第129話 銀竜・エレメンタルドラゴン
「ぴゅいいいいいいいいいーーーーーーーーーん!!!!」
「「………………………は?」」
細長く絞られ、馬鹿みたいな熱量を持った破壊光線が、既に満身創痍だったジャバウォックに向かって放たれる。「火を吹く」どころではない。文字通り破壊的な熱量を帯びた異次元の熱線だ。そのあまりに膨大なエネルギーを含有して白紫色の光を帯びた光線は、さながらまだ俺が日本にいた時に話題となっていた怪獣映画に出てきた巨大怪獣が内閣を(物理的に)総辞職させた時のそれのようだった。
幸いなところとしては、その光線を放つ時に「カパァッ……!」と口が縦に割れないことだろうか。タマちゃんはかわいいタマちゃんのまま、頑張って大きくお口を開けて破壊光線を放っていた。
「————ギュオ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!?」
ジャバウォックはというと、タマちゃんによる超絶破壊光線で胴体をブチ抜かれ、痛みでのたうちまわっていた。
「え、えげつな」
さっきまで絶望していたマルクスがドン引きしている。というかお前、ついさっきあれだけえげつない罠でジャバウォックを苦しめていたじゃないか。人のこと言えんのかよ!
「だがしかしッ、これはタマちゃんがくれたチャンスだ!」
俺は魔力無しではそこまで真価を発揮できない魔刀・ライキリをインベントリに仕舞い、代わりにミスリルソードを取り出す。そして『身体強化』も何も施していない生身の状態で絶叫しているジャバウォックに斬りかかり、その首に向かって振りぬいた。
「オ゛ッ————……」
ジャバウォックの首がついに胴体から離れる。生身でも戦えるよう、鍛えておいて良かった……。
「でりゃああっ!!」
そしてその勢いで首をボールのように蹴飛ばして、胴体から離した。もしかしたら切断面をくっつけたらそのまま再生しないとも限らないからだ。しかしこうして胴体と首を切り離した状態で放置してやれば、流石にこれだけ傷を負った状態では再生は不可能だろう。いくらジャバウォックとて生物であることには違いない。死は免れない筈だ。
「……ァッ! ……————ッ……」
肺と切り離されているので声すら出せずに頭だけで転がるジャバウォック。その目はしっかりとこちらを見据えているので、まだ死んではいないようだ。……まったく、なんて生命力をしてやがる。
その生命力……まるで草フグみたいだな、とかつて瀬戸内海で釣りをした時の記憶を思い出しながらジャバウォックとの距離を取り、いつでも逃げられる準備をしておく。頭と同様に、胴体もまだビクンビクンと跳ね回っているので迂闊に近寄ることもできない。
「エーベルハルト! マルクス!」
遠くからの狙撃に専念していたオスカーが戻って来た。ちょうど良かった。俺もマルクスももはや戦う力が残っていないので、オスカーに止めを刺してもらおう。
「オスカー、こいつを焼いてくれ」
「わかった」
オスカーが下級火属性魔法でジャバウォックの頭を焼く。焼かれながらもしばらく生きていたジャバウォックだが、数分ほど焼き続けている内にやがて反応が無くなり、死亡した。胴体の方も既に動きは止まっており、久々に魔の森に静寂が訪れる。
————勝った。俺達は助かったのだ。
「お主ら無事か!」
と、そこへマリーさんが息を切らしてやってきた。相当飛ばして来たのだろう。マリーさんは緊迫した面持ちで、額に玉のような汗を浮かべていた。
「マリーさん、ちょっと遅かったね。もう倒しちゃったよ」
「何、……ほ、ほんとじゃ……。無事のようじゃな……」
それからしばらくマリーさんは呆然としていたが、息も整って落ち着いてきたのか、俺達の方に向き直って頭を下げた。
「……すまんかった。これほど強いジャバウォックがいるとは完全に想定外じゃった。ジャバウォックは凶暴じゃが、それでも普通はBからAランク程度なのじゃ。……こんな個体なぞ、数百年に一度発生したら多い方じゃと思う。妾も二百年生きてきたが、こんな強いジャバウォックなど見たことも聞いたこともない」
どうやら今回の件、マリーさんですら想定できなかったほどの異常事態であるらしかった。
「他のチームは?」
「問題ないの。他の個体は概ねB+ランク前後のようじゃ。どこの班も問題なく討伐できておる」
「じゃあ俺達だけか……」
「そうじゃな。これは真剣に調査した方が良いかもの……。ところでエーベルハルトよ」
「何?」
「その小さな竜は何じゃ」
マリーさんが「ありえないものを見た!」とでも言いたげな視線でタマちゃんのことを見ている。タマちゃんはさっきの破壊光線で疲れたのか、眠そうにウトウトしている。まあ仕方がない。生まれたばかりだしな。むしろ生まれて数十秒でよくあそこまでやってくれたものだ。かわいがってやらないとな。
「これ? この子はタマちゃん。俺の召喚神獣だよ」
「……やはり、か。……はぁぁぁぁーーーーーー……」
マリーさんはものすごく大きな溜め息を吐いて額を揉んでいる。まるで何か問題があるかのような反応だな。
「何か拙いことでもあった?」
「いや、別に拙くはないのじゃがな。……その幼竜の種族に一つ心当たりがあっての。それに呆れておるのじゃ」
「はあ。呆れるとな」
マリーさんはそこで一旦区切って、勿体ぶるようにして告げる。
「その幼竜はの、神話に登場する伝説の神竜、エレメンタルドラゴンじゃ」
*
「エレメンタルドラゴン……?」
「そうじゃ」
マリーさんの解説をまとめると、こういうことだった。
曰く、皇国には勇者にして建国の父である初代皇帝を戴く建国神話が存在するが、その初代皇帝と共に神話に登場し、魔王討伐に貢献した相棒がいるらしい。その相棒こそが初代勇者の契約神獣である始原竜。この世界に存在する全ての竜種の上位種、始祖たる神竜種だそうだ。
始原竜は人間並みかそれ以上の高い知性を持ち、ありとあらゆる魔法に精通し、強大な力で以て天空を支配する最強の種族である。その始原竜を従えるとはすなわち空を支配するに等しく、現代地球以上に制空権が大きな意味を持つこの世界にとって、それは世界を支配するも同義であるとのことであった。
「え、いやいや。ワイバーンだって飼い馴らせば半分くらいは言うこと聞くようになるんでしょ? 流石に世界を支配は良い過ぎじゃない?」
「そのワイバーンの群れを軽々屠る力があるから脅威だと言っておるのじゃ。言っとくが、天空の覇者と呼ばれておる天竜とて始原竜には全く敵わんぞ。文字通り全ての竜種の上位種なのじゃからな」
「タマちゃん……。お前そんな凄いヤツだったのか。伊達に大飯食らいって訳じゃなかったんだな」
そんな神話生物ことタマちゃんは、今は俺の膝の上でウトウトとしている。変温動物っぽい見た目をしている割には恒温なのか、ほんのりと膝が温かい。体内にあれだけの熱量を秘めていると、変温動物でも実質的に恒温になってしまうものなのだろうか。
「まあ、いずれにせよ、また皇都で大騒ぎになるじゃろうな。昇進くらいで済めば良いが……」
「また謁見とか嫌だよ俺! めっちゃ緊張するし……」
「まあ謁見は間違いないじゃろ」
「ひいいええええええ!!」
一難去ってまた一難。果たして俺がゆっくりと落ち着ける日は来るのだろうか。溜め息を吐きながら、俺はタマちゃんの温かい首筋を撫でるのだった。
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