第115話 勢揃い

 宿泊棟が完成した次の日。実に俺とリリー、イリスが到着してから一週間ほど遅れて、ようやく他の参加者達がちらほらと集まり出した。

 まず午前中に3人。昼に2人。そして夕方に4人。この日だけで9人集まった。残りは4人だが、その4人も明日には着くだろうというのがマリーさんの予想だ。


 それにしても、宿泊棟の完成は本当にギリギリのタイミングだったようだ。もしこれで完成していなかったら14人が野宿する羽目になっていたのか。

 ここに来るまではひたすら野宿だった訳だから今更感も無い訳ではないが、ようやくゴールしたと思ったらまたそこでも野宿とか、やる気を失うだろう。人間、上げて落とされるのが一番辛いのだから。



 そしてまた次の日。ついに残りの4人が到着して、晴れて踏破が予想されていた人間全員が揃うこととなった。


「ふむ、ここに辿り着けんかった奴は今頃魔の森近くの村に来た軍の人間に保護されておるじゃろうし、取り敢えずはこれで全員かの」


 マリーさんは円形に整列した俺達をぐるりと見回して頷く。男10人、女が8人と、男女比はほぼ1:1だ。魔法という要素があるおかげか、戦闘力においては前世の地球よりも男女の差が小さいこの世界だ。比較的女性の社会進出も進んでいて、軍や冒険者もだいたい三分の一くらいは女の人が占めている。

 そしてこの修行においても女の子が占める割合は実に45%と、かなり高いものとなっていたのだった。


「さて、これから長い間を共に過ごす仲間じゃ。共同生活を送る上でもしっかりと互いを知り、親交を深める必要がある。なのでまずは自己紹介から行こうかの。今日やってきた4人は疲れておるじゃろうが、これから訓練をする訳でもないのじゃ。辛抱してくれよ」

「「「「はい」」」」


「ではまずここに到着した順に自己紹介をしてもらおうかの。名前、故郷、得意な魔法、簡単な一言くらいにしておくかの?」


 あまり深く突っ込んでも嫌がる人もいるかもしれない。そういうのはこれから共に修行をこなす内に親しくなってから話せばよいのだ。


「ではエーベルハルトからじゃ」

「はーい」


 俺は一斉にこちらを向いた全員の顔を軽く見回してから、自己紹介を始めた。


「えー、こんにちは。エーベルハルト・カールハインツ・フォン・フレンスブルク・ファーレンハイトです。北都ハイトブルクから来ました。まあ一応、貴族です。……あっ、でも公の場ならともかくここでは敬語は要らないんで仲良くしてください。得意魔法は……【衝撃】という固有魔法が使えます。苦手な魔法は属性魔法です。ぶっちゃけまったく使えません。あと趣味で冒険者やってます。皆、マリーさんの修行は大変だと思うけど一緒に頑張っていきましょう。よろしく」


 名前を言ったあたりで皆がザワザワし出す。どうやらファーレンハイトの苗字に反応したらしい。まあ、我が家は皇国の北東方面の守護を司る「北将」家だからな。知名度は相当高いだろう。一応、爵位も侯爵相当だし。

 属性魔法が使えない、のあたりでもう一度ザワついたが、とりあえず無難に自己紹介が終わって拍手が起きる。


「では次。リリーじゃ」

「はい」


 今度は我が許嫁、リリーの番だ。


「私はヘンリエッテ・リリー・フォン・ベルンシュタイン。ベルンシュタイン公爵家の長女ですわ。そこのエーベルハルトとは許婚の仲です。得意魔法は氷魔法と時空間魔法。苦手は火属性ですね。これからよろしくお願いします」


 今度は「公爵家」のあたりでまたザワつき出したが、俺の婚約者という話が出て収まりを見せた。しかしイリスを除く残り6人の女性陣が俺とリリーを見て顔を赤らめるのは一体何なのだろうか。恥ずかしいのでやめてください。

 そしてリリーが得意魔法で「時空間魔法」と言ったところで、周囲のどよめきが爆発した。


「時空間魔法だと!?」


 中には思わず叫んでいる奴もいる。既に面識のあったヨハン達もこれには驚いているようだった。インベントリはあくまで貴族だから金にモノを言わせて買っていたのだと思っていたらしい。まさか自作です、などとは思っていなかったようだ。……まあ、普通はそう思うよな。俺だって知らなかったらそういう反応するよ。


 とにかく、俺の時以上の衝撃とどよめきを起こしてリリーの自己紹介が終わる。まったく表情を変えていないリリーもなかなか根性あるよ。


「次、イリスじゃ」

「わたしはイリス・シュタインフェルト。実家は士族で、出身は皇都北方のカルヴァンの町。特魔師団から来た。階級は曹長で、そこのハルト少尉とは特魔師団の同僚」


 特魔師団のくだりを聞いた皆が目を剥いて俺とイリスをガン見してくる。


「あっ、言うの忘れてた」

「得意魔法は光魔法。けど回復と除霊は得意じゃない。よろしく」


 回復と除霊が得意でない光属性に何の価値があるのか、と頭に疑問符を浮かべまくった様子で皆がイリスのことを見ているが、ここの修行に呼ばれ、尚且つ特魔師団の団員ということもあり、誰一人としてイリスを嘗めている奴はいないようだった。流石は特魔師団の肩書きだ。社会的信用度が高すぎるぜ。


「では次」

「俺の名はヨハン・シュナイダー。魔剣術指南役のシュナイダー家の次男だ。得意なものは魔剣術。苦手なものはそれ以外だ。皆とは是非切磋琢磨していきたいと考えている。よろしく頼もう」


 シュナイダー家も皇都出身者の間ではかなり有名なようで、何名かが反応していた。


「次」

「あたしはエミリア・シュナイダー。そこのヨハンの妹だよ。得意なものは二刀流魔剣術。苦手なのはそれ以外! これから一緒に頑張ろうぜ!」


 随分と大雑把な自己紹介だが、エミリアらしいといえばらしいな。


 ここまでが俺と面識のある面子だ。これ以降は昨日から今日までにやってきた人間なので、まだ軽く顔を合わせた程度。本格的な挨拶はまだ交わしていない。

 さて、どんな奴らが修行仲間になるのだろうか。俺は微かな期待を胸に、残りの人間の自己紹介を聞くことにした。

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