少年期・特魔師団編
第51話 6年後
「よう、白銀の。今日も絶好調だな」
「やあ、エルンスト。そう言うあんたこそなかなかの成果じゃないか」
「白銀には敵わねえよ。まだ子供だってのにSランク冒険者の名は伊達じゃねえな」
日中の暑さも和らぎ、幾分か過ごしやすくなった初夏の夕暮れ時。ハイトブルクの冒険者ギルドでは、至る所で冒険者同士の自慢話が飛び交っていた。魔物も生き物ということなのか、夏は冬よりも魔物の数が多くなる傾向にある。だんだんと増えてきた獲物をどれだけ狩れたかで、その日の贅沢が決まるのだ。宵越しの銭を持たない冒険者達が顔を突き合わせれば必ず持ち上がる話題であった。
「エルンストだってまだ20なのにB+ランクだろ。将来有望だと思うぞ」
「そうか? 天下に轟く謎の仮面冒険者、『白銀の彗星』様にそう言ってもらえるなら、俺も捨てたもんじゃないな!」
「おーい、エルンストに白銀の。どうだ、一杯やらねえか?」
と、そこへギルドに併設の酒場から酔いどれの誘いがかかる。
「おお、行くぜ!」
「すまない、俺は帰らなきゃならないから。また今度な」
「何だよ、つれねぇなぁ。また今度な、約束だぞ!」
「ああ」
「今度こそ素顔を拝んでやるからな!」
苦笑して、俺はその場を後にする。
ギルドを出れば、仕事を終えて家に帰る人々で道は賑わっていた。
家族の待つ家まで急いで帰る者。仕事仲間とともに一杯引っかけていこうとする者。むしろこれからが仕事始まりだと腕をまくる酒屋の
彼らの顔は皆一様に明るい。この街が豊かである証拠だ。
「『兄上、お帰りはいつ頃になりますか』」
帰り道を歩いていると、通信用の魔道具が鳴って今年9つになる弟、アルベールから通信が届く。
「『もう帰るよ。今日の晩御飯は何かな?』」
「『角牛の熟成ステーキですよ。兄上の好きな異国風ジャンソース仕立てです』」
「『それは楽しみだ。急いで帰るよ』」
「『わかりました。お気をつけて』」
アルベールからの通信を切り、俺は帰り道を急ぐ。夕日がもう少しで沈もうとしていた。
✳︎
「お帰りなさいませ、兄上」
「あにうえおかえり!」
「ハル、遅かったじゃないの。皆待ちくたびれてたのよ」
「ごめんごめん。お土産にグリーンボア狩ってきたから許して」
「おかぇいー」
「おかぇいー!」
「うん、ただいま。いい子にしてたかい?」
「「んー!」」
弟のアルベール、7つになった妹のロゼッタ、14の姉ノエルに、2歳になったばかりの双子の弟妹、ジークハルトとシャルロッテが出迎えてくれる。
「ハル君お帰り〜」
「エーベルハルト、早く手を洗ってきなさい。戻ってきたら夕食にしよう」
「うん」
母ちゃんとオヤジも出てきて、これで一家全員が揃った。両親に子供6人の8人家族。現代日本なら立派な大家族だ。
「ハル様、お召し物をお預かりいたします」
「アリサ、ありがとう」
アリサも随分と大人になった。確か今年で26だったかな? もう立派な大人の女性だ。
さて、今日の食事は俺が数年前に市場で見つけた、東方で食べられている
✳︎
フェリックスとの戦いから6年が経った。あれからしばらくしてフェリックスは目を覚ましたが、自身の右腕が使えないと知るや否や舌を噛み千切って自害してしまった。人の手によって死ぬことなく、自ら死を選んだフェリックスの姿は敵ながら天晴れだったが、同時にどこか悲しい気持ちも存在していた。奴が行ってきた所業は決して許されるものではないが、その剣技と自分に正直な心持ちは、もしかしたら改心して何かに役立てることができたかもしれなかったからだ。
ただ、過ぎてしまったものはどうしようもない。俺は敵とは言え、一人の人間の人生を奪ってしまったのだ。次期領主として、時には非情な判断も必要になる。倫理観を持ちつつも責任感ある人間に俺はならなければならないのだ。リリーには悪いが、そのことをはっきりと強く自覚するキッカケになった、良い経験だった。
さて、精神面としてはそんな感じ。元から中身はほぼ大人だったので、他にあまり成長があった訳ではない。しかし肉体面では随分と成長した。
当時6歳だった俺は12歳になり、だいぶ兄としての貫禄が身に付いてきたところだ。背丈も随分と伸びた。だいたい150センチくらいはあるだろうか? 日本の平均的な中学1年生の体格くらいには成長していた。
許嫁であるリリーはまあ予想通りというか、順当に清楚で可憐な令嬢に……見た目だけは成長した。中身はお転婆に拍車がかかって凄いことになってしまったが!!
