしかしなくても、俺より彼の方が適任ではなかろうか。彼は皇族だ。この国では、皇族の存在感は他の貴族の追随を許さない。加えてあの人徳である。まだホームルームが開始して数十分しか経っていないのに、もう彼はこのクラスの中心にいる。しかもクラス全員を気にかけて皆から慕われるほどだ。


「先生」

「ファーレンハイトか、どうした?」

「生徒会役員になれる人数に制限はありますか?」

「定員という意味では、各学年2名が原則だ。ただ、適性のある学生の数次第では多少の増減はあるな」


 なるほどな。であればここは……。


「殿下、一緒に生徒会役員やってみない?」

「エーベルハルト。それは別に構わないけど……どうして私なんだい?」

「そりゃあ殿下こそが生徒会役員に相応しいと思ったからだよ。そんでもって俺は殿下を支える側に回ろうかな」

「ファーレンハイト、そんなお前に良い役職があるぞ。生徒会、正式名称『生徒会役員会議』には採決された議案に従わない一部委員会や部会などを相手に強制力を以てして従わせる実働部隊があるんだ。その名も『執行部』という」

「『生徒会役員会議執行部』……」


 先生が教えてくれた役職を反復して呟く。なんだかカッコいいな……。封印されし中二心が鎌首をもたげてくる。


「そこなら生徒会役員の一員扱いにもなるし、裏から支えることもできる。戦闘が得意なファーレンハイトの強みも活かせるぞ」

「わかりました。俺はそこにします」

「なら私は生徒会役員に立候補するよ」

「よし。では今年の一年生の生徒会役員はこの二人に決定だな」


 くして、俺は生徒会役員――それも執行部役員という特殊な肩書きの役職に就任することになったのであった。



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