第157話 実技試験・その2
その後も俺の快進撃(?)は続き、魔力操作精度の測定では最高難度の『超精密術式・複雑同時展開』を、魔法発動速度の測定では基準値のタイムをはるか後方に置き去りにしての高速発動で、ともに歴史的な成績を残すという快挙を成し遂げてしまった。
一応、魔力量を除いた二つの項目では歴代一位ではないらしいのだが、両者ともにここまでの好成績を収めた人間となれば数えるほどしかいないらしい。しかも、そのような成績を残した過去の人間は軒並み宮廷魔法師団長やら近衛騎士団長やら特魔師団長やらになっているらしく、この時点でもう俺の首席合格はほぼ確実視されるような状態になっていた。
「プレッシャーが凄い……」
「これで首席以外だったら驚かれるわね」
「リリーまでそんなこと言うなよ〜」
「私は少なくとも首席ではないことがはっきりしたから、むしろ気が楽になっちゃったわ」
「負けない、とか言ってたくせに!」
「うーん、撤回! でも次席は目指すわよ」
「二人で頑張ってワンツーフィニッシュを決めような」
こうなったらリリーにもプレッシャーを掛けてやるのだ。彼女の場合は適度にプレッシャーがあった方が実力を発揮できるので、むしろその方が都合が良い節もあるのだが、それはさておき。
「しかし姿こそ見つからなかったけど、当然エレオノーラもこの試験には参加してるんだよな」
「この会場のどこかにはいると思うわよ」
フーバー伯爵家の才女がこの一年でどこまで実力を伸ばしてきたのか、気にならないといえば嘘になる。むしろめちゃくちゃ気になっているくらいだ。負けてやるつもりは毛頭ないが、良きライバルは多いに越したことはない。
「それに、今年は第三皇子殿下も受験なさっているらしいわよ」
「あの『流水の貴公子』が?」
「そう。だから気は抜けないわ」
ハイラント皇国第三皇子。『流水の貴公子』の二つ名を持っておられるフリードリヒ殿下のことである。俺達と同い年で、リリー
社交パーティとかで何度か顔を合わせたことはあるが、直接話したことはまだない。どんな性格なのかはわからないが、かなり魔法に精通した方だと聞いている。
そうか、第三皇子も受験するのか……。普通、皇族は神聖学院へと進学するのが常である筈だが、そこを敢えて王侯貴族だろうが容赦なく落とす魔法学院に受験するくらいだ。相当魔法に自信があるのだろう。まあ、そんなことを言ったら俺達にも同じことが言える訳だが。
とにかく、学院に入学したら話す機会もあるだろう。どんな人か知るのはそれからでも遅くはあるまい。
✳︎
続いては得意魔法の試験だ。こちらは演習場に出向いて、実際に魔法を使用して合否を判定する。威力や技巧、珍しさなど複数の観点から判断するため、三回の実演が求められるのだ。同じ魔法を三回やっても構わないし、違う魔法にしてもよい。その辺りの作戦は受験生に一任されている。
俺は無難に『
これまで正体を隠していたのは、あくまで面倒ごとを回避するため。既にかなりの地位と実力をつけた俺にとって、面倒ごとなど自力で振り払える程度のものでしかない。
それに叙勲されたりなんやかんなあったりして、実質的に知る人ぞ知る公然の秘密となっている部分もあるのだ。今更隠し通せるなんて思ってはいないし、隠すメリットも特に見当たらない。であればいい加減、正式に公表した方が楽かなという考えに思い至り、こうして不特定多数の目に留まる場面での魔法使用を決意した訳だ。
「では次の方」
「はい。受験番号1851番、エーベルハルト・カールハインツ・フォン・フレンスブルク・ファーレンハイトです。ではいきます」
俺は一つ目の魔法『纏衣』を展開する。一見するとただ薄い魔力の衣を纏っただけの、地味で見た目にはほとんど変わらないこの技だが、見る人が見ればその凄さに恐れ
「……っ!」
「何だ? あいつ今何か使ってるのか?」
「馬鹿、あの緻密な魔力の流れが見えないのか!?」
実際、俺に注目している人間は多いが、理解できているのは三分の一にも満たない。そして理解している人達のほぼ全てが、一様に表情を強張らせていた。
「……では二つ目をどうぞ」
「はい」
続いて『白銀装甲』を展開する。今度はちゃんと目に見える魔法ということもあって、会場にいた全員がその凄さを感じることができたようだ。
「何だあの魔力……っ」
「ここまで圧が伝わってくるなんて……。いや待て、聞いたことあるぞ。白銀色に輝く魔力の鎧を纏いし、正体不明の皇国騎士……」
「まさか……『白銀の彗星』!?」
「何、『彗星』が受験しているのかっ!?」
「おい、聞いたかっ。あいつ『白銀』らしいぞ!」
ここでようやく種明かし……ならぬ
「はっ、『白銀』……あ、し、失礼。では三つ目をどうぞ」
「やっぱり最後はこれだよな」
普段よりも多く魔力を収束して、やや威力を強めた『衝撃弾』を、的目掛けて十数発ほど叩き込む。狙いは全て違わずド真ん中。連続ホールインワンだ。
「「「………………」」」
「試験官さん?」
「は、はい。ではこれで得意魔法の試験は終了になります。次は戦闘試験へどうぞ」
「はい。ありがとうございました」
水を打ったように静かな試験会場の中を、超絶注目されながら後にする俺。何だか有名人になったような(実際、有名人なんだけど!)気分だ。こうなる前は楽しそうで憧れていたが、実際その立場になってみると居心地が悪いばかりであまり嬉しくはないな。もっとキャーキャー言われるのかと思っていたが、現実には怖がられて終わりだ。まったく世知辛いものだね。
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