第83話 魔人、撃破
「『衝撃弾』!」
戦闘は唐突に始まった。Sランクともなれば、コンマゼロ何秒かのタイミングが勝敗を分ける世界だ。相手は魔人。もしかしたら俺よりも強い可能性がある。ならば俺の持つ最速の技で先制攻撃を仕掛ける必要があった。
そして、俺と言えば【衝撃】だ。魔人が怪しい動きを見せ――る前の筋肉の僅かな動きを何とか察知できたので、
「むっ、これはなかなか良い技だ」
「チッ」
……当然のように避けられてしまったが、それでも体勢を崩すことには成功した。それに『烈風』も『衝撃弾』も避けられはしたが、それは逆説的に「当たれば無視できないダメージを負う」と捉えることもできる。そういう風に判断するミスリードを狙った仕掛けだとしたら恐ろしいが、俺だってSランクの魔法士だ。客観的に自分の戦闘力を鑑みて、俺相手にそこまで余裕を持って駆け引きを行えるほどの強さを相手が持っている確率は高くないと判断した。
まあ、要するに攻撃の通用しないマジモンの化け物であるとは考えにくいということだ。ならば後はとにかく攻めるのみ!
「これだけじゃないぞ!」
腰のポーチから仕掛けを施した特殊なナイフを複数投げつける。
「――『
「しまっ……! ぐあぁっ!」
衝撃波を放って高速で投擲したナイフ。そのナイフ自体は躱されてしまったが、俺の狙いはそこではなかった。
ナイフから飛び出した魔力のワイヤーが魔人に絡みつき、一瞬で奴の動きを拘束する。しかしその技はそこで終わりではない。数年前に習得したこの『
「ッ……!」
魔人の腕や足が斬り落とされ、奴は五体不満足の状態になって地面に伏せる。
そう、魔力のワイヤーから極小の衝撃波を放ち対象の分子構造を破壊することで、拘束した相手を必ず斬り刻む悪魔の必殺技へと進化したのが、この『
「ぐ……この、人間の分際で! があああっ」
先ほどまで理知的な印象だった魔人は激昂し、叫び声を上げ出す。
「っ、拙い! 『衝撃弾』!」
大きめの『衝撃弾』を複数撃ち込むが、魔人はおそるべき忍耐力と反射神経で飛び退き、なんとそれを躱してしまった。
「……まさかこの私がここまで一方的に攻撃されるとは」
見れば、魔人の奴は立ち上がって腕や足の感触を確かめるように肩や足首を回していた。
「一瞬で再生しやがった……」
この人間には無い尋常でないまでの回復速度がネックだ。だが、根拠の無い強さなんてものはありえない。何事にも原因と結果がある筈なのだ。なら、この超回復を支えるギミックは一体何だ?
「くくくっ……、人間にはこのような凄まじい回復はできまい。人間とは、怪我をしたらそれだけで死に至る哀れな生き物よ」
「ナマコみたいな奴だな。気持ち悪い」
あるいはプラナリアか。いずれにせよ、下等生物の方が再生力は高い気がする。
「黙れ! 人間風情が私を馬鹿にするな!」
今の一瞬の交錯でわかったが――――俺の方が強い。
多分、奴もそのことに気が付いているのだろう。先ほどまでのような余裕を失っているのが伝わってくる。
現状、奴は持ち前の再生力で回復することで生き長らえているに過ぎない。その超回復のギミックが割れてしまえば、奴の余裕は一気に瓦解するだろう。
続いて俺は魔刀・ライキリを抜き、中段の構えを取る。この世界にも質量保存の法則は働いている。先ほど奴は四肢を切断されたが、強引に魔力を消費して回復しているように見えた。無限に見える奴の超回復とはいえ、部位欠損を繰り返すのは相当負担になる筈だ。北将武神流の剣術とライキリの斬れ味。とくと味わわせてやろう。
「小癪な!」
魔人は両手に魔力を収束し、エネルギー弾状になった魔力弾を放ってくる。まるで俺の『衝撃弾』みたいな技だが、その手は悪手だ。『衝撃弾』は俺の十八番。当然ながら、対処法も研究し尽くしている。コンセプトが似ているその技は俺には効かない!
「――『流水』」
自然に身を任せ、流れる水のように攻撃を受け流して斬り裂く『流水』。魔人の放った魔力弾は何の抵抗も無く斬り裂かれて流れていく。
「なっ……!」
「『
続いて、刀身に【衝撃】の魔力を纏わせて、上段の構えから振り降ろすと同時に鋭利な刃状の衝撃波を放つ中距離斬撃『鎌鼬』。
「――――留めだ。『
最後に、足裏から衝撃波を出して高速移動し、『鎌鼬』でダメージを負った魔人に追い打ちをかけるようにして乱れ斬りを食らわせる『華火』で、奴の全身をバラバラに斬り裂く!
「ッが…………!!」
魔人が頭、顎、肩、腕、手首、胸、腹、腰、太腿、足――バラバラに斬り裂かれて吹き飛ぶ。肺と声帯が別れているため、もはや叫び声を上げることも叶わない。
「……まだだ!」
バラバラになっているとはいえ、このままでは例の超回復で再生しかねない。なので骨も残さない勢いで、圧倒的な火力でねじ伏せることにする。
通常であれば拡散する衝撃波を敢えて収束し、攻撃範囲を狭めることで威力を増大させた応用技『収束衝撃弾』。これで奴の全身を磨り潰す!
「『収束衝撃弾』!!」
――ギュォォオオオッッ!!
通常の『衝撃弾』と違い、吸い込まれるような轟音を立てて炸裂する『収束衝撃弾』。威力の割には意外に大人しい周囲への影響が収まり、風に流れて少しずつ土煙が晴れていく。
お椀で掬ったようにゴッソリと地面に深く開いた数メートル規模の陥没穴。流石にこの威力の攻撃に耐え切ることはできなかったのか、その内部には魔人の姿は無く、中心部に赤く光る石だけが残されていた。
「……何だあれ」
警戒しつつ穴の底へと降りていく俺。慎重に近づいていき、いつでも攻撃できるように準備しながらそれを拾うと、その正体がはっきりした。
「魔石?」
魔人の代わりに落ちていたのは魔石であった。魔物を倒した訳じゃないのに魔石とは、これ如何に。
「……そうか。もしかして魔人って、人間が魔物になった姿なんじゃないのか?」
答えてくれる魔人はもういない(いても答えてくれたかは怪しいが!)。ただ、特魔師団に戻って調査をしてもらえば色々と何かわかる筈だ。
仄かに赤く光る魔石だが、それは他の魔物の魔石と何も変わらない。邪悪な意志やら波動やらを感じることもなく、本当にさっきの魔人は死んだようだった。
「……こうして見ると綺麗なんだけどなぁ」
元の持ち主があれじゃあな。素直に綺麗と思えないのは仕方ないような気がする。
「さて、准将達のところに戻らないと」
とにかく、十数年振りに見つかった魔人について早く報告しなければならない。
俺は今一度周囲に怪しい反応が無いか探りつつ、急いでスラムの方へと戻るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます