第136話 第1試合『ギルベルト VS ハンス』、第2試合『クラウディア VS ヘムルート』
「それでは両者、位置について……始め!」
マリーさんの掛け声で、戦いの火蓋が切って落とされる。まず、近接戦闘が得意な騎士のギルベルトさんが抜剣し、『身体強化』を身体に施してハンスに突撃した。対してハンスは落ち着いて水属性魔法を展開、総重量で1トン程度の水を空中に浮かび上がらせる。そしてハンスはそのまま自身を中心に、ぐるぐると廻らせるようにして水塊を纏わせた。相当な重量を持った水塊がかなりの高速でハンスの周囲を公転する。
「水の盾か! だが俺はそれすらも斬り裂くぞ!」
「それはどうですかね!」
ギルベルトさんは流石の踏み込みで一気に距離を詰め、ハンスめがけて両手剣を振るう。だがハンスは不敵な笑みを崩さない。
「なっ!?」
俺達はてっきりギルベルトさんの斬撃がハンスの水の盾を斬り裂いてそのままハンスを叩き斬ると思っていた。しかしなんと、ギルベルトさんの両手剣は水の盾を斬るどころか、そのまま受け流されてしまったのだ。
「そうか、水流だ!」
そう、ハンスはただ自身の周囲に水塊を浮遊させていた訳ではない。一定の方向に、かなりの速度で水流を生み出していた。しかもその水の質量は軽く1トンはある。いくら鋭かったとはいえ、所詮は人が持って振り回せる程度の重さでしかないギルベルトさんの剣戟はいとも容易く水流に負け、押し流されてしまったという訳だ。
「ここからがぼくの本領発揮だよ! ————『水王拳』!」
ハンスは自身の周囲の水塊をいくつかの塊に分裂させると、それらを一斉にギルベルトさんめがけて射出した。
「くっ!」
だが流石はギルベルトさんだ。一つ一つがバスケットボールほどの大きさの水塊が物凄い速度でいくつも自身めがけて飛んできているというのに、それらを一つも被弾することなく捌ききっている。
「ええっ! これを受け止めちゃうのかぁ!」
「ぬうううっ! 甘い!」
そしてなんと全ての水塊を斬り捨てたギルベルトさんは、その勢いのままハンスに斬りかかる。身を守るものが既に無いハンスはそれを避けることも防ぐこともできず、思いっきり斬られてしまった。
「ぐわあああっ!!」
「勝負あり! 勝者、ギルベルト!!」
胴体をズバッと斬られてしまったハンスが地面に倒れ伏す。
「ハンス!」
慌てて駆け寄ってみると、ハンスの身体には怪我ひとつなく、ハンスは若干苦しそうな顔で気絶しているだけだった。
「そっか、そういえばこの結界の中なら怪我はしないんだっけ。何だか違和感が半端じゃないな……」
「直観に反しますわね」
隣に来たクラウディアが呟く。
「次はクラウディアさんですよね?」
「ええ。勝てるかはわかりませんが」
「ま、勝っても負けても得るもんはありますから」
「気楽にいくとしますわ」
いまいち口調と台詞が合っていないような気がするのは俺だけではない筈だ。
*
「それでは第二試合じゃ。準備はええかの?」
「ええ」
「問題ありません」
「では両者位置について……始め!」
第二試合、クラウディアとヘムルートの戦いが始まった。クラウディアは土属性魔法『
対するヘムルートは珍しく戦闘タイプではない『鑑定』の使い手だ。これでどう戦うのか最初の頃は随分と不思議に思っていたものだ。実際には『鑑定』は『鑑定』で相当使い勝手の良い魔法だと知れたのは、長いこと一緒に修行を積んできて得られた学びの成果だろう。
「行きますわよ! 『
クラウディアが土属性の魔力を練り上げると、彼女の周囲の地面がモコモコと盛り上がって四体の『
対するヘムルートは、傍目には何かをしているようには見えない。しかし俺達は知っている。ああして静かに敵を見据えている時のヘムルートは、その『鑑定』で以て相手の弱点を探っているのだ。あの全てを見透かされるような視線は未だに慣れない。『鑑定』は他人のステータスすらも浮き彫りにしてしまうので一回俺は彼に仰天されたことがあるのだが、それは今は置いておこう。
「……見つけた」
「っ……! させませんわ!」
ヘムルートが呟いた冷静な一言。特に『土人形』で戦うクラウディアにとっては恐怖の一言だろう。
物体には必ず、どこかに弱点となる部分が存在している。それは魔法であっても変わらない。訓練次第では弱点を限りなくゼロに減らすことはできるが、まったくのゼロにするのは不可能に近い。やはり物体を動かして戦うという魔法の特性上、どうしても構造上の欠陥とでも言うべき弱点は生まれてしまうものだ。
そしてヘムルートはその弱点を突く。嫌らしいまでにその弱点をひたすらに攻撃してくる。『鑑定』という非戦闘タイプの彼が魔の森を突破し、こうして一年間も修行に耐えてきたことにはちゃんとした理由があった。
「『マジック・アロー』」
「『
クラウディアの『土人形』が先の読めない不規則な動きでヘムルートに襲い掛かる。しかしヘムルートは一つ一つの動きにしっかり対応し、手に持っていた武器――彼は特定の武器に固執することがない。今回は槍のようだ――で的確に『土人形』の弱点を突いていく。
十分ほどその美しい舞が続いただろうか。既に『土人形』は三つが破壊され、残っているのは全身に傷がついた『土人形』が一体だけであった。クラウディアは四体の『土人形』を同時に動かし続けたせいか、かなりの魔法を消費していそうだった。最初にここに来た時は二体の同時操作が限界だったので、彼女もまたこの一年で相当強くなっているのだ。
そしてヘムルートだが……。
「はぁっ……はぁっ……、こ、降参します」
「ヘムルートの降参を認める。よって勝者はクラウディアじゃ!」
彼は修行で力をつけたとはいえ、もともと戦闘タイプという訳でもなかったことが影響し、肩で息をしている状態であった。全身汗だくで、満足に立つこともできていない。
試合終了と同時に崩れ落ちたヘムルートの身体には傷ひとつついていない(それも当たり前だ。『精神聖域』の中なんだから)が、彼の体力は限界であった。
「納得いきませんわ……」
辛うじて勝ったものの、気持ちよく撃破しての勝利ではないためどこか不満そうなクラウディア。彼女もまた消耗しているとはいえ、流石にヘムルートほどではなさそうだ。このまま続けていれは、やはり勝っていたのは彼女だっただろう。
「ふむ、結果クラウディアは一撃もヘムルートに入れることができなかったか」
「要修行ですわ!」
「ま、その辺は学院に戻ってから自分で頑張るのじゃな」
俺とマリーさんは倒れたまま荒い息を繰り返しているヘムルートを抱え、結界の外まで運ぶ。
こうしてクラウディアとヘムルートの試合は持久戦となり、最後まで攻め続けたクラウディアの勝利で幕を下ろしたのだった。
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