不幸中の幸いと言うべきか、あの事件以降、俺に対してだけはやたらデレてくるので、俺にそこまで理不尽な当たりが無いのは救いである。それに、これでも前世持ちで、精神年齢は通算したらほぼ三十路近いのだ。年頃の女の子のツンツンなんて可愛らしいもの。ツンデレ幼なじみ最高である。
ただしメイに対してはもの凄く当たりが強い。メイが俺に無自覚にベタベタくっついてくるので、リリーはあからさまにメイを敵視している。ツンデレどころかツンドラだ。魔法を覚えたリリーの得意属性が比較的珍しい氷属性だったこともあり、リリー vs メイの女の戦いは米露冷戦のように収まるところを知らない。ただ、命を救われた経緯もあって、心の底からメイを嫌っている訳ではなさそうだ。態度には出さないが、それなりに憎からず思っているようである。
……それはそれとして、メイが俺の側で四六時中ベタベタイチャイチャしているのが我慢できなかったのだろう。なんと、リリーは根性と執念で尋常じゃない努力を重ねて、2年ほど前に10万人に一人しか発現しないとされる激レア中の激レア属性、時空属性魔法に目覚めたのだ。皇国の人口が約2000万人だから、比較的魔法士が多いとされる皇国でも200人いるかどうかと言うくらい珍しい属性である。
おかげで今ではAランク時空属性魔法「転移」を使って、毎週俺の家まで遊びに来るようになっていた。本人は「魔法の練習だから」とか言ってるが、ようは俺に会いたいだけだ。それただのツンデレやんけ〜! と思うともう可愛くて仕方がない。いとしのエリー、ならぬリリーである。
そして次にメイ。第2の幼なじみであるメイだが、奴は化けた。ドワーフの血は恐ろしかった。
まず、ドワーフなので身長はそこまで大きくならない。メイの身長も130センチほどと、12歳にしてはかなり小柄だ。だいたい小学3年生くらいの体格と言えば分かりやすいだろう。
とは言え、地球製ファンタジーでドワーフについて多少知っていた俺からすれば、思ったよりも随分と成長したな、という感じがある。物語だとドワーフとは1メートルに届かないような(場合によっては数十センチ程度しかないような)種族として描かれることも珍しくないからだ。ただ、親方やアーレンダール工房の他のドワーフの職人達の身長も160センチ無いくらいと、ハイラント皇国人の成人女性と同じくらいであったし、ドワーフの身長は人間よりもちょっと背が低いくらいが普通なのだろう。
ドワーフとは物語で見るほど小さい種族という訳でも無さそうだ。まあもっとも、男性の場合は身長の割に筋骨がムキムキバキバキゴリッゴリの隆々過ぎてプロレスラーかマッスルコンテスト出場者ばりに威圧感があるから、身長などたいした問題にはならないのだが……。
さて、そんなドワーフとは、男はムキムキモジャモジャゴリッゴリになる種族である。では女はどうなるか?
…………正解はムチムチバインバインである。正直、地球のファンタジー物語に出てくるドワーフみたいにロリッ娘路線の方が良かったかもしれない。
俺はかねてより不思議だったのだ。何故世の中の多くの作品では男性ドワーフは肉体的に恵まれて、女性は幼児体型なのかと。種族特性である身体的特徴が仮に性差なく現れるとしたら、女性もまた男性同様に肉体的な発達が著しいのではないか、と。
――それが見事当たった訳だ。もしロリッ娘だとしたら理由なんて説明がつかなくても、そういうもんだと納得できたのに。
現実には、メイは弱冠12歳にしてEカップはありそうなくらいのロリ巨乳けしからんっぱいに成長していたっぱい。実にけしからん!!!!!
あまりにけしからんので俺のけしからん息子が
まあ正直、俺の今世での性の目覚めはメイだった。しかも【継続は力なり】のせいと言うかおかげと言うか、精力も鍛えれば鍛えるほど伸びる有様なのだ。そんなの伸ばしても何にもならないどころか、むしろ日常生活に支障を来しかねないのでやめてほしいのだが、メイのけしからんボディの感触を味わってしまったらやめられないたまらない。
今はまだ自分一人で治められているから良いが、その内メイにヒドイことをしてしまいそうで心配だ。なまじ身分に差があるだけに、罪にもならず揉み消してしまえるからタチが悪い。俺は自分の理性を信じていなかった。
(2020/5/24 次男君の名前が間違っていたので「アルベール」に訂正しました。)
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