第47話 勝利の女神
さて、この膠着した状態をどうやって打開しようか。下手に突っ込めば確実にカウンターを食らうし、持久戦に持ち込むにもこちらのスタミナが危うい。魔力には余裕があるが、このままの引き伸ばし戦略ではジリ貧は確実だ。こうして膠着状態を保っていられるのは、膨大な魔力と引き換えに死までの時間を引き伸ばしているからに過ぎない。
「おいガキ。お前なんでそんな強いんだ?」
俺と同じく膠着状態が気に食わないのか、長年の友人のように話しかけてくるフェリックス。答えてやる義理は無いが、打開策を考える時間も欲しいので答えてやる。
「それは俺が生まれてこの方、ひたすら鍛え続けてきたからだよ。その辺のただの子供と一緒にしてもらっちゃ困るな」
「生まれてからずっとだァ? 流石に赤ん坊の頃は無理だろ」
「ところがどっこい、真実なんだな。じゃなきゃここまで強いことの説明がつかないだろ」
「はァ〜、世の中には面白ェ奴がいるもんだな。俺ももうじき30になるが、お前みたいに強いガキに俺はあったことがねェよ」
「あってたまるか」
こちとら文字通り生まれてからひたすら鍛え続けてきたのだ。それを軽々上回られては堪らない。
「さて、そろそろ良い打開策は浮かんだかァ?」
「チッ」
どうやら情けをかけられていたようだ。奴にとっては、命が懸かっていようとこれは遊びなのだ。こっちはそんな余裕など無いというのに、狂人野郎に情けをかけられるとは俺もまだまだだな。
「残念ながら良い策は浮かばなかったよ。こうなったら最善を尽くして、あとは運に任せるしかないな」
「あァ? つまんねェヤツだな。やっぱお前は殺す。普通に殺す」
「お前どっちにしろ殺すんじゃないか。見逃すって選択肢は無いのかよ」
「あるわけねェだろ死ねェエエエエ!」
「こんのキチガイ野郎が!」
バスタードソードを槍のように構えて突っ込んでくるフェリックス。俺はそれを『縛縄』で迎え討つが、奴を捕らえるための魔力のワイヤーは簡単に斬られてしまう。
「オラオラオラオラァ! 頭と首がオサラバしちゃうぜェ!?」
「お前が娑婆からオサラバしやがれ!」
『衝撃弾』を放ちながら、横に飛んで逃げる俺。フェリックスは難無く『衝撃弾』を斬り捨てるが――。
「残念だったな」
「何っ!? ぐああっ!」
最初に放った『衝撃弾』に隠れるようにしてもう一発放っていた『炸裂衝撃弾』が奴を直撃する。通常の『衝撃弾』より威力は落ちるとはいえ、当たったらかなりのダメージを負うことは間違いない。
「まだ終わらないぞ」
俺は次から次へと『炸裂衝撃弾』を放つ。コントロールがやや難しいが、それでも5発、6発と着実にフェリックスへと当てていく。
「……俺は」
「ん?」
土煙の中からフェリックスの掠れる声がする。
「俺は、『風斬り』のフェリックスだァァァアアア!!」
叫んだフェリックスが、また立ち上がって、今度は俺の背後から斬りかかってくる。
「なっ……!」
「ぬぅぅんっ!!」
――ガキィンッッ!!
咄嗟に構えたナイフ――メイに貰ったやつだ――が重い一撃を受け止め、粉々に砕け散る。纏わせていた魔力刃が雲散霧消し、俺は丸腰になる。
「っ!」
急いでその場から離れてフェリックスと十数メートルの距離を置くが、安心はできない。奴はこのくらいの距離なら一瞬で詰めてくる。
「お前……なんでそれで立てるんだ」
「俺はなァ、獲物を殺すまでは倒れねェんだよ」
フェリックスの強さの理由はその優れた剣術もあるだろうが、それと同じくらい、この理不尽なまでの打たれ強さがあるのだろう。
特に防御に秀でている訳でもなく、鎧を身に付けている訳でもない。それでもフェリックスは何度でも立ち上がる。誰かを守るためではなく、ただひたすら己の欲望を満たしたいがために。
相手をする上で、これほど厄介な相手もいないだろう。
――まるでダークファンタジーの主人公みたいだ。動機はクソッタレだが、絶対に倒れないその姿勢は敵ながら格好いいとすら思ってしまう。
「けどお前は許せない」
奴はリリーを誘拐した。俺の許嫁に怖い思いをさせた。
だから俺は奴を許すことはない。負けることもない。
「最後だ。行くぞ」
「こっちもそろそろ限界だな。楽しいダンスを踊ろうぜェ」
「俺に男と踊る趣味は無いよ」
「はっ、やっぱつれねえ奴だ。死ね!」
「……そっちがな!」
俺の残り魔力は少ないが、肉体的なダメージはほとんど無い。対して奴はフィジカルでは俺よりも圧倒的に優位に立つが、魔力は初めからほとんど無い上に満身創痍だ。勝負は俺に分がある。
「オラァァァァァァ!!!」
「うおおぉぉぉぉぉ!!!」
俺の『衝撃弾』幕とフェリックスの「風斬り」が拮抗する。俺も奴も一歩も引かない。
「うるァァァァァァ!!!」
「……ォォォあああ!!!」
魔力は残り少ない。攻撃の余波でフェリックスの限界も近い。このままでは相討ちになる。
――だが俺は一人じゃない。俺には勝利の女神が付いている!
キラリ、と夜空に星が瞬いた。
――タァンッ
戦場に一発、銃声が響く。
「がっ…………!?」
フェリックスが頭から血を流してフラつく。そしてその瞬間を見逃す俺ではなかった。
「おらああああああ!!!!」
――ズドドドドドドドドドドォォォォンッ!!!
出し惜しみせず、ここぞとばかりに全魔力を注ぎ込んで『衝撃弾』の嵐をフェリックスにお見舞いする。
魔力を絞っていないので、一撃一撃が迫撃砲くらいの威力はあるかもしれない。あまりの威力と音で、フェリックスの悲鳴は聞こえてこない。
「………………」
土煙が晴れる。数十メートル彼方に吹き飛ばされていたフェリックスは、道路脇の壁にめり込んで気絶していた。
「勝った……」
俺は月が出ている方へと顔を向ける。そこには月明かりを浴びた鐘楼が堂々と聳え立っていた。俺は鐘楼にいるだろう勝利の
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